スマートシティとは?持続可能な社会の実現に向けて | EnergyShift

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スマートシティとは?持続可能な社会の実現に向けて

スマートシティとは?持続可能な社会の実現に向けて

2021年03月02日

都市部が抱える諸課題を解決し、持続可能な都市として機能する「スマートシティ」をご存知でしょうか?地方から都市部に人口が集中する昨今、急速に損なわれる都市部の居住性を守るため、スマートシティ開発は各国で注目されています。この流れは、日本や欧米といった先進国はもちろん、急激な人口増加が起こっている新興国にも広がっており、いまやスマートシティ開発は世界共通の課題です。
ここでは、スマートシティの定義や注目されている理由、私たちの生活にどう影響するのか事例を交えつつご説明します。

スマートシティとは?

国土交通省は、スマートシティの定義を「都市の抱える諸課題に対して、ICT(情報通信技術)等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」としています。

  • エネルギー問題分野
  • 環境分野
  • 情報化社会
  • 社会基盤の構築

スマートシティは上記の領域がそれぞれ関わりあった概念であるものの、エネルギー利用の効率化や省エネなど「エネルギーの観点で持続可能な都市」を作る取り組みをスマートシティと指すケースが多々あります。いまでは広く知られている再生可能エネルギーやスマートグリッド(次世代送電網)は、スマートシティを実現するうえで必要不可欠な要素の1つです。

スマートシティが注目されている理由

世界的にスマートシティが注目されている背景には、人口集中により負荷がかかっている都市部の実情が関係しています。
2018年、国際連合は「2050年に人口の68%が都市部に集中する」と公表しており、都市部人口は2050年時点で25億人になると予想されています。これは日本も例外ではなく、地方では高齢化と過疎化が同時に進み、現役世代は都市部へ集中している様子を問題視する機会は増えました。
都市部に人口が集中すれば、増加した人口に比例してエネルギー消費は大きくなるため、いかに効率的なエネルギー供給ができるかが課題となります。このような背景からスマートシティが注目され、具体的な開発が急がれているのです。

スマートシティが実現すれば、先進国における従来型のインフラはより効率的に運用され、新興国も爆発的な人口増加にかかわらず居住性を損なわない開発が可能となります。つまり、日本や欧米のような先進国では「スマートシティ=都市の再開発」として、中国を始めとする新興国では「スマートシティ=次世代都市の新設」として捉えられていると考えて良いでしょう。
なお、昨今のスマートシティ開発では「分野横断的な全体最適」がスローガンの1つとなっており、下図のように複数の分野が連携を取ることで、効率的に都市機能を高めることを目標としています。

*国土交通省「データ、新技術を活用したまちづくりについて

いずれにせよ、スマートシティの実現は多くの国において「効率的で無駄のない都市開発」に寄与し、不用意にエネルギーを浪費する持続可能性の欠けた都市開発を回避するために役立ちます。

スマートシティ実現に向けた日本での取り組み事例

ここでは、スマートシティ開発にまつわる日本の取り組み事例をご紹介します。

静岡県裾野市(トヨタ自動車株式会社)の事例

トヨタ自動車株式会社は、実験都市を開発するプロジェクト「コネクティッド・シティ」を発表し、最先端技術を実際の生活に導入・検証するための都市開発に着手しています。コネクティッド・シティで開発される街は「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付けられ、静岡県裾野市にある2020年末に閉鎖予定の工場跡地を利用し、約2,000人が居住する都市になるようです。
ウーブン・シティには以下のような技術を盛り込むと公表しており、ゼロからスマートシティが作られる画期的な国内事例となります。

  • 自動運転
  • モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)
  • パーソナルモビリティ
  • スマートホーム技術
  • ロボット・人工知能(AI)
  • 再生可能エネルギー(太陽光発電)

街に用意される道は、高速で走る車両専用の道と歩行者・パーソナルモビリティ(1人用の移動支援機器)が移動する道、公園内歩道のような歩行者専用として設けられた道の3つに分けて建設されます。このほか、街のインフラがすべて地下に設置される点や、完全自動運転の「e-Palette」が人の輸送・モノの配達を担当し、ときに移動式の店舗としても機能する点が特徴的です。
なお、ウーブン・シティはサステナビリティを意識した街であるため、建物にはカーボンニュートラルな木材が利用され、屋根には再生可能エネルギーを生み出す太陽光発電パネルが設置されます。街に住む人々は、AIによる健康状態チェックなどの新技術の体験者として過ごすこととなり、すべてにおいて従来型の街とは異なる形で運用される計画です。

