ANAグループは4月26日、2050年長期環境目標と2030年中期環境目標を新たに策定し、発表した。人によるCO2排出量としては発電の次に運輸が多く、中でも飛行機での移動はCO2排出量が鉄道などと比べ大きい。より脱炭素が求めらており、それに応じた形となる。
これまで同社では、2012年から2020年までの中期環境計画「ANA FLY ECO 2020」を掲げて環境問題やCO2排出量の削減に取り組んできた。2020年7月に発表していた環境目標は「2050年に2005年比、CO2排出量50%削減」であったが、今回それをさらにひきあげた形になる。
中長期環境目標
テーマ | 2030年中期環境目標 | 2050年長期環境目標 | |
1 | 航空機の運航で発生する CO2排出量の削減 | 2019年度以下 | 実質ゼロ(目標更新) |
2 | 航空機の運航以外で 発生するCO2排出量 | 2019年度比33%以上削減 | 実質ゼロ |
3 | 資源類の廃棄 | 2019年度比70%以上削減 | ゼロ |
4 | 機内食などの食品廃棄率 | 2019年度廃棄率4.6%を 3.8%以下に削減 | 廃棄率2.3%以下に削減 (2019年度比廃棄率50%削減) |
ANAプレスリリースより
CO2排出量に関しては、ANA FLY ECO 2020では国内線の総排出量年平均440万トン以内に抑制するとしていたが、2020年には409万トンと、目標をクリアしている。
また「単位あたり目標」においては、有償輸送トンキロあたりCO2排出量、こちらは国内・国際線合計値だが、目標では2021年3月期までに、2006年3月期比で20%削減目標であったのを、2019年3月に23%削減であり、こちらもクリアしている。
今回は目標設定を新たに2019年比としているが、これは2019年のCO2排出量(国内・国際、旅客・貨物の総数)が1,233万トンと多かったことと、国際的な航空業界のCO2排出抑制スキームであるCORSIAでの基準年が2019年にすることが、昨年6月に決まったことからだという。
ANA広報室によると、今は新型コロナウイルスで運航自体が減ってはいるが、アフターコロナでは運航量が多くなることを見越しての目標設定であり、より野心的になっているということだ。
ANAの2015〜2019のCO2排出量
CO2排出量 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
総計 | 1,074 | 1,125 | 1,161 | 1,156 | 1,246 |
航空機 | 1,062 | 1,114 | 1,148 | 1,143 | 1,233 |
(旅客便) | (1,005) | (1,058) | (1,097) | (1,098) | (1,196) |
(貨物便) | (57) | (56) | (50) | (45) | (37) |
地上設備・自動車 | 11.5 | 11.8 | 13.5 | 13.2 | 12.6 |
ANA統合報告書2020より 単位:万トン
ANAではこれらの新しい目標を、4つの柱を通じて実現を目指すという。
SAFとは、原油を原料としないジェット燃料で、各社の開発が急速に進んでいる。
ANAのSAF活用については、国内、国際ともに力を入れており、まず2011年からユーグレナと連携して国内開発支援をおこなっていた。2020年からは東芝エネルギーシステムズ、東芝、東洋エンジニアリング、出光興産、日本CCS調査と共同で排ガスなどからのCO2をSAFに再利用できないか、検討している。
2019年にはSAFの製造を手がける米国LanzaTech社と提携。2019年11月にはLanzaTech社の排ガス原料のSAFでデリバリーフライトを実施(ワシントンー羽田)。2020年にはフィンランドのNeste社と提携を発表。2020年11月6日には羽田―ヒューストン間(NH114便)で実際にSAFによる運航をおこなった。
2019年11月のデリバリーフライトの様子 右は給油の様子(プレスリリースより)
この11月の運航ではタンカー輸送されたSAFを使用したというが、Neste社とANAはシンガポールのプラントを利用する覚書を昨年締結。シンガポールからの輸送はぐっと楽になる。LazaTech社、Neste社とは今後、さらにコストなどの課題解決に前向きに取り組み、平常時の国際便運航のSAF利用を見据えて取り組んでいくという。
航空機の技術革新については総重量の軽量化、省燃費機材、改良型エンジンの導入はもちろん、給水量の適正化にも取り組む他、飛行計画(オペレーション)でも排出量削減への最適化をおこなっている。たとえば地上走行時にはひとつのエンジンだけにすることで、2019年度は2,100トンのCO2削減ができたという。
輸送、特に航空企業にとって、温室効果ガスのひとつであるCO2をどれだけ削減できるかは、国内だけではなく特にEUなどで関心が高い。ANAのCO2対策に今後も注目したい。
(Text:小森岳史)
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