2011年の東日本大震災によって福島原子力発電所の稼働が止まり、計画停電が行われたのは記憶に新しいかと思います。その後、FIT制度が始まったことで太陽光発電が全国に拡大しました。風力発電など他の再生可能エネルギーも少しずつ増加しています。
では、現在の日本のエネルギー事情はどうなっているのでしょうか?ここでは、日本が抱えるエネルギー問題の原因や、解決に向けた取り組みについてご紹介します。
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現在の日本は、どのようなエネルギー問題を抱えているのでしょうか?
2017年の日本のエネルギー自給率はわずか9.6%。これは他のOECD(経済協力開発機構)諸国と比べても低い水準で、2017年時点ではOECDに加盟している35カ国中34位でした。
日本のエネルギー自給率が低いのは、石油・石炭・天然ガスといった資源に乏しいことが主な原因です。日本の2017年度の一次エネルギー国内供給のうち、化石燃料が87.4%を占めていますが、それらのほぼ全ては中東やオーストラリアからの輸入に頼っています。国内でもわずかに生産されていますが、国内消費量の1%に未満にすぎません。
2018年の化石燃料の海外依存度は、原油(石油)が99.7%、天然ガスが97.5%、石炭が99.3%です。それらの化石燃料は主に以下の国々から輸入されています。
1位 | 2位 | 3位 | |
原油(石油) | サウジアラビア38.2% | アラブ首長国連邦25.4% | カタール8.0% |
石炭 | オーストラリア71.6% | インドネシア11.4% | ロシア11.1% |
天然ガス | オーストラリア36.6% | マレーシア12.4% | カタール12.0% |
*「日本が輸入する化石燃料の相手国別比率」を元に作成
日本はこれらの国から、石油・石炭・天然ガスを輸入していますが、その分国内のお金が海外に流れてしまい、経済的に大きな損失が生まれています。化石燃料の輸入額は2010年の度の約18兆円から、2014年には25兆円と約7兆円増加し、2014年度の貿易収支は、9.1兆円の赤字を記録しました。
一方、OECD加盟国でエネルギー自給率が1位のノルウェーは、2017年度のエネルギー自給率が792.6%です。ノルウェーは2012年時点で、世界第2位の天然ガス輸出国であり、さらに世界第7位の石油輸出国です。さらに、国内のエネルギーに関しては、国内電力量の約95%を国内の水力発電でまかなうなど自給できています。つまり、国内で必要なエネルギーの大半を自国の資源でまかないつつ、それ以上のエネルギー資源を他国に輸出しているため、自給率が792.6%という高い水準を達成できています。*3
日本は石油・石炭・天然ガスといった資源に乏しいため、現状は他国からの輸入に頼るしかありません。ですが、これらの化石燃料に依存しているうちは、国内のお金が海外に流れることで、経済的にも大きな損失が発生する上、エネルギー自給率も上がりません。この問題を解決できる可能性があるのは「再生可能エネルギーの普及」です。
2017年の日本の年間発電電力量(以後、発電電力量)は、約70%が天然ガスと石炭による発電でした。
一方、2010年の天然ガスと石炭が発電電量に占める割合は60%程度で、現在より低い水準でした。これは、東日本大震災以前は天然ガスと石炭だけでなく、原子力も主力電源の一つだったためです。純国産エネルギーとされている原子力を含めたエネルギー自給率も、2010年は20.3%と、現在よりは高い水準だったのです。
しかし、東日本大震災後に原子力発電所の稼働が大きく減ったため、エネルギー自給率が大きく低下しています(最もエネルギー自給率が低かった2014年は6.4%でした)。こうした中、国内自給する発電電力量のうち伸びているのが再生可能エネルギーです。
発電電力量のうち再生可能エネルギー(水力発電を除く)が占める割合は、2010年には2%でしたが、2017年には8%まで伸びています。これは2012年にFIT制度が施行され、太陽光発電等の再生可能エネルギーを使った発電施設が増えたことによるものです。
続いて、2017年の世界の主要国の自給率の資源割合をみてみましょう。
石炭 | 石油 | 天然ガス | 原子力 | 水力 | その他 | |
世界 | 38.5% | 3.3% | 23.0% | 10.3% | 15.9% | 9.0% |
中国 | 67.9% | 0.1% | 2.8% | 3.8% | 17.5% | 7.9% |
アメリカ | 31.0% | 0.8% | 31.4% | 19.7% | 7.1% | 10.1% |
