地熱発電は、再生可能エネルギーの1つ。太陽光発電や風力発電とは異なり、安定して発電できる発電方式として注目されています。ここでは、地熱発電の仕組みやメリット・デメリット、他の発電方式との違いについてご説明します。
目次[非表示]
地熱発電は、マグマにより生じた高温の蒸気を利用し、タービンを回転させて電気を作る発電方式です。地熱発電の歴史は意外にも長く、1904年にイタリアで地熱発電実験が成功したところから始まります。日本では1919年に掘削が初めて成功し、1966年に日本初となる地熱発電所の運転が開始されました。
1996年には国内の地熱発電設備が50万kWに到達し、世界有数の地熱発電技術を持った国になりました。以降、地熱発電の発展は落ち着きを見せていましたが、東日本大震災をきっかけとして再生可能エネルギーに注目が集まり、安定的な発電を強みとする地熱発電に期待が寄せられています。
地熱発電に利用する高温の蒸気は、降雨により地面に浸透した水が地下のマグマに熱されることで発生します。地下1,000~3,000メートル付近に位置する、蒸気や熱水が溜まっている場所は「地熱貯留層」と呼ばれており、地熱発電では地熱貯留層まで井戸(生産井)を掘り、蒸気と熱水をくみ上げています。
*独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構「地熱発電のしくみ」
くみ上げられた蒸気や熱水は気水分離器により分けられ、蒸気はタービンを回すために利用し、熱水は還元井から地中に戻されます。タービンを回すために利用された蒸気は冷却されたのち、蒸気の凝縮に使われる冷却水として再び活用される仕組みです。以上が基本的な仕組みですが、地熱発電の方式は以下の2つに大別されます。
それぞれ、どのような仕組みにより稼働しているのかご説明します。
フラッシュ方式では、地熱貯留層から取り出した約 200~350℃の蒸気を使い、タービンを回して発電します。フラッシュ方式は、さらに以下の3種類に大別できます。
フラッシュ方式の種類 | 概要 |
シングルフラッシュ方式 | 気水分離器により取り出された蒸気を利用する、一般的な方式 |
ダブルフラッシュ方式 | 分離後の熱水を再び蒸気と熱水に分離し、その蒸気を一次蒸気(最初に分離された蒸気)とともにタービンに送り発電する方式 |
ドライスチーム方式 | 気水分離器が必要のない、蒸気のみが噴出する生産井を利用して、そのままタービンを回転させる方式 |
各方式のうち日本で多く採用されている方式は、以下の仕組みから構成されるシングルフラッシュ方式です。
*新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版」
バイナリー方式では、80~150℃程度の蒸気や中高温熱水を利用し、沸点の低い媒体を蒸発させてタービンを回転させます。タービンを回すために蒸発させた低沸点媒体は、凝縮器によって液化されて再利用される仕組みです。
*新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版」
バイナリー方式により、フラッシュ方式には適さない温度域の蒸気を活用できるようになりました。なお、低沸点媒体として使われる媒体には、100℃以下で沸騰する炭化水素・代替フロン・アンモニアなどの液体が用いられます。
資源エネルギー庁の公表する電力調査統計などをもとに、環境エネルギー政策研究所が作成した資料によると、2019年度における日本全体の電源構成は以下のようになっています。
*環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」
再生可能エネルギーのなかでも、地熱発電は特に割合が小さく、2019年時点ではわずか0.2%にとどまっています。ただし、地熱発電は2030年に電源構成の1~1.1%を担う予定となっているため、今後さらなる開発が進められるものと考えられます。なお、2017年時点の情報を示す以下のデータから、世界全体でも地熱発電が担っている発電量の割合は小さいことが分かります。
*資源エネルギー庁「持続可能な木質バイオマス発電について」
普及率の伸び悩みは地下情報の不足、調査精度の低さといった要因もありますが、そもそも地熱資源に乏しい場所では導入量に限界があります。ただ、日本は環太平洋造山帯に位置しており、地熱資源が豊富です。活用可能な地熱資源は約2,347万kWに相当し、これは世界第3位の資源量にあたるため、日本においては今後の導入拡大に期待が寄せられます。
