環境問題への関心の高まりから、日本国内でも広く知られるようになった電気自動車。地球に優しいイメージがある一方で、「発電や製造時に二酸化炭素を排出する」「バッテリーで使用するレアメタルを採掘するためには森林伐採を行う必要がある」など、一部では環境の悪化を指摘する声もあります。
電気自動車は、本当に環境問題を解決するために必要なものなのでしょうか?ここでは、電気自動車のメリットやデメリット、脱炭素化に電気自動車が必要とされる理由についてご説明します。
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電気自動車とは、蓄えられた電気をつかってモーターを動かし走行する車のことです。従来の車と違って電気自動車にはエンジンが搭載されておりません。走行時に二酸化炭素を排出しないため、電気自動車は環境に優しいといわれています。
電気自動車の動力源である電気は、車内に搭載された駆動用バッテリーに充電されます。このバッテリーはエンジン車でいう燃料タンクです。バッテリーの容量が大きいだけ、当然走行できる距離も伸びます。
しかしバッテリーに蓄えられた電力は直流電流のため、そのままでは走行できません。そのため、電気自動車の中には直流電流を交流電流に変えるインバーターという電気回路部品が内蔵されています。このインバーターを経ることでモーターを動かすことができるようになり、電気自動車の走行が可能になります。
モーターには、交流モーターと直流モーターがありますが、「綿密な制御が可能」「電力のロスが少ない」「耐久性があって壊れにくい」といった理由から、電気自動車には交流モーターが採用されることが多いです。
ハイブリッド車と電気自動車の違いは、「動力源」「燃料」「モーターへの充電方法」「二酸化炭素の排出」です。電気自動車の動力源はモーターだけですが、ハイブリッド車にはエンジンとモーターの2つの動力源があります。燃料に関しては、ハイブリッド車の燃料は電気ではなくガソリンです。
また、ハイブリッド車のモーターはEVと異なり、走行中の余ったエンジンパワーや減速時のタイヤの回転で充電を行います。ハイブリッド車は加速時や低速での走行時には燃費がいいモーターを使い、ある程度の速度に到達するとエンジン走行に切り替わるのが特徴です。これによって燃費を向上させています。
そして電気自動車は二酸化炭素を排出しませんが、ハイブリッド車は二酸化炭素を排出します。
ここからは電気自動車に乗るメリットとデメリットを説明します。
電気自動車はエネルギー効率が高いため、燃料費を安く抑えられます。年間10,000kmを走行する場合に必要な年間燃料費を、軽自動車と比較してみました。
上記のケースであれば、電気自動車は軽自動車の半分近くしか燃料代が発生しないことがわかります。車に乗る機会が多い方や節約したい方には電気自動車がおすすめです。
エンジン車と比較すると、電気自動車はメンテナンスコストが安いです。まず、エンジンがないためオイル交換の必要がありません。それ以外にもラジエーターのクーラントやエアクリーナー、ベルトやブレーキパッドなどの交換も不要です。こういった点から、電気自動車はエンジン車よりもメンテナンス費用が安いことがわかります。
電気自動車本体からは、二酸化炭素を排出しません。発電用の電気や本体の製造時には二酸化炭素を発生するので、一部では「トータルで考えるとエンジン車と比べて二酸化炭素排出量が変わらない」といわれていました。
しかし、オランダのアイントホーフェン工科大学の研究 によって「エンジン車よりも二酸化炭素排出量はかなり少ない」ということがわかったのです。トータルで考えても電気自動車の方が二酸化炭素排出量は少ないので、環境への負担を軽減することができます。
以下は、電気自動車の充電に必要な時間です。(走行距離80km・160kmの場合)
走行距離 | 急速充電 | 普通充電 200Vケーブルあり | 普通充電 200Vケーブルなし |
80km | 約15分 | 約4時間 | 約8時間 |
160km | 約30分 | 約7時間 | 約14時間 |
電気自動車は80km分の充電でも15分はかかりますが、ガソリン車の給油はたったの数分で給油が完了します。
急いでいる場合でも、ガソリン車のようにすぐに燃料の補給を終わらせることはできません。
充電スタンドの設置数は、全国約21,000箇所。(2021年7月末時点)国や自治体のサポートもあって、充電スタンドの数は増えているものの、ガソリンスタンド(約30,000箇所)の数と比較すると、まだまだ不足している状況です。外出先で充電切れを起こしたときに、すぐに充電スタンドがみつからない可能性があります。
フル充電の状態から充電がなくなるまでの距離を「航続距離(または航続可能距離)」と呼びますが、電気自動車はガソリン車と比べて航続距離が短い傾向にあります。
電気自動車の代表格「日産・リーフ」の航続距離は、最新型でも最大458kmです。しかし、軽自動車で最小のタンク容量(25L)である「ホンダ・N-BOX の4WDモデル」でも、635kmは走行することができます(※リーフ・N-BOXともに理論値)。旅行などで長い距離を運転する場合は、電気の残量に注意しなければいけません。
日本の電気自動車の普及状況は、以下のとおりです。(2019年実績)
世界における電気自動車の普及率です。
順位 | 国 | 普及率(2020年) |
1位 | ノルウェー | 75% |
2位 | アイスランド | 50% |
3位 | スウェーデン | 30% |
4位 | オランダ | 25% |
電気自動車の普及率は、ノルウェー、アイスランド、オランダの順に多いです。すべて北欧の国であり、日本と比べてヨーロッパは電気自動車への意識が高いことがわかります。市場規模では、中国(約120万台)、アメリカ(約29万台)の順に大きく、EU全体を含める場合はEU(約140万台)が最大です。
