農業と太陽光発電事業を両立する「ソーラーシェアリング」をご存知でしょうか?
ソーラーシェアリングとは、農地の上に太陽光発電設備を設置し、農業と太陽光発電事業を1つの土地で行うものです。農業による収入に加えて、太陽光発電による売電収入も得られるため、農家にとって収益の安定化につながります。そのため、新規就農者が低迷している農業の業界を変えるソリューションとして農家や投資家から注目を集めています。
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改めて、ソーラーシェアリングとはなにかを詳しく解説します。
ソーラーシェアリングは、営農型太陽光発電ともいわれており、その名の通り、農地の上部に太陽光パネルを設置し、農業と太陽光発電事業を両立することです。1つの土地で2つの事業を同時に行ることから、近年は農業の新しいあり方として注目を集めています。事実、ソーラーシェアリングを設置するための農地転用許可件数は増加傾向にあり、徐々に支持を集めている様子が見て取れます。
*農林水産省「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック」
ソーラーシェアリングが注目される理由は、主に2点あります。
1つ目の理由は、昨今の急速な太陽光発電設備の普及により、発電事業に活用できる土地が減少したことで、農地が発電事業の新たな展開先として有力視されているためです。以前は3年に一度、農地における一時転用許可の延長申請が必要でしたが、2018年の制度見直しにより一時転用の期間が最大10年に引き延ばされました。
太陽光発電の電気を20年間電力会社が安定した価格で買い取る固定価格制度(FIT)は、2020年度で終了する可能性が高まっていますが、50kW未満のソーラーシェアリングの場合は、引き続きFITにより20年間買い取ってくれることになっています。かつては、FITの期間中に6回必要であった延長申請は1回に減り、太陽光発電事業を運営する際のハードルが1つ軽減されたのです。ただし、一時転用の期間延長はすべてのケースに適用されるわけではなく、以下のような規定を満たさなければなりません。
*農林水産省「営農型太陽光発電設備の農地転用許可上の取扱いの変更について」
2つ目の理由は、緩やかに減少しつつある新規就農者数の回復が見込める点です。新規就農者の減少傾向は、以下資料より読み取れます。
*農林水産省「新規就農者調査」
昨今、日本国内では耕作放棄地が増加傾向にありますが、これは新規就農者の減少と密接な関係にあります。ここでいう耕作放棄地とは、以前農地(耕地)であったものの1年以上のあいだ農作物を栽培しておらず、耕作の再開も目途が立っていない土地のことです。耕作放棄地が増加する原因としては、営農者の高齢化や収益性の悪化による部分が大きく、平たくいえば「農業に魅力を見出せない若手が多い」という状況が関係しています。ソーラーシェアリングにより農業に付随する収益力が強化されることで、放置された農地が積極的に活用される状況へと変わり、ひいては日本の農業に活気が戻るものと期待されています。
新たな農業のあり方として注目されるソーラーシェアリングは、どのようなメリットを持っているのでしょうか。ここでは、ソーラーシェアリングが有する代表的なメリットをご説明します。
農作物の生産量は、気候や災害などのコントロール不可能な要因により大きく左右されます。また、農作物の市場価格の変動も収益に大きな影響を与えます。
一方の太陽光発電は、気候や災害による影響を受けるとはいっても、農作物ほど繊細ではなく、FITが適用される20年のあいだは収益が安定しやすい構造となっています。
このように、性質の異なる2つの事業を組み合わせることになるため、ソーラーシェアリングの導入によるダブルインカムの体制は、資産としての「農地」が持つ収益力を最大に高めるだけでなく、農業の不安定さを補う理想的な形の1つだといえるでしょう。
前述したように、日本では耕作放棄地の増加が問題視されています。耕作放棄地の面積は以下のように年々増加しており、国内にある農地の生産活動は縮小の一途をたどっているのです。
*内閣府「農地・耕作放棄地面積の推移」
このように耕作放棄地が増える原因は、耕作放棄地に近しい状態である「荒廃農地」の原因を調査した、以下の統計結果から予測できます。
*内閣府「農地・耕作放棄地面積の推移」
荒廃農地の発生原因のなかには「高齢化・労働力不足」や「農産物価格の低迷」、「収益の上がる作物がない」といった課題が見られ、これらは耕作放棄地の発生原因にも同様の傾向が見られるものと予想できます。いずれにせよ、現役世代にとっての農業に対する魅力や、農業の収益性が要因となっていることは否めません。これまでであれば、工作報知機を農地転用し、太陽光発電所にするということが行われました。しかし、農地転用が難しい場合もあります。