ここでは4つの観点から、地熱発電のメリットについてご説明します。
あらゆる発電方式のなかでも、地熱発電は特に二酸化炭素の排出量が少ない傾向にあります。
地熱発電のライフサイクルCO2は、1kWhあたり13グラムとなっており、他の再生可能エネルギーと比べて低い水準にあることが分かります。二酸化炭素の排出量削減は地球温暖化の防止につながり、ひいては生態系の崩壊や異常気象の抑制につながるため、環境保全の観点で優れた発電方式だといえます。
地熱発電は、地中深くにあるマグマにより生じた熱をエネルギー源とするため、エネルギーが枯渇することはありません。火力発電に使われる化石燃料や、原子力発電に使われるウランのように、限りある資源を利用するわけではないため、半永久的に発電できる点はメリットです。
地熱資源は安定して取り出すことが可能であり、地熱発電の発電量は天候・季節に左右されません。発電量を日射量に依存する太陽光発電や、風量に左右される風力発電と比べたとき、安定した稼働率を維持できます。
日本は石炭や石油、天然ガスの大部分を輸入に頼っており、エネルギー自給率が低いことで知られています。ただし、発電に利用可能な資源がまったくないわけではありません。
前述の通り、日本は環太平洋造山帯に位置しており、世界で3番目に多くの地熱資源を有しているのです。地熱資源を最大限活用できていないのが現状ですが、地熱発電は潜在的な可能性を持っている発電方式だといえます。
一見すると多くの利点を持っている地熱発電には、どのようなデメリットがあるのか4つの観点からご説明します。
地熱発電は発電効率が10~20%程度です。この数値は太陽光発電や木質バイオマス発電と同程度であり、発電効率が80%程度の水力発電や、発電効率が20~40%ある風力発電に比べて劣ります。
地熱資源は地下深くにあり、高精度な調査が困難です。そのため、井戸を掘削する位置の選定が難しく、開発後にも想定通りの蒸気を確保できないなどのリスクが存在します。
資源エネルギー庁が公開する「地熱資源開発の現状について」によると、開発の初期段階における掘削の成功率は3割程度。太陽光発電や風力発電を始めとする、他の再生可能エネルギーに比べて不確実性が大きく、開発にリスクを伴う点は地熱発電のデメリットです。
地熱発電は開発段階で複数の井戸を掘削しなければならず、掘削にかかるコストは1本につき数億円にのぼります。井戸の掘削費用は、地熱発電の開発費用における約3割を占めており、前述した掘削成功率を考えると成果に対して非常に高コストです。
また、すでに送電線がある街中ではなく山間部に建設される都合上、送電線の建設にも大きなコストがかかります。試算では、3万kWの地熱発電所であれば調査・開発に約73億円、地上設備の建設に約183億円がかかる見込みです。開発期間も10年以上を要するため、費用や時間の面で多大な負担が発生するデメリットがあります。
地熱資源のある場所の多くが、開発に制限がある国立公園であったり、景観を損ねると来客減少が懸念される温泉地であったりします。「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版」で取り上げられた課題のなかにも、日本における150℃以上の地熱資源のうち約80%強が、開発を実施できない国立公園の特別保護地区・特別地域にあることが挙げられました。
以上のように、開発に適した場所であるにもかかわらず、開発に制限が課せられるケースが多いことは地熱発電における導入拡大の足かせとなっています。
1996年以降、地熱発電の発電容量は約50万kWにとどまっていますが、政府は2030年に発電容量を約150万kWにまで拡大することを目指しています。目標達成にあたり、特に以下課題の解決へ注力することが求められるでしょう。
上記課題の解決を進めつつ150万kWに拡大しても、日本の地熱資源量の6.4%しか使っていないことを考慮すれば、地熱発電は多大な将来性を秘めていることが分かります。
地下深くにある高温の蒸気や熱水をくみ上げ、タービンを回して発電する地熱発電についてご説明しました。複数の課題があり導入拡大は進んでいませんが、日本にある豊富な地熱資源を活用できる発電方式であるため、今後の技術開発や普及促進の動向に注目が集まります。
サステナブルガイドの最新記事