福岡県北九州市の事例

福岡県北九州市は、2010年から2016年までプロジェクト「北九州スマートコミュニティ創造事業」のもと、特にエネルギーマネジメントの分野に注力しました。以下のようなエネルギー効率の最適化に有用な技術を積極的に導入し、省エネ装置の活躍を主として10%程度の省エネ効果を達成しています。

  • CEMS
  • BEMS
  • HEMS
  • FEMS
  • 太陽光
  • 蓄電池
  • 水素燃料電池

同市は2020年にNTTドコモと連携協定を交わしており、市を挙げて5Gやビッグデータの活用により力を入れるなど、北九州スマートコミュニティ創造事業を終えたあとも引き続きICT活用に力を入れている様子です。また、北九州市小倉北区の城野地区では「城野ゼロ・カーボン先進街区(BONJONO/ボン・ジョーノ)形成事業」が実施されています。
同事業ではゼロ・カーボンを目指した街づくりが進められており、具体的な目標として「新規住宅のCO2削減率100%以上達成(戸建住宅100%以上・集合住宅60%以上)」という条件が設けられ、太陽光発電によるエネルギー創出とエネルギーマネジメントシステムによる省エネの活用によって、街全体が効率的にマネジメントされるようです。

神奈川県横浜市の事例

神奈川県横浜市は、2010 年から始まった「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を通じて、2013年までに4,200件のHEMS、37MWの太陽光パネルや2,300台の電気自動車を導入するなど、すでに大規模な成果を達成しています。
2015年からは「横浜スマートビジネス協議会概要(YSBA)」がスタートし、温室効果ガスの実質排出ゼロを目指して「仮想発電所(VPP)」の構築が進められています。VPPが実現すれば、あらゆる発電設備・蓄電池・電気自動車を高度なエネルギーマネジメント技術によって統合制御することが可能となり、電力の需給調整が最適化されるためエネルギー面の課題が多く解決する見込みです。

東京都港区(東急不動産株式会社・ソフトバンク株式会社)の事例

東急不動産株式会社とソフトバンク株式会社は、最先端技術を竹芝地区(東京都港区)に活用するスマートシティの共創を計画し、スマートシティのモデルケース構築を試みています。具体的な取り組みの1つとしては、以下のようなあらゆるデータをリアルタイムに収集し、時刻や個人の位置情報といったデータと関連付けることで、同地区に滞在している人のサポートを行うアプリケーションを提供するとのこと。

  • 環境の変化(温度・二酸化炭素の濃度など)
  • 歩行者の滞留状況
  • 設備の不具合
  • 公共交通機関の遅延状況

たとえば、建物内部の映像解析によって不審者が発見された場合、設備の不具合が検知された場合には、それらの対処を専門とする近場のスタッフに通知されます。結果として、大きな問題が発生するまえに事前の情報共有が可能となり、先手を打った行動が可能となるのです。
また、同地区内の混雑状況を取得し、公共交通機関の遅延状況をもとに代替手段の案内につなげたり、理想的な通勤時間を提案できるようになったり、さまざまな活用方法が期待されています。
なお、アプリケーションの提供以外にも、電力消費やセキュリティ性に優れたスマートビルや5G(第5世代移動通信システム)、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった今後期待されている分野の検証を、竹芝地区で進めていく見込みです。

千葉県柏市の事例

千葉県柏市は、3つのテーマを掲げて日本が抱える課題の解決にチャレンジしています。

  • 環境共生都市
  • 新産業創造都市
  • 健康長寿都市

このような枠組みは柏の葉スマートシティと呼ばれており、千葉県柏市は今後世界が直面する課題を解決する先駆けとなるため「公・民・学」を連携させた街づくりを目指しています。

北海道札幌市の事例

北海道札幌市は、プロジェクト「DATA-SMART CITY SAPPORO」を発足し、官民が保有するあらゆるデータをイノベーション創出のきっかけとするためのコンテンツに再構成。札幌市ICT活用プラットフォームを公開して、気軽にオープンデータやビッグデータを検索・ダウンロードできる体制を構築しています。

