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資源不足が深刻なEVを本当に普及させることができるのか?  シリーズ:資源問題の“今” 後編

2022年02月02日

リチウムイオンバッテリーを使わないという選択も

③については、全固体電池など次世代電池のほか、燃料電池車や水素エンジン車などの水素技術などの普及の前倒しがある。安全性に強みをもつ全固体電池は、市場投入が2020年代前半に始まり、2020年代後半にはシェアを高めるとされるが、量産時期が前倒しされる可能性もある。現状では、従来の電解液から固体電解質にシフトしても、容量密度は増えず安全性が高まるメリットしかない。最も実用化に近いとされるトヨタ自動車は、早期にHV向けに投入する一方、高い容量密度が必要なBEVなどへの採用は後回しにする方針を示す。全固体電池は正極材・負極材の選択肢が増えることで、将来的には現在のLIBの容量密度を上回りながら、コバルトレス・コバルトフリーの正極材に切替えられる可能性が高い。

燃料電池や水素エンジンなどの水素燃料を用いた新エネルギー車の需要も高まるだろう。バスやトラックなど大型商用車は、電気自動車より燃料電池車が適している。鉄や非鉄などの製錬では水素利用が開発される中、インフラ整備も進む可能性もある。この分野は、コバルト資源に依存しない。


中国北京の燃料電池バス
出所:N509FZ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

今後、BEVを中心とした自動車の電動化の拡大において、もっともボトルネックとなる資源はコバルトだ。現状ではコバルトの大幅な増産は期待できないといっていいだろう。

とはいえ、自動車会社にとっても決して対抗策がないわけではない。すでに供給リスク軽減策を進めている、ないしは視野に入れているといっていいだろう。ただしその結果として、どのような新エネルギー車が拡大していくのかは、技術開発や市場構造によって異なっていくということだ。

 

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吉竹豊
吉竹豊

有限会社アルム出版社代表取締役/「週刊レアメタルニュース」「年刊工業レアメタル」編集長。慶応義塾大学政治法学部中退。福岡県福津市出身。 レアメタルとは、自動車や航空機、産業機器、電子機器、家電製品などに微量に含まれ、現代社会に欠かせない元素の総称。1955年にレアメタルという言葉を日本に持ち込み、定着させた唯一の専門メディアのジャーナリストとして活躍中。 ホームページ https://www.raremetalnews.co.jp/ E-mail: info@raremetalnews.co.jp

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