安価な海外水素を調達しようと、日本企業が供給網の構築に急ぐ一方、エネルギーの安全保障上、調達先の多様化のみならず、日本国内でも余った再エネから水素を製造する基盤づくりが欠かせない。水を電解してグリーン水素をつくる「水電解装置」の開発も急務だ。
日本は2020年3月に世界最大級となる10MWの水電解装置をそなえる「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」を運転開始するなど、世界最先端の研究開発を実施してきた。経産省は、グリーン水素をつくる水電解装置の世界市場が2050年には4.4兆円に拡大すると予測するものの、海外勢との開発競争は激しさを増している。
現在、実用化されている水電解装置には、水酸化カリウムの強アルカリ溶液を使用する「アルカリ型水電解装置」と、純水を使用する「固体高分子(PEM)型水電解装置」の2種類がある。低コストで大型化が容易とされるのがアルカリ型で、発電量が変動する太陽光発電などの再エネに対する柔軟性やコンパクト化の観点では、PEM型がすぐれるとされている。
出典:経済産業省
アルカリ型で先行するのが旭化成だ。
先の福島の10MWの装置開発を手がけるなど、実証実験を繰り返しており、大型化やすぐれた部材の装置への実装などを通じて、現在、1kWあたり20万円とされる装置価格を2030年に5.2万円まで引き下げる計画だ。
PEM型の開発に取り組むのが日立造船や東レ(電解膜のみ)などだ。
東レなどは、山梨県甲府市におけるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業に参画、太陽光発電所の電力を使う2.3MWのPEM型装置を建設し、製造したグリーン水素を県内企業などに供給する準備を進めている。PEM型の装置価格は2030年に6.5万円まで引き下げる目標を掲げている。
水電解装置をめぐっては、独シーメンス・エナジーやティッセン・クルップなども大型化を目指す。また、2021年10月にはアルカリ型・PEM型いずれも手がけるノルウェーのNel社と伊藤忠商事が提携。20MW級の装置を受注するNel社と共同で、グリーン水素の国際的なバリューチェーンの構築に取り組む。
開発は欧州勢が先行しており、市場も再エネが安い欧州などで先に立ち上がる見込みだ
経産省では、余剰再エネを活用した国内の水素製造基盤の確立や、先行する海外市場を取り込むべく、グリーンイノベーション基金から最大700億円を投じ、水電解装置の開発を後押しする。
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