寄付つき商品やサービスの販売を通じた社会課題解決型キャンペーンやプログラムを実施するコーズマーケティング。消費者と企業が同じ思いを共有しより良い社会づくりを目指す取り組みですが、中には企業が批判を浴びてしまう失敗例も存在します。
コーズマーケティングを企画する前に、過去の事例から成功例・失敗例を学びポイントをおさえましょう。
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コーズマーケティング(またはコーズ・リレーティッド・マーケティングCRM:cause-related-marketing)は、自社商品・サービスの売上の一部を特定のNPO団体に寄付するキャンペーンなどを実施し、商品の購入を促進する手法のことを指します。または、商品の販売や広告を通じて、特定の団体や社会的課題に関する情報を発信し、行動変化を促す企画や支援を指すこともあります。
みなさんもパッケージに「この商品の売上の一部は途上国の子どもたちのために学校をつくる活動を行う団体●●に寄付されます」といったメッセージが記載されている商品を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
コーズマーケティングはアメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏が企業の社会貢献にマーケティングを応用することを提唱したものです。
コーズマーケティングという言葉を構成している英語のCauseには「社会的大義」の意味があり、またMarketingは「売れる仕組みを考える活動」を指すビジネス用語です。コーズマーケティングを実施する背景には、利益と社会貢献を結び付けながら、販売促進、企業のブランドイメージの向上につなげたいなどの企業側の意図があります。
企業がコーズマーケティングを実施する目的や期待される効果には、以下のようなものが挙げられます。
もっとも大事なのは企業側が社会・環境貢献に寄与したいという目的がゆるぎないことです。企業が寄付先を検討する際は、事業内容と関連性のある団体や、災害発生地域など今すぐ支援が必要な先などが候補となります。取り組むべき社会課題は、自社にとっての重要度や社会にとっての緊急性などを加味して決定します。
企業が商品販売と結び付けたキャンペーンを行うことで、消費者の目に届きにくい非営利団体の取り組みや社会課題を世の中に周知することができます。非営利団体側にとっては、マーケティング力を持つ企業という力強いパートナーを得られるとともに、活動資金の調達経路が増えることになります。
自社の寄付つき商品が売れるほど社会貢献へとつながるため、営業職や販売スタッフの社会参加意識を刺激し、自分の仕事に誇りを持って働けるようになるきっかけとなります。
従来の商品購入者に加え、社会の役に立ちたい意識を持つ消費者層の興味を引き付けることができます。また消費者側は、身近な商品を通じて社会問題に触れるとともに、購入により間接的に支援できます。
社会性のあるメッセージを付与することで、他社商品との差別化を図ることができます。また同じ価格や品質の中から寄付つき商品を選んで購入することで、消費者は「善い行い(買い物)をした」という満足感が得られます。その結果、顧客満足度を向上しながら販売促進も目指せる手法として効果的です。
企業が積極的に社会課題の解決に関与し支援することは、社会の期待に応え、評判やイメージを高める効果が見込めます。結果としてブランドを向上させ、売上やファンを増やすことにつながることが期待できます。
社会的意義があるコーズマーケティングですが、中には失敗するケースも存在します。社会貢献をしないといけないから仕方なくやっている、企業ブランディングとして一時的に実施している、競合他社がはじめたから自社も乗り遅れないためにやる、儲かりそうだからキャンペーンをする、消費者の善意を利用した販売促進であるなど、企業側の営利的な思惑が先行している企画は、消費者に見透かされ反感を買ってしまいます。そして結果的に企業のブランド価値が低下してしまう恐れがあります。具体的にコーズマーケティングの失敗例にはどのようなケースがあるのか見てみましょう。
乳がん啓発キャンペーンのピンクリボン運動は世界中で取り組まれている活動です。フライドチキンを販売するKFCは2010年にこの運動に参加しましたが、KFCの高脂肪なフライドチキンが肥満を引き起こすこと、そして肥満が乳がん発生と関係性があることが指摘され、KFCがピンクリボン運動に参加するのはふさわしくないとの批判を浴びました。この事例は、自社の商品や事業内容と選定したコーズ(寄付・支援先)のミスマッチが原因です。KFCはこの一件の後、支援先を飢餓撲滅キャンペーンに変更しました。
コアラのマーチを販売するロッテは、1994年からコアラの保護や研究を行う「オーストラリア・コアラ基金」に参加しています。この事例は商品キャラクターと保護対象動物が一致していて一見すると良い支援マッチングに思われますが、その一方で同社のチョコレート製品やアイスクリーム製品に使用されているパーム油が、環境破壊や生物多様性へ悪影響を引き起こしている問題が存在します。パーム油は加工が容易なため日本の食品に多用されていますが、パーム油の原料を栽培するアブラヤシ農園の急速な開拓で森林伐採が進んだことから、マレーシアやインドネシアなどの東南アジア地域では希少種や絶滅危惧種などの生物の生息地が失われています。マスコットキャラクターの動物(コアラ)を保護しているにもかかわらず、その他の生物への配慮が足りない原料調達姿勢は、NGO団体などから指摘を受けています。
なお、ロッテはこの現状を改善するため、2023年度までに国内で調達するパーム油を、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証などの第三者認証油に100%切り替えること、2028年度までには海外のグループ会社でも100%実現することを目標に掲げています。
コーズマーケティングを成功に導くポイント、過去の失敗例から学べる点を整理し、以下5点にまとめました。
また、コーズマーケティングは商品のプロモーションや企業イメージの向上を図るといった、営業戦略の一環として実施されることが多々あります。実際にコーズマーケティングを企画・実行する場合は、企業のCSR部門だけで主導するのではなく、営業・マーケティング部門や広報・広告部門とも連携し、しっかり目的共有すること、あらかじめ役割分担を明確にしておくことが重要です。
コーズマーケティングを実際に企画・実行する際は、以下の手順例で進めることができます。
日本の企業が国内で実施したコーズマーケティングの成功事例を見てみましょう。
マーケティングという市場を動かす手法で社会課題を解決に導くことができるのは、消費者との距離が近い企業ならではの方法です。自社や業界の特性を活かし、消費者が共感するストーリー性のあるコーズマーケティングを企画しましょう。
そのうえで忘れてはならないのは、あくまでもコーズマーケティングで寄与できるのは数ある社会課題のうちのごく一部であるということ。社会は常に動いているため、企業活動に関わる課題も日々変化しています。コーズマーケティングに注力するとともに、企業の社会的責任に関するアンテナ感度を高め改善しつづけることで、より多くのステークホルダーの幸せを実現しましょう。
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