日本 | 33.2% | 6.6% | 37.5% | 3.1% | 7.8% | 11.8% |
ドイツ | 39.0% | 0.9% | 13.5% | 11.8% | 3.1% | 31.7% |
イギリス | 6.9% | 0.5% | 40.8% | 21.0% | 1.8% | 29.1% |
*「主要国の電源別発電電力量の構成比」を元に作成
多くの主要国で石炭と天然ガスの割合が高くなっています。日本は東日本大震災以来、原子力発電所の稼働が減ったため、主要国の中でも原子力発電の割合が少なくなっています。なお、「その他」は太陽光や風力などの再生可能エネルギーが多くを占めており、ドイツやイギリスなどヨーロッパ諸国が先進的に導入を進めています。
日本政府は、近年になって再生可能エネルギーの主力電源化を進めはじめましたが、先進的に再生可能エネルギーの導入を進めるヨーロッパ諸国からは遅れています。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、さらなる再生可能エネルギーの普及が期待されます。
アメリカのニュース専門局であるCNBCは、日本は国土が狭いにも関わらず世界3位の経済大国であることを紹介した上で、日本のエネルギー事情について次のように述べています。
*The dawn of Japan’s energy transition? より要点を抜粋
つまり日本は化石燃料がほとんどないため、エネルギーの輸出による経済的なメリットはほとんど受けられません。しかしそれでも、世界第3位の経済大国となっている点はとても評価されています。 また、再生可能エネルギーの研究開発の面でも先進的な国とみられているようです。しかし、再生可能エネルギーの普及はまだまだ先進的とは言えず、今後の取り組みが重要です。
日本のエネルギー問題のうち、もっとも問題視されているのが自給率の低さです。90%以上のエネルギーを輸入に頼っているため、 2014年には化石燃料の輸入額が約25兆円になったことは先ほど解説したとおりです。 特に99.7%を輸入に頼っている原油(石油)は、約88%がサウジアラビアやアラブ首長国連邦といった中東地域に依存しています。エネルギーは「安定性」が非常に重要ですが、これらの地域は政情が不安定で、政情によって価格が変動したり、輸出規制がかかる場合もあります。2019年6月には、中東のホルムズ海峡で日本のタンカーが砲撃を受ける事件がありました。
また、石炭はオーストラリア1国から71.6%を輸入しているため、依存性が高くなっています。オーストラリアは政治的にも安定していますし、日本との関係も良好ではありますが、気候変動問題に対応していくためにも、石炭そのものの依存度は低くしておいた方が賢明でしょう。
続いてエネルギー問題がもたらす影響について、2つの軸での影響と、解決策を解説します。
エネルギー自給率が低いことで、貿易収支に大きな悪影響を与えています。2014年に化石燃料の輸入額が25兆円で貿易収支がマイナス9.1兆円だったと先ほど解説しました。2014年の数値で、もし25兆円の輸入額を半分の12.5兆円に削減できれば、貿易収支もプラス3.4兆円にできます。貿易収支が改善すれば、国内で循環するお金が増えるため、国民の生活にも好影響です。
また、発電を化石燃料に依存度が増すと、温室効果ガスである二酸化炭素排出量も増えてしまいます。2018年、日本は温室効果ガスの排出量が世界で5番目に多い国でした。現在地球温暖化問題が危機的状況にあるので、二酸化炭素の排出量を抑えることが大きな課題となっています。
エネルギー問題がもたらす影響として、経済的な問題と、環境面の問題(地球温暖化)をお伝えしましたが、両方の問題の解決策をなりえるのが再生可能エネルギーです。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使った発電であれば、化石燃料を輸入することなく、国内の自然の資源を使って発電できるため、自給率が向上し貿易収支も向上します。
また、温室効果ガスを排出しない発電方法なので、温室効果ガス排出量も削減できます。地球温暖化を食い止めるためにも、再生可能エネルギーの普及が期待されます。
現在地球では「地球温暖化」が大きな問題となっています。地球の気温は太陽光によって地表に届いた熱が、宇宙空間に放出されてバランスを保ってきました。ですが産業革命以降、温室効果ガスの排出量が急激に増えています。 約200年前、地球の二酸化炭素濃度は約280ppmでしたが、2013年に約400ppmまで増加しました。二酸化炭素濃度の増加に伴い、1880年から2012年にかけて世界の平均気温は0.85℃上昇しています。
