電気の安定供給に欠かせない「エネルギーミックス」という考え方をご存知でしょうか?あらゆる発電方式はどれも長所と短所があり、1種類で欠点のない発電体制を整えることはできません。そのため、複数種類の発電方式を組み合わせて、互いの欠点を補い合うエネルギーミックスの考え方が重要になってくるのです。
ここでは、エネルギーミックスの概要を解説し、どのような課題を掲げてエネルギー政策が進められているのかご説明します。
目次[非表示]
エネルギーミックスとは、安定的な電力供給ができるように、複数の発電方式によって電力を作ることです。以下画像は、2010年度・2018年度における電源構成と、2030年に実現を目指している電源構成を比較したものです。
*資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の見直しに向けて」
太陽光発電や風力発電、火力発電や原子力発電など、発電方式はいくつも存在します。しかし、そのどれもがメリットとデメリットを持っているため、1つの発電方式により欠点のない電力供給の体制は作れません。
たとえば、太陽光発電は二酸化炭素を排出しないため環境に優しく、発電に必要となるエネルギーは調達費用が一切かからない太陽光です。一方、発電できる時間帯は太陽が昇っているあいだに限定され、曇りや雨の日は発電量が晴れの日より低下します。
電源構成のバランスは、上記の例のような各発電方式の特性に応じて構成されており、現状はこれから解説する3つのカテゴリーに分けられて電力供給が行われています。冒頭でご説明したエネルギーミックスは、次章から解説する電源構成を「発電コスト」や「温室効果ガス排出量」の観点から、より適切な割合で整備したものだといえるでしょう。
ベース電源は、時間帯を問わず安定的に発電できる電源のことです。以下に該当する発電方式を指しており、ベースロード電源とも呼ばれます。
電力供給の基盤となる位置付けにあるため、継続的な発電を可能としつつ、発電量あたりのコストを抑えられる発電方式が適しています。東日本大震災以前は、ベース電源としての役割を水力発電と原子力発電が果たしていました。
いずれも発電の安定性やコスト面に優れており、火力発電とは違って二酸化炭素を排出しない点も評価されていました。しかし、福島第一原子力発電所事故の発生以降、安定性の観点から多くの原子力発電所が稼働停止となったため、2021年現在は水力発電所に加えて火力発電所(石炭)がベース電源の役割を担っています。なお、水力発電や火力発電に比べて発電量は大きく劣りますが、地熱発電もベース電源に分類されます。
ミドル電源は、発電コストの観点ではベース電源に劣るものの、電力需要に応じて柔軟に発電量を調整できる電源のことです。日本では、天然ガスを利用する火力発電がミドル電源に該当します。
ピーク電源は、ベース電源とミドル電源では電力が足りないとき、利用される電源のことです。電力需要に応じて発電量を調整できる点はミドル電源と共通していますが、ベース電源やミドル電源に比べてコストや継続性の観点で劣ります。
石油は多くの製品生産に使われるため材料としての需要が高く、価格は高い傾向にあります。一方の揚水式水力発電は、低所にあるダムから高所にあるダムに水を引き上げて、電力需要が大きい時間帯に放水して稼働させる発電方式であるため、継続的な発電には適していません。
日本は安全性の確保を最優先としつつ、温室効果ガス排出量と電力コストの低下、エネルギー自給率の向上を政策目標としています。これを、英語表記の頭文字を取って「3E+S」といいます。
3E+Sを実現するためには複数の課題があり、それらを解決しなければ2030年にエネルギーミックスの目標基準を達成することはできません。具体的に、3E+Sの観点からどのような課題があるのかご説明します。
エネルギー政策を進めるにあたり、エネルギー関連設備の安全性向上は前提となる課題です。とくに、福島第一原子力発電所事故によって危険性が認知された原子力発電は、設備の安全性向上とともに国民からの信頼回復が求められます。
原子力発電所の多くが稼働停止となり、燃料輸入が必要となる火力発電に電力供給を頼るため、エネルギー自給率は伸び悩んでいます。
火力発電を稼働させるために使用する化石燃料は、2019年時点で9割近くを中東からの輸入に依存しています。中東は政治情勢が不安定になりやすく、確実な調達体制の維持が難しい輸入先です。エネルギーの安定供給を図るため、化石燃料における調達先の多角化を進めることが重要視されています。
