サウジアラムコというサウジアラビアの企業が掲げる狙いが一つのいい事例になるので、まずは紹介したい。
シェールオイルの場合、その主体の多くは民間企業であり、特に米国では株主の発言力が比較的高いことから、脱炭素に反する取組には中々投資が集まりづらい現状があった。
そんな中、まったくその逆風をものともしないのが現在、世界の時価総額3位を担うサウジアラムコ。
この企業は事実上、サウジの国有企業であり、株式の大半を政府が持つため、ESG投資の流れの中でも、投資が集まりやすいというカラクリがある。
そして、そこで生まれる圧倒的な生産コストの低さから、サウジアラムコが狙うのは、ライバル企業が市場からやむなく撤退した後に、最後のプレイヤーとして、残存利益を総取りするシナリオだ。
最後の最後まで生き残って、おいしいところを独り占めする、という逆風だからこそ描けるサクセスストーリーである。
実際、アラムコは脱炭素で石油業界への逆風が強まるなかでも、AIやビックデータ等石油採掘のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて先端投資を進め、2020年に取得した米の技術特許は過去最高の683件。アラムコ幹部によると、この数は多くの欧米石油メジャーを上回っているとのことで、CEOのナセル氏も「石油ガス資産の利益を最大化するための長期戦略は計画通りに進んでいる」と発言している。
その文脈で言うと、原油価格は、最後は高止まりすることが、産油国にとっては有益とも考えられる。実際、将来的にも今回のパンデミック等予期せぬ事態の際に、非常用エネルギー源として原油をはじめ化石燃料が必要になることは大いにあり得る。また、IEA(国際エネルギー機関)によれば、2050年の石油含む化石燃料の必要量は大きく減るとするものの、少数の企業が生き残って価格が上がるという分析を見せており、そこにも整合する。
そういう意味では、今後、脱炭素の流れで原油市場が徐々に縮小していくにしても、プレイヤーが減る一方で、残った強いプレイヤーによって否応なしに原油価格が吊り上げられていくことも考えられる。
このように長期で分析したときに、日本への影響はどうなるのか。最後に解説したい。
いずれにしても、化石燃料をめぐる状況は不安定になっていく可能性が高い。その中で、今回解説したような絶妙なバランスはあるものの、長期で見れば供給が締まっていく流れは確実とも言え、一方で世界のエネルギー需要は増えていくので、コストが下がるという期待は低い。そうなると、日本は外部依存性が高いため、その影響をもろに受ける格好になる。
再エネは出力が不安定というのはあるが、とはいえ自給できるエネルギー源でもあり、再エネの比率を高めながら、その中で、どのようにエネルギーマネージメントをしていくかを検討しつつ、外部性を下げていくことが、戦略としては良さそうだ、というのも今回の分析からは見えてくるだろう。そういう意味では、産油国が短期・中長期で縛られているジレンマは、日本も他人事とは言えない。
また、これは企業にも言えることだ。1企業としてエネルギー調達のコストをどう安定化させるか、抑えていくかということを考えていかなければ、こうした世界の潮流に間接的に巻き込まれてしまう。
すでにセブン&アイ・ホールディングスなどはPPAという手法で、自社のエネルギーポートフォリオの中の再エネ比率を高めている。リスクは電気事業者に負ってもらいながら、自分たちは再エネの比率向上による、事業への影響最小化をはかる、こうした動きを先に先にできた企業というのが、長期的に恩恵を被るようになる。そのようにいまの脱炭素をめぐる大きな構造があるように見えてならない。
今回はこの一言でまとめたいと思う。
『様々な思惑が重なっている原油の高騰 これは簡単には収まらないかも』
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