ソーラーシェアリングは、上記のような農地転用が難しい耕作放棄地や、一般の農地において、収益性の面で新たな力を吹き込む方法となります。ソーラーシェアリングを導入することで事業全体の収益を底上げし、財政基盤が整う事によって就農に対する魅力が増加すれば、「高齢化・労働力不足」の課題は解決される見込みがあるはずです。さらに、耕作放棄地を新たに農地として活用することにもなります。
同様に「農産物価格の低迷」は安定感のある太陽光発電事業の収益により支えることが可能となり、「収益の上がる作物がない」という問題についても、ソーラーシェアリングの事例から扱う農作物を参照し、営農者自身の保有地と照らしあわせて営農計画を練り直せば改善が期待できます。
耕作放棄地を農地転用して太陽光発電事業を行うと、固定資産税が大幅に引き上げられることになり、大きな負担となります。その点、ソーラーシェアリングの場合は、基礎部分など一部のみ農地の一時転用だけで、基本的に農地を対象とした固定資産税となるため、低い税額で済みます。また、固定資産税だけでなく、相続税も変わってきます。こうしたことから、ソーラーシェアリングは税制の面でも大きなメリットがあります。
ソーラーシェアリングに利用できる代表的な融資制度として、日本政策金融公庫が実施する「農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)」があります。農業経営基盤強化資金は、認定農業者のみが利用できる農業経営改善のための融資制度。以下のような優れた条件が設けられており、認定農業者の事業を強力に後押しする内容となっています。
*農林水産省「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック」
通常、利率が2%を超えることも多い太陽光発電事業の融資に比べ、ソーラーシェアリングを支援する日本政策金融公庫の融資は極めて低水準な利率となっています。利率が低いほど、融資返済によるキャッシュフローの圧迫は軽減されるため、多額の借入を行っても負担は小さい点が魅力的です。
後述するように、ソーラーシェアリングは割高な設備費用とメンテナンス費用がネックとなるものの、農業経営基盤強化資金を始めとする低金利な融資制度を活用することで、大きな自己資金を必要とせず太陽光発電事業をスタートできます。
メリットの多いソーラーシェアリングですが、いくつかの問題点を抱えています。ここでは、場合によってソーラーシェアリングのデメリットとなる、代表的な問題点をご紹介します。
ソーラーシェアリングにおける太陽光発電設備では、発電パネルを農地の上部に設置するため、一般的な太陽光発電設備よりも背の高い状態となります。また、農作物の日光を完全に遮ってしまうことがないよう、架台に対する太陽光パネルの配置面積は少なくなります。こうしたことから、一般的な野立ての太陽光発電設備と比較すると、設備規模に比べて工数を要するため、発電容量に対する工事費用が割高になる傾向があります。
また、太陽光発電設備の設置後も、ソーラーシェアリング特有の「設備の背の高さ」がメンテナンス作業の難度を高め、メンテナンス費用についても割高になりやすいといえます。
ソーラーシェアリングは、営農を継続することを前提として行わなければならず、FITの期間である20年のあいだ売電を続けるためには最低20年間の営農が必要です。
そのため、農業に関する深い知識が必要になることはもちろん、仮に営農者本人が農業を続けられなくなったとしても営農を続けられるよう、事業を引き継げる人材や委託先を見つけなければなりません。
万が一、営農を継続できない状況になれば、一定期間の猶予が設けられたのち設備撤去の指示が下るため、農業と太陽光発電事業の知見を持った人材育成を意識する必要があります。
ソーラーシェアリングは営農の継続を前提とするため、ソーラーシェアリングを行っている土地・太陽光発電設備を売却する場合、必然的に買い手候補は営農と太陽光発電事業に関心のある事業者に絞られます。このような2つの事業を同時に手掛ける買い手を見つける行為は、農業従事者や太陽光発電投資家といった1つの事業を行う買い手を探すよりも困難です。
そのため、設備を売却しなくても事業を20年間続けられる計画を練り、売却を迫られる可能性を察知したなら即時に売却先の手配に注力する意識が重要だといえます。
ソーラーシェアリングでは農業も行うとはいえ、栽培する農作物については、なんでも大丈夫ということではありません。地域によっても異なりますし、発電パネルをどのくらいの割合で設置するのか、ということにもかかわってきます。
一般的に、強い太陽光を必要とするトウモロコシのような作物には向いていません。一方、発電パネルの割合を多くしても、日陰を好むミョウガのような作物や、光が不要なシイタケが栽培できます。半陰性、陰性の植物が向いていると考えればいいでしょう。
また、栽培しやすいだけではなく、できるだけ収益性の高い農作物を選ぶことも、収益性を確保するためのポイントとなってきます。全国的には、ミョウガ、榊、米が多く、その他には大豆、ブルーベリー、サツマイモ、茶などさまざまな農作物が栽培されています。
