水素で伸びる企業はどこだ? 川崎重工、ENEOS、千代田化工建設、大林組が挑む大量生産・大量輸送 水素まとめその1(つくる・はこぶ) | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

水素で伸びる企業はどこだ? 川崎重工、ENEOS、千代田化工建設、大林組が挑む大量生産・大量輸送 水素まとめその1(つくる・はこぶ)

2021年12月01日

千代田化工建設などは水素を別の物質に変えて、大量輸送

水素は液体になる温度(沸点)がマイナス253度と低いため、輸送や貯蔵コストがどうしても高くなってしまう。だが、水素を別の運びやすい物質(エネルギーキャリア)に変換すれば、より低コストで水素を輸入できるのではないか。水素とトルエンを化学反応させて、MCH(メチルシクロヘキサン)という液体にしたうえで、日本に大量輸入する。こうした取り組みを進めるのが、千代田化工建設や日本郵船、三井物産、三菱商事が参画するAHEAD(次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合)だ。

AHEADでは、ブルネイのLNGプラントでこれまで未利用だったプロセス発生ガスを原料に水素を製造し、これにトルエンを化合させて、MCHに変換する。MCHは常温常圧であるため、通常のケミカルタンカーや貯蔵タンクなどの設備を使って輸送できるため、水素価格の低減につながると期待されている。

日本に輸送されたMCHは川崎で荷揚げされ、東亜石油京浜製油所に運ばれ、そこで水素に分離され、製油所内のガスタービン発電の燃料に混ぜて、使用するというもの。脱水素化されたトルエンは、再びブルネイに輸送され、そこで水素を結合しMCHとして、日本にまた輸送させる。トルエンが水素キャリアとしてぐるぐる回る水素サプライチェーンの構築を目指している。

ブルネイの水素化プラントは2019年11月に運転を開始し、2020年4月には川崎の脱水素プラントも竣工、2020年5月に世界初となる日本〜ブルネイ間の水素サプライチェーンの実証運転がスタートした。2021年6月にはトルエンの2巡目の水素化がおこなわれ、日本〜ブルネイ間の水素サプライチェーンはつながった。


AHEADが目指す水素サプライチェーン
出典:AHEAD

MCHをめぐっては、千代田化工建設とENEOSが2021年11月、オーストラリアの太陽光発電を使って、水を電気分解しつくった水素をMCHに変換、日本に運び、MCHから取り出した水素でトヨタ自動車のFCV「MIRAI」を走行させることに成功している。

両社は2019年からMCHから水素を取り出す実証実験をおこなっており、今回、MIRAIのタンクを満タンにできる6キログラムの水素の取り出しに成功。実用レベルの運搬として世界初になるという。

ENEOSはトルエンを直接MCHに還元できる新技術の開発も進めており、商用化に向けさらなるコスト低減にも取り組んでいる。


水素の水電解プロセスなしで、直接MCHの合成を目指す
出典:経済産業省

またシンガポールでは三菱商事と千代田化工建設が、マレーシアではENEOSと住友商事が地元企業と連携し、MCHを用いたサプライチェーンの構築に向けた検討を進めている。

水素キャリアとしては、アンモニアなども期待されている。アンモニアは水素と比べて同じ熱量あたりの体積が小さいうえ、液化石油ガス(LPG)とほぼ同じレベルのマイナス33度で液化できるため、運びやすい。アンモニアの大規模な海上輸送に向けた取り組みも進む。

ただし、MCHやアンモニアにも課題もある。そのひとつがエネルギーロスだ。水素を別の物質に変換し運び、再び水素にするため、どうしてもエネルギーロスが発生してしまう。どれだけロスを削減できるかが今後の課題だ。

どの水素キャリアも実証段階であり、どの運搬方法が普及するかは未知数だ。そのため経済産業省では、現時点では水素キャリアを絞り込まず、競争を促し、水素化、脱水素化のコストや国際輸送、国内配送などのコストも考慮し、総合的に評価する考えだ。


出典:経済産業省

大林組、グリーン水素事業を新たな収益源に・・・次ページ

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

エネルギーの最新記事