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ついにトヨタも減産へ 世界的な半導体不足はなぜ長引いているのか

ついにトヨタも減産へ 世界的な半導体不足はなぜ長引いているのか

2021年08月20日

半導体不足が終わる気配がない。8月19日付の日経新聞は、半導体不足によるトヨタ減産のニュースが報じられ、結果として、トヨタの株価は下落した。報道によると、トヨタが7月下旬に策定していた9月の生産計画は90万台弱。しかしこれが54万台にとどまる見込みだ。減産規模は36万台。国内14万台、北米と中国は各8万台。ヨーロッパで4万台、アジアで8千台、そのほかで1万台としている

今回の減産は東南アジアでの新型コロナウイルスの感染拡大、部品調達の停滞が響いているとのことだが、世界的な半導体不足は今後、しばらく継続する見込みだ。

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そもそもの半導体不足の原因は

半導体不足のそもそもの原因は、いくつかの要因が組み合わさった複合的なものだが、その発端はファウンドリー企業(半導体の受託生産に特化した企業)の生産計画の狂いによるものだ。

スマートフォンやデータセンター向け半導体が従来好調だったところに、コロナ禍の巣ごもり需要を獲得したノートパソコンや大型TV向けに生産体制が割り当てられてしまった。一方、コロナ禍で生産が落ち込んだ車載用には、生産体制は十分に割り当てられなくなっていた。

そこに、経済の回復とともに、自動車需要が復活したため、車載用半導体の需要が一気に増えた。しかし、前述の理由で車載用半導体の供給量が間に合わなくなり、不足に陥った。

車は、EV、HVも含めて脱炭素の流れで電動化が主流になりつつある。車の電動化が進めば進むほど、1台あたりに必要な車載用半導体は増えることになる。もちろん、デジタルの文脈でも半導体需要は引き続き旺盛だ。つまり、半導体は世界中で需要がこれまでになく旺盛な状況になっている。

こうしたところに追い討ちをかけるような事態も続いた。

  1. 米中摩擦の一貫で、中国のファンドリー企業SMICが米国の制裁を受けた結果、供給全体ではマイナスに
  2. 日本では旭化成エレクトロニクス延岡工場とルネサスエレクトロニクス那珂工場の火災
  3. 米テキサス州の大寒波によってInfineonやNXPなどの大手半導体メーカーの工場が稼働停止

こうしたいくつもの不幸な事態も重なり、供給不足に輪がかかる結果となったといわれている。

これが現在の半導体不足が発生した複合要因だ。


ルネサスエレクトロニクス那珂事業所 国土地理院 (Geospatial Information Authority of Japan), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

問題は過ぎ去った、わけではないのか?

ただ、ここで気になるのは、一過性の問題も多くないのか、ということだ。例えば、テキサスの大寒波の問題はそれこそ一過性の問題で、すでに生産は回復している。

国内で大きく報じられたルネサスエレクトロニクスの火災も復旧が進んでおり、6月の同社プレスリリースによれば那珂工場の生産水準は、火災発生前対比で100%を回復したという。7月の会見では「8月の中旬には火災前の出荷水準を超えて、かなり上回ったペースで出荷を継続できる」との見方を示した。つまり、こちらも解決している。

前述の通り、コロナの蔓延を契機に車の需要が落ち込み、半導体の注文をとめた。その後、車需要が回復した際に、足並みをそろえて回復できなかった、という要因もあった。いまは、そうした需要の谷もないはずなので、問題は改善されてきているはずだ。

それでもトヨタが半導体不足で減産。今年ももう後半になる。いったいなぜそうしたことになっているのだろう? また、いつまで続くのだろう。

半導体不足はまだまだ続くといえる理由 1:急激な需要増加

まず、いつまで続くのか。実は、数年規模で続くのではないかという見方が出てきている。

ドイツ最大の半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズは、世界的な半導体不足が何年か続きかねないとみていると、ブルームバーグは報じた。同社のラインハルト・プロスCEOは独・フランクフルター・アルゲマイネ紙のインタビューで、半導体不足が「2023年になっても続くかもしれない」と発言している。

なぜか?

1つ目の要因は「半導体の需要増加が早すぎる」という点にある。

いま、世の中のいたるところでトランスフォーメーション、つまり移行が起きており、その代表格はデジタル(DX)とグリーン(GX)、つまり脱炭素につながっている。このデジタルもグリーンも、社会変革を起こしうるくらいに進展しており、各国の政策転換や、G7をはじめとする国際合意形成を見ても明らかだ。そのいずれのトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たすのが、半導体だ。

デジタル、グリーン両方の波が一気に進展しており、半導体の需要増は、これまでの延長線上で考えるよりもさらに大きいものになる。では、供給力を増やせばいいのではないか。その通り。その通りなのだが、それが簡単にいかないのが、半導体という産業の特性になる。

半導体不足はまだまだ続くといえる理由 2:巨額の投資判断

2つ目の要因は、この「供給力をすぐに上げられない産業特性」だ。前述のインフィニオンのCEOがこの点についてもコメントしている。「シリコンウエハーを半導体に加工する新たな施設やクリーンルームの建設には2年から2年半かかり、既存施設をアップグレードするには9ヶ月から1年かかる可能性がある」。

この通り、半導体の生産設備は、新設するのも、増強するのも、相当時間がかかる。しかも、半導体の製造には数億~100億円以上もする高額な製造装置を工程ごとに購入する必要があるため、かなりの投資額になる。