ソーラーシェアリングの設置には複数の条件が設けられており、これを満たせる見込みがなければソーラーシェアリングを開始することができません。以下、複数ある条件のうち、特に主要なものを挙げました。
*農林水産省「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」抜粋・改編
上記から分かるように、どのような形態であっても営農をしつつ太陽光発電事業を行えるわけではなく、ソーラーシェアリングを始めるなら多くの規定をクリアする必要があります。
ソーラーシェアリングを始めるにあたって、農業に関しては「営農計画の策定・農地の一時転用」といった手続きが、太陽光発電事業に関しては「FIT事業計画認定・電力会社の契約締結」といった手続きが必要となります。
農林水産省が公表している「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」に掲載された以下資料を参照しつつ、ソーラーシェアリング導入の流れを確認していきましょう。
*農林水産省「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」
農業に関する手続き、太陽光発電事業に関する手続きは、いずれも相談窓口や電力会社の担当に相談することが推奨されています。農業とは別に事業をもう1つ興すこととなるため、焦ることなくソーラーシェアリングの全容を理解したのち、具体的な検討を進めるよう推奨します。農業の手続きにまつわる相談窓口は「農山漁村地域循環資源活用・相談窓口」に設置されており、こちらから事業計画や栽培作物の相談が可能です。なお、ソーラーシェアリングのための農地一時転用では、通常の太陽光発電事業に求められる書類に加えて、以下の書類が必要となる点にご留意ください。
*香美市「太陽光発電施設(営農型)の設置に係る転用許可申請添付書類一覧」
ここでは、農林水産省「営農型太陽光発電について」をもとに、実際のソーラーシェアリング事例における建設費や収入、栽培している農作物をご紹介します。
(有)ファームクラブは、ソーラーシェアリングを取り入れつつ水菜やルッコラ、リーフレタスやパクチーなどの葉物野菜を栽培する法人です。
ソーラーシェアリングを収益源とするだけでなく、栽培した葉物野菜に「ソーラー野菜」のシールを付けることで商品に付加価値を与え、自社店舗を介して消費者に販売。約100名の雇用を生み出しており、障がい者や農業大学校に通う実習生の受け入れを行うなど、営農を通じて雇用拡大に広く貢献しています。
建設費の6,100万円はすべて金融機関による融資で対応し、農作物の販売とは別に売電収入として490万円/年を得ているようです。発電設備の出力、農地の面積は以下の通りです。
*農林水産省「営農型太陽光発電について」
五平山農園は、移住者から得た「地域資源を活かした太陽光発電に取り組まないのはもったいない」との助言をきっかけとして、ソーラーシェアリングを始めた農園です。
農地では5種類のブルーベリーやイチジクを栽培し、ブルーベリーの平均糖度は一般的に良品とされる水準より高い15度を実現。営農と太陽光発電事業の両立が、農作物の栽培にネガティブな影響を与えることなく実現できることを証明しています。
建設費の1,500万円は、営農者自ら設立した法人を介して地元金融機関から調達。建設費の全額を借入により支払い、200万円/年の売電収入を得ています。発電設備の出力、農地の面積は以下の通りです。
*農林水産省「営農型太陽光発電について」
千葉エコ・エネルギー(株)は、農地所有適格法であるThree little birds合同会社とともにソーラーシェアリングに取り組む法人。千葉エコ・エネルギー(株)が発電事業を行い、Three little birds合同会社が営農をする形でソーラーシェアリングが成立しています。
すでに若手農家2名とベテラン農家2名、新規就農者1名が集まっているため営農継続の問題も解決しており、今後も地域内で同様の取り組みを拡大するとのこと。建設費1,600万円のうち、1,500万円を日本政策金融公庫から調達し、200万円/年の売電収入を得ており、売電収入の一部は地域還元としてThree little birds合同会社に支払っているようです。発電設備の出力、農地の面積は以下の通りです。
*農林水産省「営農型太陽光発電について」
ソーラーシェアリングは、営農者にとっては安定した収入をもたらし、農業の新たな可能性を示してくれるものです。これにより就農者が増えることが期待されます。
また、社会的には食料とエネルギーという暮らしに欠かせないものを同時に生産するということで、大きな意味があります。そのため、海外でもソーラーシェアリングを行う動きがみられるようになりました。ソーラーシェアリングは、これからの時代の持続可能な農業のひとつの姿ともいえるでしょう。
*バナー出典元「(c) 千葉エコ・エネルギー株式会社」「(c) Chiba Ecological Energy Inc.」
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