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ワンヘルス

コロナに次ぐパンデミックを防ぐ「ワンヘルス」という考え方

2021年10月15日

「新型コロナウイルス感染症の世界の状況報告」によると、2021年10月3日時点で新型コロナウイルスの累積感染者数は2億3,400万人を超えており、累積死亡者数は480万人超にのぼっています。

このような深刻な被害をもたらしている新型コロナウイルスが、動物由来の感染症であることはご存知でしょうか。新型コロナウイルスに似たウイルスがコウモリから検出されており、コウモリから別の動物を経由して変異したのち、人間に感染した可能性が挙がっているのです。

ほかにも動物から人間に伝播する感染症は多く、人間と動物の健康状態は密接な関わりがあると考えられてきました。本記事で解説する「ワンヘルス」は、動物由来の感染症を防止することで私たちの健康や世界経済を守るための考え方です。いま注目を集めるワンヘルスについて、一緒に学んでいきましょう。

ワンヘルスとは

ワンヘルスとは、人間と動物の健康は1つである(密接につながっている)とする考え方です。要するにあらゆる生物の健康へ配慮することこそが、人間の健康維持に効果を発揮するともいいかえられるでしょう。

昨今、世界全体で流行している新型コロナウイルス感染症は、動物から人間に感染する「動物由来感染症」です。新型コロナウイルス感染症以前に流行したものであれば、エボラウイルス・MERS・SARSなども動物由来感染症の一種ですから、重篤度の高い感染症において人間と動物は密接に関係しているといえます。

動物由来感染症の伝播には、噛み傷・ひっかき傷などを通じて直接感染する「直接伝播」と媒介物を通じて感染する「間接伝播」があり、間接伝播はさらに以下の2つに分類されます。

  • 動物の病原体を節足動物が運ぶことで人間に伝播する(ベクター媒介)
  • 動物の病原体が水・土などの周辺環境を通じて人間に伝播する(環境媒介)

ベクター媒介はダニ・蚊などの節足動物による伝播が該当し、環境伝播は汚染された水・土壌・空気との接触や十分に加熱されていない食品の摂取による伝播が該当します。以上から人間と動物の健康は密接に関わっているといえるため、ワンヘルスの考え方は私たちの健康維持の観点から重要な役割を担います。

ワンヘルスに期待される効果

ワンヘルスアプローチに期待される主な効果は、以下の3つが挙げられるといえます。

  • 感染症リスクの抑制
  • 生物多様性の保持
  • 経済的損失の軽減

人間に感染する病原体の60%、そして新興感染症の75%は動物由来感染症であるため、ワンヘルスの観点から生態系の健康状態へ配慮することには多大なメリットがあります。分かりやすいところであれば私たちの感染症リスクが抑えられ、あらゆる動物の健康状態も管理するため生物多様性が保たれやすくなるのです。

また、ワンヘルスには経済的損失の軽減が期待されます。新型コロナウイルス感染症によりもたらされる世界全体の名目GDPにおける損失額は、2020~2021年のあいだだけでも12.5兆ドル(約1,300兆円)程度にのぼるとのこと。

2020年における先進国の経済成長率は、5~10%程度の下降が見込まれる事態となり歴史的なマイナスとなりました。一方、パンデミックを未然に防止するために必要となる費用は、パンデミックによる被害額の100分の1程度と推計されています。

各国で推進されるワンヘルス

ワンヘルスに関する、多くの国が参加する首脳級の取り組みとしては「リーダーによる自然への誓約:Leaders Pledge for Nature」が挙げられるでしょう。同誓約には2021年10月時点で90を超える国が参加しており、ワンヘルスに関しては「健康・環境の持続可能性を扱う政策と意思決定プロセスにワンヘルスアプローチを取り入れる」といった約束が盛り込まれています。

各国・地域が個別に実施している取り組みとしては、アメリカが設置した感染症リスクの警戒システム「感染症拡⼤の予知計画」や、アジアにおける「AMR に関するアジア太平洋ワンヘルス・イニシアチブ」が挙げられます。

また2020年には、国際連合食糧農業機関(FAO)・国際獣疫事務局(OIE)・世界保健機関(WHO)から構成される、ワンヘルス関連の連携に国連環境計画(UNEP)が加わりました。パンデミックによりワンヘルスの重要性が高まるなか、引き続きこうした大規模な動きが起こるものと予想されます。

日本におけるワンヘルス領域の動向

日本でも2021年1月に公益財団法人日本自然保護協会が「人と動物、生態系の健康はひとつ~ワンヘルス共同宣言」を発表しました。この宣言を通じ、国際自然保護連合日本委員会や世界自然保護基金ジャパンなどをはじめとする12団体は、ワンヘルス関連の課題・知見を共有してつぎなるパンデミックを防止する意思を明らかにしています。

また、前述した「リーダーによる自然への誓約」に関しても、日本は2021年5月に参加を表明しました。

UNEP・ILRIが示すパンデミック対策の指針

国連環境計画(UNEP)と国際家畜研究所(ILRI)は、2020年7月に動物由来感染症の防止についてのレポート「Preventing the Next Pandemic:Zoonotic diseases and how to break the chain of transmission」を公表し、そのなかでワンヘルスアプローチに不可欠となる提言を10項目挙げています。以下は、10項目を簡潔にまとめたものです。

  • ワンヘルスを含む学際的なアプローチへの投資
  • 動物由来感染症に関する科学的調査の拡大
  • 疾患がもたらすコストの分析
  • 動物由来感染症の認知を拡大
  • フードシステムを対象とした動物由来感染症の監視・規制強化
  • 持続可能な土地利用に対するインセンティブの設定
  • バイオセキュリティとその管理体制を改善
  • 農業と野生生物の持続可能な共存に対する支援
  • 各国の医療関係者の対応力を強化

これらの項目は、つぎなる動物由来感染症の大流行を回避するための見解として注目されています。そのため、今後各国で推進されるワンヘルスのアプローチは、上記にもとづいて進められると考えられるでしょう。

おわりに

新型コロナウイルスをはじめ、エボラウイルス・MERS・SARSなどの動物由来感染症を防止するためには、ワンヘルスの観点にもとづくアプローチが重要と考えられています。

一方、よりワンヘルスアプローチを普及させるためには民間の協力が必要になるものの、現状ではまだ「ワンヘルス」の言葉そのものが一般に普及していない側面もあります。ワンヘルスに対する認知を広め、つぎなるパンデミックを回避するためにも、今後は私たち1人ひとりが生態系の健康状態にアンテナを張ることが重要です。

EnergyShift編集部
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