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日本はなぜ、世界から非難されても石炭火力の新設を続けるのか 簡単に手放せない裏事情とは

2021年12月22日

高効率石炭火力は本当に高効率なのか?

石炭火力の新増設を続ける日本に賛否両論が渦巻く中、そもそも高効率石炭火力は「本当に高効率なのか?」といった疑問の声があがっている。

石炭火力は、ボイラーで石炭を燃やしてお湯を沸かし、蒸気タービンを回して発電するしくみであり、この蒸気の温度や圧力をあげることで発電効率はあがっていく。中でも、微粉炭火力と呼ばれる、粉状にした石炭と空気を混ぜ、ボイラー内で燃やすことで、効率良く発電する方式が中心となっている。

この微粉炭火力には5つの種類があり、「亜臨界圧(SUB-C)」→「超臨界圧(SC)」→「超々臨界圧(USC)」と効率が高くなっていき、現在の日本では「超々臨界圧(USC)」が石炭火力の主流となっている。その発電効率は41〜43%で、「世界トップレベル」(経産省)だという。


石炭火力の発電方式
出典:経済産業省

「超々臨界圧」を上回る高効率火力の開発も進んでいる。

そのひとつが石炭をガス化し、LNG(液化天然ガス)火力と同じようにガスタービン発電と、そこからの排熱で発生させた蒸気を利用する蒸気タービン発電、この2つを組み合わせた「石炭ガス化複合発電(IGCC)」である。50%程度の発電効率が狙えるとされ、2021年4月、そして11月に、三菱商事や三菱重工、三菱電機、東京電力ホールディングスなどが福島県に勿来IGCC(52.5万kW)、広野IGCC(54.3万kW)を稼働させている。

さらにもうひとつある。それが、IGCCに燃料電池を組み合わせた「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」だ。広島県の大崎上島で進む「大崎クールジェンプロジェクト」では2022年の実証実験に向けて、石炭をガス化し、発生したCOを水と反応させ水素を生成し、燃料電池とガスタービン、蒸気タービンのトリプル複合発電の開発に取り組んでいる。55%程度の発電効率が期待できるという。

とはいえ、最新鋭のIGCCであっても、1kWhあたり0.733キログラムのCO2を排出してしまう。EUでは1kWhあたり0.1キログラム以上CO2を排出するものはグリーンと認めないという意向を示す。そのため、真っ先に石炭火力がやり玉にあがってしまうのだ。

気候ネットワークによると、先の8基の石炭火力が稼働すれば「年間排出量は3,000万トンを超える」と指摘している。2020年度の日本のCO2排出量が11億4,900万トンと前年度比5.1%減となったが、2013年度比では18.4%減だ。2030年度46%削減(2013年度比)目標にはまだほど遠い。それだけに3,000万トンの追加排出は許されないとする声は多い。

燃料種ごとのCO2排出係数(発電量あたりのCO2排出量)
同じ発電量で、石炭は0.733~0.867㎏、LNGは0.320~0.415㎏のCO2を排出する。


出典:環境省

終わりを迎える石炭火力の時代

石炭火力の時代は終わりつつある。

高効率火力であってもCO2の排出は免れない。また非効率石炭を使う途上国では、電力などのインフラが未整備な地域が最先端技術により一気に発展する「リープフロッグ」が起こり、高効率石炭ではなく、再生可能エネルギーが一気に導入されるとの予測がある。2040年代に世界全体での石炭火力全廃が求められており、今からつくっても投資回収できない可能性が高いのであれば、なおさら再エネに舵を切るだろう。

国内では、2030年までに非効率火力をフェードアウトさせる方針だ。休廃止の対象は「亜臨界圧」と「超臨界圧」であり、大手電力会社を中心に「超々臨界圧」への置き換えが進むものの、それでも現在稼働する石炭火力のうち、約5割が非効率火力だ。

その一方で、足もとでは電力不足がくすぶる。無事、今冬を乗り越えたとしても、2023年の1〜3月も東京エリアなどは電力需給がひっ迫するおそれがすでに指摘されており、非効率火力を廃止しつつ、どう安定供給を維持するのか。微妙なバランスの中に石炭火力はある。

石炭関連からの融資引き揚げが進む中、脱炭素火力への投資資金をどう調達するのかといった課題もある。石炭火力から出たCO2を回収し、利用したり、貯蔵するCCUS技術を組み合わせるにしても、石炭に代わるアンモニア発電を導入するにしても、資金手当は簡単ではない。経産省では2023年度をめどに、2050年の脱炭素を条件にして、水素やアンモニアを燃料に使う火力発電所の収入を保証する制度導入を目指すが、老朽火力を含むのか。あるいは水素・アンモニアの混焼比率をどう設定するのかなど、検討課題は多い。

日本はなぜ石炭火力の新増設を続けるのか

世界が2040年代の脱石炭に取り組む中、なぜ、日本だけがいまだに石炭火力の新増設を続けるのか。

理由のひとつに電力自由化がある。2016年、日本でも電力の小売全面自由化が実施された。自由化に前後して多くの新電力が参入したが、彼らの最大の問題は電源を持っていないことだった。電気を売りたくても、売る電源がない。そうすると大手電力会社から買ってくるしかない。これでは競争ができない。そこで、なるべく安い電気をつくって、それを供給することで競争力を確保しようとした。その結果、首都圏で電気を売るために、関西電力あるいは東京ガスなどが石炭火力の新設に動いたのであった。

自由化を進めるあまり、政府はCO2排出をないがしろにしたのではないか。温暖化政策を甘くみすぎた、そのツケが今、回ってきているのではないだろうか。

 

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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