シェールオイルは中東産油国をはじめとするOPEC諸国にとって、その彗星のごとき登場以来、ライバル的存在になってきた。
まず、簡単に歴史を振り返ってみよう。
長年、世界の原油生産の8割近くを占めてきたOPECは、圧倒的な価格支配力を維持してきた。1973年のオイルショックも、OPECがその価格支配力を通じて世界に与える影響の大きさを物語っていると言えるだろう。他方で、2006年ごろ、米で「シェール革命」が起こる。
それまで、地中深くの頁岩(けつがん)を粉砕、乾溜しなければならない、という技術的に非常に難しいとされたシェールオイルの掘削だが、「縦掘り」後の「水平掘り」技術と、地層に割れ目を作る「水圧破砕」技術を米国が開発したことで採取が可能となり、当時の原油価格高騰とも相まって、急激に米での生産が進んだ。
(※ちなみに、「シェールオイル」と「シェールガス」は掘削の方法は非常に類似している。「シェールオイル」は石油の元となる成分を10%程度含む、頁岩(けつがん)と呼ばれる「オイルシェール」を粉砕、乾溜することで得られる油で、「シェールガス」は地中のシェール層を新しい掘削技術で人工的に破砕して中に閉じ込められている天然ガスを採取したものを呼ぶ。)
このシェール革命でOPECの独占体制が揺らぐことになる。当初8割まであったOPEC産油量の世界シェアは、3割程度まで低下することとなり、OPEC諸国はその価格支配力低下に焦りを覚えることとなった。これに対して、OPECは2017年にロシア等と強調して「OPECプラス」の枠組みを新たに作ったものの、2020年3月の会合ではロシアとの協議が決裂し価格が急落するなど、苦戦を続けている。
他方で、シェールオイルにも難点はあり、技術開発が進んだとはいっても、依然、その開発コストは在来型と比べて高止まりしている。
中東などの在来型が1バレル20ドル前後である一方、米国のシェールオイルの開発コストは、だいたい1バレル=60ドル超とされている。そのため、米のシェールオイルは常に高い生産量を誇るというよりも、原油(WTI)価格が1バレル=60ドル前後を超えてペイする状態になると、生産が増え、原油価格上昇を結果的に抑制し、相場を崩す役割を担ってきた。
つまり、OPECとすると、価格上昇は稼ぎ所であるけれども、そのために価格を上げ過ぎてしまうと、シェールの再増加を許してしまって、自分たちのうまみが減る、そういうジレンマを抱えているわけだ。
いま、目下の価格上昇を踏まえて、ここがまさに絶妙なところに来ている。
出典:経済産業省資源エネルギー庁
その鍵を解くのが原油の先物取引だ。
実際に、ここ数ヶ月の原油(WTI)先物価格を見てみよう。通常、原油の先物価格は保管コストがかさむため、限月が長くなると、価格が高くなる。これを「コンタンゴ」と呼ぶ。コンタンゴが正常な状況だ。
他方で、現在の原油(WTI)先物価格の状況は、これの反対、つまり限月が長いものの方が価格が安くなる「バックワーデーション」と呼ばれる異例の自体になっている。
なぜこのようなことが起きるかというと、OPECプラスがこれまで段階的に増産を繰り返してきたことで、現時点ではひっ迫気味の需給も、将来的には安定するだろう、と市場が読んでいるためである。保管料が本来かかる先物の方が安くなるという、極めて奇妙な状況になっているわけだ。
このバックワーデーションによって、今年8月末の時点では、期近物は1バレル70ドル弱であったものの、3年先の先物価格は55ドル程と、シェールオイルがペイするには価格がまだ十分高いとは言えない状態にあった。
だが、今年10月に何が起きたかというと、天然ガスの価格高騰に伴い、原油の価格が全体的に押し上げられたことで、3年先の先物価格も約65ドルを記録。
つまり、シェールオイル増産の条件を満たす状態になってしまったわけだ。
いまが絶妙なタイミングに来ていると先述したのはこのためだ。
OPEC諸国の立場になってこの状況を捉えてみると、天然ガスの価格高騰に伴い、代替需要を拾う形で原油価格も上昇している中、コロナで収益が苦しかった身としては、ここで収益拡大を見込みたい…。しかも、長期では脱炭素転換と言われているわけで、稼げるうちに稼いでおかないと縮小するだけ、というのはもう見えている。
他方で、価格上昇が続けば、米のシェールオイル増産が復活し、価格支配力が下がってしまう可能性もある…。
まさに絶妙なタイミングだ。ただ、このシェールのおかげで、原油高にまだブレーキがかかる要素があると思うと、そこは日本の消費者に取ってはありがたい状況ではある。
しかし、原油価格を取り巻く状況はこれだけではない。そう、ここからが脱炭素が関係してくる領域になる。そこで次は、中長期での原油生産を取り巻く「脱炭素」の潮流を解説していきたい。
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