街中や山間部を通る送電線が、どのような役割を持っているのかご存知でしょうか?「電気を運ぶ」という単純な役割のみを担っているように思えますが、実は電気の特性にあわせて緻密に運用されています。ここでは、電力の安定供給を支える送電線について解説していきます。
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送電線は、多量の電気を効率的に高電圧で送る電線です。発電所から変電所、あるいは変電所から変電所へつながっている電線は送電線に該当します。
発電所によって生み出された電気は、送電線を通じて変電所に送電されて、下図のように段階を経て少しずつ電圧が下げられます。段階的に電圧を下げる理由としては、電気の一部が熱となって大気中に逃げる「送電ロス(送電損失)」を避けるためです。
*電気事業連合会「電気が伝わる経路」
なお、発電所と変電所、変電所同士をつなぐ電線を送電線と呼ぶのに対して、最後の変電所から私たちの住宅に電気を届ける電線は「配電線」と呼ばれます。
発電所から送り出される段階では27万5,000~50万ボルトに達する高電圧の状態となっていますが、配電線を通じて住宅に届けられる段階では100ボルトにまで変圧されています。
特定の送電線が故障した場合、それを補って他の送電線でカバーできるように、通常時は送電線の容量を一定以上空けています。
*資源エネルギー庁「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」
※上図では、1ルート2回線と呼ばれる構成を例にしており「50%は空けておく」と記述されていますが、たとえば2ルート4回線と呼ばれる構成では「25%は空けておく」こととなります。空き容量の説明では、送電線の最大利用率が50%だと解説されるケースが多いものの、必ずしも50%ではない点に留意してください。
空き容量ゼロ問題で課題となっているのは、緊急時のために空けておく容量を除いた、平時に利用している容量の空きがなくなっていることです。つまり、下図のうち「実際に使える容量」の空きがなくなってしまうことこそ、空き容量ゼロ問題の原因なのです。
*資源エネルギー庁「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」
常に容量すべてを使用してしまえば、送電線が故障した場合に電気を流すための空きがなくなります。もしも空きがない状態のまま一部の送電線が故障すると、他の送電線で送電をカバーできず電気の需給バランスが崩れてしまうのです。電気には「供給(発電量)と需要(電気の消費量)を一致させなければ、周波数(電気の品質)が乱れる」といった特性があり、以下のような現象が起こって停電を招きます。
緊急時のための容量を確保することで、上記のような事態に陥らないよう対策が講じられています。北海道胆振東部地震に起因する、日本初のブラックアウト(全域停電)も周波数の乱れが関係していたことが分かっています。
送電ロスは、送電線の電気抵抗により、発電所で作られた電気が送電時に失われてしまうことです。送電距離が長く、電圧が低いほど送電ロスは大きくなる特性があります。以下のように段階的に電圧を下げる仕組みは、利用者に届けるまでの送電ロスを減らすために行われています。
*電気事業連合会「電気が伝わる経路」
上図のように、利用者が電気を受け取る手前で変電することで、送電ロスを少なくしているのです。なお、工場や鉄道会社などは高圧状態の電気を受電したあと、自社の変電設備により必要に応じた電圧に変電しています。
空き容量ゼロ問題を解消するため、系統(発電~配電を行う一連のシステム)の強化を実施すると同時に、送電線を有効活用する「コネクト&マネージ」と呼ばれる施策が行われています。
従来、すべての電源が最大限稼働した場合を想定して、送電線の最大利用率を決めていました。ただし、実際にすべての電源が最大限稼働するケースはなく、実際の利用率とは乖離(かいり)があるため、「緊急時のための容量を必要以上に確保しているのでは」とも捉えられるのです。
実際、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電は、時間帯や天候によって発電量が左右される特性があり、常に最大限稼働しているわけではありません。そのため、送電線の容量には「すきま」ができるのです。コネクト&マネージは、すきまを利用して送電線の容量を有効活用する考え方です。
*資源エネルギー庁「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み
実際の利用率をもとに空き容量を算定することで、従来よりも多くの空き容量を確保。非常時に送電を遮断するなどの対策を用意しつつ、従来は緊急時用に確保されていた容量の一部を活用し、新たに得られる空き容量のイメージを示したものが上図です。現在、コネクト&マネージの仕組みを実現するため、行政や企業によって検討が進められています。
送電線には高圧状態の電気が流れているため、送電線に近い人体や住宅には影響がないのか懸念されがちです。ここでは、上空に通っている送電線が及ぼす健康への影響、土地への影響についてご説明します。
送電線は低周波の電磁波を発生させているため、電磁波による健康への影響を不安視する意見があります。実際、電磁波を継続的に浴びることで、がんや小児白血病などの疫病を発症するといった説はあるものの、これらの仮説は科学的に立証されていません。現段階の情報では、日常生活の範囲において、送電線から発する電磁波が健康へ大きな害をもたらす証明はないといえます。
不動産評価の観点からいえば、上空に送電線が通っていることで以下のようなメリットがあります。
住宅購入などのために土地を購入する際、土地の上空に送電線が通っていれば土地価格は安くなる傾向にあります。不動産取引において、送電線は火葬場や下水処理場などと同様に「嫌悪施設」に分類されるからです。また、敷地内上空を送電線が通過している場合、および敷地内に電柱等の設備が設置されている場合、電力会社から以下の費用が支払われます。
なお、送電線の通っている鉄塔は、送電線を保護するために架空地線(グラウンドワイヤ)と呼ばれる装置が設置されています。架空地線の働きにより、鉄塔の頂部から地面へ電流を逃がせるのです。皆さんもご存知のように、雷はより高いところに落ちる特性があります。そのため、雷は鉄塔に向かって落ちやすく、鉄塔は架空地線により地面に電流を逃がすため、鉄塔付近の住宅や土地は雷撃による被害を避けやすいといえます。
上空に送電線が通っている土地を保有した場合、以下をデメリットに感じるケースがあります。
上空に送電線が通ることで景観は損なわれ、仮に「健康に悪影響のある電磁波が出ている」といった認識があれば心理的な不安が生まれます。土地周辺の景観、電磁波による影響に対して敏感であるほど、大きなデメリットになるでしょう。
また、カラスやムクドリなどの鳥類が送電線や送電鉄塔に飛来したり、巣を作って卵やヒナを育てたりするケースがあります。これらは、景観を損ねたりフンが多く発生したりといったデメリットをもたらすものの、鳥獣保護法により特別な許可が下りない限り捕獲や撤去ができません。
そして、建築物の高さ・デザインに成約が加わり、住宅の新築や建て替え時に希望が叶わない可能性があります。住宅を建てるために土地購入を検討する場合には、上空に送電線が通っていることで希望条件が実現不可能になるか否か、不動産会社に相談して事前に確認しておくと良いでしょう。
電気の安定供給を支える送電線が、どのような役割を果たしているのかご説明しました。空き容量や送電ロス、コネクト&マネージなどの仕組みを見て、イメージよりも複雑な印象を受けたのではないでしょうか?
また、送電線にまつわる人体や土地への影響は、いろいろな情報が錯そうしており本当の情報を見つけづらい状況です。特に人体の健康に関しては、明確に危険か安全かを断定する研究結果があらわれていないため、信頼できる情報ソースにアンテナを張るよう推奨します。
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