*北海道札幌市「DATA-SMART CITY SAPPORO

上記のような、各分野のデータへ手軽にアクセスするための「データカタログ」を始め、市内の現状をグラフ・マップで視覚化した「ダッシュボード」や行政データの共有をリクエストできる「データ活用アイデア」などの機能が設けられています。

香川県高松市の事例

香川県高松市は、持続的に成長するスマートシティを目指した「スマートシティたかまつ」のプロジェクトを推し進めています。
観光分野では、レンタサイクルにGPSを取り付けることで外国人観光客を把握し、国籍による傾向をもとに顧客対応を最適化するなど、市内の観光資源を最適化するための取り組みを行っています。防災分野では、水位・潮位を計測できるセンサーを河川や海岸へ設置し、水害被害を最小化するための手段として活用。
これらのほか、高齢者の危機回避にウェアラブル機器を利用したり、交通事故を抑制するためにドライブレコーダーから収集した情報を活用したり、ICT技術を積極的にもちいることで市民・観光客が快適に過ごせる街づくりを推し進めています。

福島県会津若松市の事例

福島県会津若松市のプロジェクト「スマートシティ会津若松」では、以下のような視点を意識した街づくりが進められています。

  • 地域活力の向上
  • 安心して快適に生活できる環境構築
  • 街を見える化(視覚化)し、開発へ活用

3つの方向からアプローチすることで市内が活性化し、下図のように伝統を維持しつつ各産業・人材育成・居住性に好影響が及ぶと期待されています。

*会津若松市「スマートシティ会津若松

具体的な取り組みとしては、外国人向けのホームページである「Visi+ Aizu」を通じた発信、市内に企業を誘致するサテライトオフィスの誘致事業、会津大学の先端 ICT ラボ「LICTiA」を利用したアナリティクス(データ分析・活用)人材の育成といった活動が行われています。

埼玉県さいたま市の事例

埼玉県さいたま市は、浦和美園地区を中心として「スマートシティさいたまモデル」の構築を目指しています。
なかでも、予約システムによって公共交通機関等の最適化をはかったり、消費活動を促進しつつ徒歩や自転車による移動を動機付けたりといった、先進的な交通体系を構築する「美園スマートモビリティデザイン」が注目を集めています。2019年8月には自動運転バスの実証実験が実施され、理想的な交通システムの実現へ着実に近付いているようです。
2020年度の予算案では、前年度に比べて7,000万円ほど多い金額がスマートシティの取り組みに割かれており、やはりモビリティサービスの分野に対して注力するような記述がなされています。

兵庫県加古川市の事例

兵庫県加古川市は、子育て世代の支援を意識した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を推し進めています。いくつか実施されている事業のうち、加古川市の専用アプリ「かこがわアプリ」に備わっている子どもの見守り機能は、市内における子どもの安全性を向上する素晴らしい施策です。見守り機能は、通学路や学校周辺にカメラや検知器を設置し、通学時や外出時の子どもを見守る体制を構築したものです。街中に立っている電柱のほか、市内を走る100台以上の郵便車両に設置された検知器は、子どもに取り付けた「見守りBLEタグ」に反応し、子どもの家族や見守りボランティアの参加者が専用アプリから子どもの位置情報を把握できる仕組みとなっています。

このほかにも、市内を走る「かこバス」の現在位置がスマートフォンから把握できたり、住居や滞在場所に応じて重要情報をプッシュ通知により受信できる体制を用意したり、ICTを積極的に利活用する姿勢がうかがえます。

スマートシティの開発に積極的な海外事例

経済大国でありスマートシティ開発にも強い関心を示しているアメリカと中国、先進的な取り組みを行なっているアラブ首長国連邦の開発状況をご紹介します。

アメリカ(ニューヨーク州)の事例

スマートシティの先進地域として知られるアメリカのニューヨーク州では、パリ条約により規定される水準を超えた温室効果ガスの削減を目指す「NYC グリーンニューディール」が推し進められており、2030年までに30%ほどの温室効果ガス排出量カットを計画しています。具体的には、140億ドルの投資を行い、再生可能エネルギーの拡大や建築物改修を施策として行うようです。くわえて、以下のような規定・目標を設けることで、2050年度までにカーボンニュートラル(炭素の収支ゼロ)を目指すとしています。