こうした地球の現状を受けて、2015年12月に開かれた気候変動枠組み条約第21回締約会議(COP21)にて、地球温暖化防止の国際的な枠組みである「パリ協定」が採択されました。
パリ協定以前も、地球温暖化防止に向けて「低炭素」が目標とされてきましたが、地球温暖化の進行が想定以上のペースで進んでいることを踏まえ、パリ協定では低炭素ではなく、「脱炭素」が掲げられました。また、地球の平均気温の上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑制することが目標となっています。
パリ協定には多くの国が参加し、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159ヶ国・地域をカバーするものとなりました。今後世界中で脱炭素が進められる予定です。なお、最近では気温上昇を1.5℃未満に抑制するという意見が強くなっています。また、2018年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書によると、工業化以前と比較してすでに1℃上昇しているということです。
日本政府は2018年に、新たなエネルギー基本計画として「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。 第5次エネルギー基本計画では、冒頭で以下のように宣言しています。
“長期的に安定した持続的・自立的なエネルギー供給により、我が国経済社会の更なる発展と国民生活の向上、世界の持続的な発展への貢献を目指す”
そして、これまでもあったエネルギーの基本原則である「3E+S」をより高度なものにしました。
*経済産業省「第5次エネルギー基本計画より」
ここからは「第5次エネルギー基本計画」においてターゲットにされている「2030年」と「2050年」の目標と政策について解説します。
日本政府は、3つのE+Sを満たしつつ、2030年に「温室効果ガス26%削減」と「エネルギーミックス」の実現を目指しています。エネルギーミックスとは、再生可能エネルギーや化石燃料、原子力を用いた発電など、多様なエネルギー源を用いて電源を構成することを指します。
2030年の発電電力量の電源構成の目標を以下のように定めています。
2030年の時点では、まだ再生可能エネルギーを主力電源化できませんが、この段階で主力電源化への布石にするとし、低コスト化や系統制約の克服、火力調整力の確保が課題です。
原子力は、20~22%と現状よりも稼働率を上げる方針ですが、依存度を可能な限り低減し、安全性向上を目指します。火力は、化石燃料の自主開発の促進、高効率な火力発電の有効活用、災害リスク等への対応強化を掲げています。 また他にも、水素による発電や、蓄電池の進化による省エネ、再エネのように発電所を各地域に分散させる分散型エネルギーの推進も進める方針です。
そして2050年には「温室効果ガス80%削減」と「エネルギー転換・脱炭素化への挑戦」を目標に掲げています。 2050年、再生可能エネルギーを主力電源化とした脱炭素化を目指します。原子力発電も脱炭素化の選択肢として引き続き行うとし、そのための安全炉の追究や、放射性廃棄物処理・使用済み核燃料再処理といったバックエンド事業が課題だとしています。
化石燃料はしばらくは主力ですが、徐々に効率の悪い石炭からフェードアウトし、天然ガスでの発電を維持することでカバーします。また、化石燃料での発電の代わりに水素発電の開発を推進します。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、時間ごとの必要量に合わせた発電量の調整が難しいため、調整力を持った電源も必要になるからです。
さらに蓄電池も進化させ、脱炭素化を推進。各地域で再生可能エネルギーを推進し、分散型エネルギーシステムもさらに推進させます。
自給率の低さや、化石燃料に依存したエネルギーシステムを抱える日本。国の経済のためにも、地球温暖化を防ぐためにも、エネルギー問題の解決が必要不可欠です。
そして解決策となりえるのが「再生可能エネルギー」です。2012年のFIT制度施行以来、徐々に再生可能エネルギーを使用した太陽光や風力等の発電所が増え、電源構成における再生可能エネルギーの割合も増えてきました。 ですが、発電電力量の8%程度と、まだまだ主力電源には程遠い状況です。2030年の20%、2050年の主力電源化に向けて、更なる再生可能エネルギーの普及が期待されます。
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