自動車業界を中心に新しいテクノロジーが出てきている。米国ではACES(自動化(Automated)、接続(Connected)、電化(Electrified)、共有(Shared))と呼ばれるトレンドは社会をどう変えていくのか。今回は「自動化」を中心に、シリコンバレーでのACESをアークエルテクノロジーズの宮脇良二氏がリポートする。
WAYMOがそこら中にいる!
2018年9月にシリコンバレーに来た際、自動運転のテストカー、特にグーグルの自動運転車のウェイモ(WAYMO)が普通に街を走っているのを見て驚愕した。それも偶然の発見ではなく、グーグル本社のあるマウンテンビューの国道では、数分に1台の割合で走っていたのである。
まだ運転席にドライバーが座り、何かあった時にブレーキやハンドルを操作できるようにしているものの、基本は何もせずに安全確認だけを行なっているようだ。
アパート探しの為に案内してくれた不動産屋のお兄さんは「5年もあれば自動運転の時代になると思うよ!」と軽く言っていたが、シリコンバレーにいると、本当にそんな感覚になる。
カリフォルニアでは65社が自動運転テストを行う
カリフォルニア州自動車局によると、2019年12月5日時点で、65社に対して、自動運転車のテスト走行許可が与えられているとのこと。2018年10月時点で既に55社、2019年11月7日には60社であったので、この1年はそこまで増えていない。既に主要な自動車メーカーはほとんどテスト走行の申請を終えているということであろう。
一方で、街で見かける自動運転のテストカーの数は日に日に増えている。自動運転のデータを蓄積するために、各社とも特定のエリアで集中的にテストドライブを実施しているのだ。
グーグルのウェイモはマウンテンビュー周辺、アップルはクパチーノ、GMのクルーズはサンフランシスコ市内で頻繁にその様子を見る。
この1年間の大きな変化としては、ウェイモの走行範囲が拡大したことである。以前はスタンフォード大学付近では見なかったのだが、2019年8月頃からスタンフォード大学周辺および学内でその姿を目にするようになった。そして11月にはサンフランシスコ市内でも目撃し、データの取得範囲を大きく拡大し始めた事が確認できる。
自動運転車の性能はここまできている
さて、自動運転車は実用に耐えられるレベルまで来ているのだろうか?
実際に、街中で自動運転車を見かけた感じでは、スピードは他の自動車と変わらず(思ったよりかなり早い)、Uターンまでしている。自動運転車は慎重に行動するため、交差点等で前にいるとイライラするという声も聞いたが、少なくとも私はそう感じた事がない。
気になる交通事故だが、ごくたまに自動車の接触事故のニュースを見る。ほとんどは対向車の信号無視や、無理な車線変更、不注意運転による操作ミスで、巻き添えになるケースと思われる事故である。統計が出ていないものの、普通自動車の事故の頻度と比較した場合、自動運転車関連の事故の方が少ないのではないかと推察される。
自動運転車には各社のトレーニングを受け、認定を得たテストドライバーがドライバーシートに乗車し、危険な時にはハンドルやブレーキを操作することになっている。見ている限りではテストドライバーは普通の方達であり、プロのドライバーというわけでは決してない。
今年の3月に日本経済新聞が整理した自動運転車の走行距離と介入頻度(ドライバーがハンドルやブレーキを操作)の数字によると、ウェイモの介入頻度は17,730kmに1回とのこと*。ほぼ介入なしに、自動運転を実現できていると言ってもいい数字である。誰が運転席にいてもほとんど変わらないという事である。
- *自動運転走行実績 日本経済新聞2019年3月18日
(リンク:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42184090Y9A300C1TJ1000/)
自動運転車の注目企業、オーロラ社
65社あるカリフォルニアの自動運転走行許可企業の中で、注目株は2019年初頭にアマゾンとシリコンバレーの超有名VCであるセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)から5億ドルの出資を受けているオーロラ(Aurora)社である。
同社はグーグルの自動運転チームのリーダーだったクリス・アームソン、テスラのオートパイロットの責任者だったスターリング・アンダーソン、カーネギーメロン大学の元教授でディープラーニングの最先端にいるドリュー・バグネルの3人が立ち上げた会社である。
最新のプロセッシングパワーやディープラーニングのテクノロジーを考えると、ウェイモやテスラで使われているアーキテクチャーとは異なるアプローチの方が望ましいという事で、一度自分達の経験をリセットするために、新しく会社を立ち上げたとの事。まさに日進月歩の世界である。オーロラ社については、スタンフォード大学で私のファカルティであった、櫛田健児先生のレポート**が詳しいので、そちらを参照されたい。
- ** オーロラ(Aurora):先陣を切る企業を飛び出した起業家たち 櫛田健児 (リンク:https://www.canon-igs.org/column/network/20190322_5666.html)
フェニックスでは完全無人のサービスを開始
2019年11月時点で、カリフォルニア州は4社(Zoox、AutoX、Pony、ウェイモ)に対して、自動運転車によるタクシーサービスパイロットの許可を与えている***。セーフティドライバーがつく事や、乗車料金を徴収しない等の条件が与えられている。筆者の知る限り、まだサービスは一般に公開されていないが、一般に解放されれば、乗りたいという消費者はシリコンバレーにはかなりたくさんいるに違いない。
ちなみにお隣のアリゾナ州最大の都市フェニックスでは、すでにウェイモが自動運転タクシーを始めており、今年の11月からはセーフティドライバーをつけない、完全無人でのサービス提供を開始したとの事。次回の渡米では是非フェニックスで完全無人を試して見たいと思う。
- *** カリフォルニア州PUC(リンク:https://www.cpuc.ca.gov/avcissued/)
スタンフォード大学のAutomotive Innovation Facility
スタンフォード大学には自動車研究センター(Automotive Innovation Facility)があり、そこでも自動運転の研究が進んでいる。
大学での研究は商用のものよりエッジを効かせたものが多く、レーシングドライバーよりも、早く運転することを目指したものや、ドリフト走行を行うもの(しかもバック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンの車体です!)、人間の知覚と同じ精度の安全性を目指すものなどがある。フォルクスワーゲンを始め、多くの自動車メーカーとの共同研究やグランツーリスモのようなゲーム会社とコラボレーションした、シミュレーションツールの開発等、大学ならではでの思い切った研究が進められている。
自動運転車の時代はすぐそこに
以上がシリコンバレーで見た自動運転の現状である。日本にいては分からないが、自動運転の実用化はすぐそこにあり、これから数年のうちに新しいサービスが数々開発されるはずである。
一方で、自動運転には膨大なデータが必要であり、カリフォルニア州やアリゾナ州、そして中国などのように十分なデータを収集できた地域から順番にサービスを受けることができるようになるであろう。日本に来るのはいつになるのであろうか?