  • すべての大型建築物において温室効果ガス排出量の削減を義務化
  • 新規ガラス建築を禁止(厳格な性能ガイドラインにより判断)
  • 市の電力を100%クリーン化

大型建築物における温室効果ガス削減の義務化は世界で初めての取り組みとなり、市内に存在する5万件の大型建築物はエネルギー効率の改善が求められます。この取り組みだけでも、約10%の温室効果ガスが削減されると見込まれており、計画の進捗や成果に注目が集まります。

中国(北京市・深圳市・重慶市)の事例

中国では首都の北京市を始め、深圳市や重慶市がスマートシティ開発に注力しており、すでにICTを活用して市民の体験や都市インフラのレベルを高める施策が行われています。北京市では公共サービスの合理的な運用を目的として、暗号資産(仮想通貨)にも使われるブロックチェーン技術を活用したモバイルアプリ「北京通」を提供。アプリユーザーは北京通を利用することで身分証明書の発行や公共料金の支払い、役所の訪問予約といった手続きがオンライン上で行えます。
ブロックチェーン技術はデータ改ざんの対策として強い効力を持っており、その特性を生かして公共サービスの利用を補助するほか、主要な検索サイトや決済サービスとも連携しています。北京市と同様に、深圳市でも行政関連のサービス利用を助ける「我的深圳」を提供し、手続きのオンライン化を進めているようです。
一方、重慶市は市内のスマート制御に注力しており、各所に配置されたIoT機器とビッグデータを活用することで、職員の巡回や市民から受け取った情報に頼らない市の運営管理を実現しました。市内にあるインフラの稼働状況は常時監視・制御され、ネットワークに接続された信号機をもちいて交通をコントロールしたり、1万箇所を超える多くの電灯を制御したりといった、実用的なスマートシティ開発が進んでいます。

アラブ首長国連邦(ドバイ市)の事例

ドバイでは、ドバイを世界で最も幸せな都市にするという目的のもと「スマートドバイ 2021」が推し進められています。遠隔医療やドローンタクシーの開発・導入、政府機関の申請や支払いのオンライン化など、ICTを積極的に取り入れて画期的な施策に取り組むドバイは、スマートシティ実現の一環として警察組織の改革にも力を入れている点が特徴的です。
ドバイ警察には、ドローンを搭載した自動運転のパトカーが導入されており、赤外線画像装置やレーザースキャナーなどの技術を活用した、先進的な容疑者の検知・追跡システムを実装しています。自動運転パトカーに搭載されたドローンは警察署から操作できる設計となっており、遠隔コントロールによって自動車では移動が難しい場所であっても追跡が可能です。
自動運転パトカーの大量導入を進めるほか、ドバイ警察ではロボット警察官の導入にも力を入れ、2017年にはロボット警察官「Robocop」が採用されています。ドバイはこうした施策により、2030年までに警察業務の25%を自動化することを目標としており、スマートシティの1つのあり方として注目を集めています。

スマートシティの実現に向けて

ICTの分野は急速に開けつつあり、数年前には想像できなかった技術がどんどん登場しています。その結果、以前は構想でしかなかったスマートシティ開発が現実的なものとなりつつあり、前述したようにアメリカや中国を始めとする意欲的な国・地域は近未来的な都市開発を進めてきました。
しかし、技術的には可能に思われるスマートシティ実現も、実際に計画立てて遂行するにあたり多くの課題を抱えています。主要な課題としては、以下が挙げられるでしょう。

  • プロジェクトの遂行にかかる費用・時間が大規模である
  • 市民のニーズと都市開発の計画のすり合わせが難しい
  • 先例は決して多くないため、マネジメントの難度が高い
  • 相互運用性に優れているシステムの構築が求められる
  • 協調すべき領域と競争すべき領域の見極めの難しさ

上記の課題解決を経て、スマートシティの実現は達成されるため、いまだ多くの地域が二の足を踏んでいるのが現状です。

おわりに

地方から都市部へ人口移動が起こっている先進国、都市部を中心に人口が急増している新興国にとって、スマートシティ開発は共通の目標であり課題です。スマートシティの実現は容易に達成できる目標ではなく、多くの地域がいまだ道半ばの状況にあるものの、持続可能な社会を創造するためには避けて通れません。 日本、そして世界で行われる取り組みに、今後も期待が集まります。

EnergyShift編集部
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