原子力発電所の多くが稼働停止となった2010年を境に、電気料金の平均単価は上昇傾向にあります。東日本大震災以前と比べて、2019年度の平均単価は家庭向け(青グラフ)が約22%高騰、産業向け(赤グラフ)が約25%高騰しています。平均単価上昇の主な要因は、発電コストが安い原子力発電に代わって、相対的に燃料費が高い火力発電に電力供給を頼っていることです。
*資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の見直しに向けて」
今後、発電コストでは火力発電に劣る再生可能エネルギーの普及に注力するため、電力あたりのコストは上昇を続ける見込みです。このような状況のなか、コストの上昇を最小限にとどめて、国民負担を抑えつつ政策を進めることが課題とされています。
2017年時点において、日本は二酸化炭素の排出量が世界第5位であり、よりシビアな基準をもって温室効果ガス排出量の削減に臨むことが求められています。3E+Sの観点では「欧米に遜色ない温室効果ガス排出目標を実現」が課題とされてきました。
そんななか、2020年10月に菅首相は「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」と、より具体的かつ高い目標設定を表明しました。菅首相の表明をきっかけとして、2021年以降は環境への適合を含む、エネルギー政策全般の目標基準が見直される見込みです。
エネルギー基本計画の第2章では、「2030年に向けた基本的な方針と政策対応」として、政策の方向性を示した4節が盛り込まれています。ここでは、膨大な情報量のあるエネルギー基本計画の概要を取り上げつつ、2030年に向けてどのように政策が進んでいるのかご説明します。
第1節では基本的な方針として、ここまでにご説明したエネルギー政策の基本的視点(3E+S)や、持続可能なエネルギー需給構造の確立、エネルギーミックス実現に向けて各エネルギーをどのように活用するのかが言及されています。基本的な方針として掲げられている4項目は、以下の通りです。
*資源エネルギー庁「第5次エネルギー基本計画の構成」
第2節では、エネルギーミックスに向けた具体的な施策の内容、現状の分析と2030年の数値上の目標設定について言及されています。いずれも3E+Sに基づいた行動計画が展開されており、資源確保の多角化や再生可能エネルギーの主力電源化、原子力発電を再稼働するにあたって解決すべき課題などを含む、11項目について記述があります。
*資源エネルギー庁「第5次エネルギー基本計画の構成」
第3節の冒頭では、エネルギーに関する技術や供給構造が現状の延長線上にある限り、以下の問題を解決できないことに触れています。
海外に依存した資源調達
大規模な温室効果ガス排出量の削減
このほか、日本が優先的に取り組むべき技術課題についてまとめられています。
*資源エネルギー庁「第5次エネルギー基本計画の構成」
第4節では、私たち国民に対し、透明性を確保しつつ情報を伝達する方法について論じられています。福島第一原子力発電所の事故以降、原子力発電の安全性に対する国民の信頼は揺らぎ、行政に対する不信感が募っていました。このような状況から、双方向に齟齬のないコミュニケーションを図るための方針が記述されています。
*資源エネルギー庁「第5次エネルギー基本計画の構成」
エネルギー基本計画の第3章では「2050年に向けたエネルギー転換・脱炭素化への挑戦」として、2050年に向けた挑戦的な計画が取りまとめられています。日本は資源の量に乏しく、以前は強みであった資源活用の技術も、新興国の成長力に押されつつあるのが実情です。経済面でも技術面でも存在感を失いつつある日本が、どのようなアクションを講じることで再起できるかといった観点から、複数の意見が挙げられています。
ただし、前述したように2020年10月に菅首相が新たな目標を掲げたため、2050年に向けたシナリオはより積極的、かつ具体的な内容に書き換わる可能性もあります。
2030年に実現を目指すエネルギーミックスについて、その全容や方針をご説明しました。複数の発電方式を組み合わせたエネルギーミックス、そして温室効果ガス排出量ゼロの実現には、私たち国民の理解や協力も不可欠です。
サステナブルガイドの最新記事