供給力アップにはこうした投資判断も必要になってくるわけで、簡単に「増強」「新設」ともいかない事情も各企業にはある。

例えば、コロナ禍の最初に車メーカーからの受注量減少などに代表されるように、いつ急激な需要の変化があるかは予測不可能だ。そのため、企業の体力と照らしながら投資をするしかない。


半導体工場には多額の投資が必要になる(写真はイメージ)

半導体不足はまだまだ続くといえる理由 3:水平分業化

他に産業構造の問題もある。半導体業界で進んだ過度の水平分業化だ。

前述のように、半導体の設備投資には大きな投資が必要になる。そのため、垂直統合ではなく、水平分業が国際的に進展をした。

つまり、工場をもたないで製造業をやるファブレスや、生産の大部分を外部企業に委託するファブライトという業態が出てきたものに対し、ファウンドリーという、半導体専門の受託企業が納入するという形になった。

2000年代あたりから、こうした半導体製造の水平分業化が一気に進展したが、当然、ファウンドリ―の生産が追いつかなくなると、ファブレス、ファブライトも機能しなくなってくる。こうした業界の構造自体が半導体の供給不足に陥る要因になっている。

いまはもうファウンドリーの生産が追いついていない。このファウンドリーの生産能力追いつかない問題が、実は、ずっと尾を引いているのだ。

半導体製造のリードタイムはすでに26週も

こうしたファウンドリーのボトルネックは、リードタイムの長期化を引き起こしている。ここでいうリードタイムとは、メーカーが半導体を注文してから製品が納品されるまでにかかる時間のこと。このリードタイムを計算にいれて、製造業者(たとえば車メーカー)は、自社製品の生産計画を立てる。注文してから、納入されるまでのリードタイムが、予定していたよりも遅くなると、その間、生産が止まる。

つまり、需要に供給が追いつかなくなることで生じる半導体自体の絶対数不足の他にも、リードタイムの長期化による部品メーカー、さらには製造業の生産ラインの不稼働を引き起こしているのだ

ブルームバーグの8月10日の報道によると、サスケハナ・ファイナンシャル・グループの調査でわかったこととして、半導体のリードタイムは7月に20.2週間と、前月から8日間余り延びたとある。このリードタイムは同社が統計を開始した2017年以降で既に最長となっているということだ。このレポートによれば、自動車や産業機器、家電製品の機能を制御するマイクロコントローラーとロジックチップの不足が7月に深刻化したという。

どのくらい遅れているかというと、通常は6ー9週間のリードタイムであるところ、現在は、これらのチップのリードタイムは26.5週間になってしまっており、確かにかなり深刻な状況だ。トヨタの苦境も、この辺りが、かなり関係しているようだ。

では、ボトルネックになったファンドリーはどういう立場をとっているかというと、報道によれば、台湾の大手ファンドリーTSMCは「既存の生産能力をフル稼働しており、他の顧客を切り捨ててまで自動車メーカーに製造ラインを提供することはできない」と回答。引き続きこのファンドリーボトルネック問題は続きそうだ。

ただ、そんな中、生産を増やして存在感を発揮してきた国がある。中国だ。

半導体供給網での、中国の存在感が増す

もともと中国は半導体の国産化の強化を国策として進めていた。ハイテク産業の育成策「中国製造2025」を参照すると「半導体自給率を70%まで高める」という目標がある。報道によると現状は2割程度だ。

では中国は、なぜ国産化にこだわっているのか。発端は、国力強化はもちろんだが、これはアメリカから仕掛けられた半導体戦争への対抗策だ。

アメリカからの仕掛けに対し、中国の中央・地方政府は相次いで、半導体の国産化を目的とした半導体ファンドを設立、中国企業への投資を本格化するようになった。

その中で台頭したのが、SMICという企業。SMICの技術水準はTSMCと比べて低いなどの批判もあるが、これは中国の成長にありがちなところで、そのように言われながらも、急速に成長をする、という流れにどうやら乗っているようだ。ちなみに、SMICはアメリカから目を付けられて、制裁対象となっている。


SMICウェブサイトより

これはアメリカが仕掛けたことによって、中国が窮鼠猫を噛むがごとく、策を練って、逆に成長してしまう、と見れなくはない。

皮肉なことに、世界が半導体不足にあえぐ中、中国は、したたかにこの半導体生産を伸ばしていた。そしてここでポイントなのが、半導体は設備投資がかかる、という先ほどの論点だ。

考えてみれば、中国は生産をどのような状況下でも伸ばせる素地がある。というのも、中央や地方政府が金銭的にもバックアップについているため、投資の判断も迷いなくできるわけだ。

結果は、どうなったか。South China Morning Postの報道によれば、中国政府が公表した統計で、半導体集積回路の生産量は月間生産量のレコードを塗り替え、前年同月比で41.3%増加、316億ユニットに達したという。7月までの生産合計は2,036億ユニットで、これは前年比47.3%の増加。もちろん、これが実際の需要に対してどれくらいマッチしているのかは不明だが、すさまじい勢いで生産を増やしていることが分かる。

世界のシェアの7割を超えるところまで成長した中国産の太陽光パネルも、同じように、中央・地方政府の支援を受けての成長だった。このような中国の成長カーブは決して侮れない。

特にこれから、デジタル、グリーン文脈で半導体の重要性が増してきて、そこに巨大な需要が見込まれることは、これは自明だ。そうしたところに、日本も戦略的に投資を張って、国際競争に負けないようにしつつ、今回のトヨタの減産というような自国企業への影響が出ないよう、しっかりと取り組んでいくことが重要ではないか。

今日はこの一言でまとめよう
『まだまだ続く半導体不足 国としてのしっかりした準備と対策を期待』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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