世界トップ20の自動車メーカーのうち18社は電気自動車の生産を拡大するほか、大型車メーカーも完全電動化を目指しています。したがって、世界的なEV化は今後さらに加速していきます。
ノルウェーの普及率が高い理由は、大きく3つあります。
ノルウェー政府は、車両購入税や道路使用税の免除、市営駐車場の駐車場料金無料化(一部)やバスレーン走行の認可など、さまざまな援助を行っています。ノルウェーは北欧に位置するために気温が低く、エンジン車に備わった電熱器を使ってエンジンの始動や冷却水の凍結防止する必要がありました。どこでも電熱器を使用できるように、各家庭や公共駐車場には電源コンセントが設置されていたのです。
石油と天然ガスの収益によって、世界有数の富裕国になった国でもあります。電力の90%以上を水力発電でまかなえているため、電気自動車を普及させることで石油をさらに輸出することができます。以上の理由により、ノルウェーは世界で最も電気自動車が普及しているのです。
脱炭素化に向けてEVの普及が求められる理由。それは電気自動車の本体からは、二酸化炭素が排出されないからです。
そもそも脱炭素化とは、「地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出をゼロにすること」です。地球温暖化の原因は温室効果ガスの増加であり、温室効果ガスには太陽からの熱を封じ込めて地表を暖めてしまう効果があります。
温室効果ガスには、フロンガス、メタン、一酸化二窒素、二酸化炭素などの種類がありますが、中でも二酸化炭素が最も地球温暖化に影響を与えるとされています。脱炭素化を実現するには二酸化炭素排出の抑制が不可欠であり、二酸化炭素は石油や石炭といった化石燃料を燃やすことで発生します。電気自動車は走行に化石燃料を必要としないことから、世界的な普及が求められているのです。
以下は、主要国の今後の動向です。
国 | 年 | 目標 |
日本 | 2030年代半ば | ・ガソリン車の販売を禁止 |
2050年 | ・脱炭素社会の実現 | |
EU | 2030年 | ・ゼロエミッション車3,000万台 ・欧州100都市の二酸化炭素排出実質ゼロ |
2050年 | ・二酸化炭素排出実質ゼロ ・欧州の鉄道貨物を2倍に増やす | |
中国 | 2025年 | ・新エネ車の割合を5%⇒20%へ |
2035年 | ・EVやハイブリッドなどの環境対応車のみを販売 | |
アメリカ | 2030年 | ・ゼロエミッション車の新車販売を30%に |
2050年 | ・中型・大型車の新車販売を100%ゼロエミッション車に |
上記は連合・国単位ですが、地域によって目標が異なる場合もあります。EU加盟国のノルウェーは2025年までにガソリン車の販売を終了する目標であり、アメリカ・カリフォルニア州は2035年までに同州で販売する新車をすべてゼロエミッション車(温室効果ガスを出さない車)にする計画があります。
日本では、東京都が国の目標よりも約5年前倒しの2030年までにガソリン車の新車販売をなくす方針を打ち出しています。
電気自動車が普及しないのは、「車両価格が高い」「充電場所が少ない」という2つの問題があります。つまり、電気自動車を普及させるには次の3つの課題を解決する必要があります。
現在流通している電気自動車は、普及価格とはいえません。電気自動車とガソリン車を比べると、電気自動車の方が高額だからです。実際に、日産のリーフとノートの車体価格を比べました。
車種 | グレード | 分類 | 車体価格 |
リーフ | 40kWh | 電気自動車 | 332万円~ |
ノート | S | ガソリン車 | 144.7万円~ |
リーフは、ノートの2倍以上も高額であることがわかります。現在は補助金制度によって負担が抑えられていますが、今後も補助金制度が継続するのかはわかりません。電気自動車の低価格化は「コバルトの不使用」が大きな課題であり、ガソリン車並みの水準まで下がることが期待されています。
電気自動車の車体価格の約3分の1を占める「リチウムバッテリー」には、高価な希少金属(レアメタル)のコバルトが使用されています。しかし、以下の要因からコバルトの取引価格は上がり続けています。
日本国内では、パナソニック や日産が現在5%以下のコバルト比率をゼロにする開発を進めていますが、実現には数年の期間を要します。
航続距離の延長には、パワー半導体の高性能化が不可欠です(※パワー半導体:高電圧・大電流に対応できる半導体のこと)。量産EVの航続最高記録は、テスラ社の「モデルS」という車種が達成しています。2017年の計測ですが、1回の充電で1,078kmを走行しました。
テスラ社は、シリコン(Si)で構成される従来型のパワー半導体を炭化ケイ素(SiC)に置き換えたことで、継続距離を大幅に伸ばしたのです。パワー半導体の開発は日本メーカーが得意な分野なので、今後の技術革新に期待が寄せられています。
電気自動車の充電設備は、ガソリンスタンドの数よりも拡充する必要があります。ガソリンスタンドの約6割まで拡充しているものの、充電設備ならではの問題を抱えているのも現状です。
電気自動車の普及が進むと、「充電渋滞」が発生する恐れもあります。利用客の多いサービスエリアやパーキングエリア、ショッピングモールなどは混雑し がちです。上記の問題が解消されることで、電気自動車の充電切れの不安から解消されます。
今回の記事では、世界的に普及しつつある電気自動車について説明しました。電気自動車には解決できていない課題も多く、電気自動車のすべてが環境に優しいとはいえません。しかし、今後の技術革新によっては、環境問題解決の糸口になるのではないでしょうか。
自動車業界は今後、ますます電気自動車の普及が進みます。国や自治体の補助金制度もあるので、興味のある方は一度、電気自動車の購入を検討されてみてはいかがでしょうか。
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