A.L.I.Technologies 渡慶次道隆副社長インタビュー(1)
みんな電力株式会社(以下みんな電力)は、その買い取りの仕組みに、仮想通貨のバックグラウンドを支えるシステムであるブロックチェーンを使うと説明している*。電力とブロックチェーン、一見まったく関係ないもののようにも思われるが、これはどういうことであり、どんな意味があるのだろうか?
そのシステム開発をみんな電力と協業で行っている会社が、東京都内にある株式会社A.L.I.Technologiesという会社。同社はドローンを使った次世代交通システムのインフラ構築を行うエアーモビリティー事業を中間に据えつつ、電力× ITという分野での事業展開も行っており、その一つとしてみんな電力との協業ビジネスをスタートさせているのだ。ここで実際何を狙っているのか、そして将来どんなことが起こっていくのか、A.L.I.Technologies の取締役副社長、渡慶次道隆(とけいじみちたか)氏に話を伺ってみた。
*https://minden.co.jp/personal/news/2018/12/05/587
取材・執筆 藤本健
−まずは、御社がみんな電力と協同でブロックチェーンを活用したP2P電力取引プラットフォームを開発した経緯について教えてください。
渡慶次:みんな電力において、このP2P電力取引プラットフォーム(ENECTION2.0)開発リーダーである専務の三宅成也さんとは、お互い前職時代の4、5年前から一緒に仕事をしていました。私は三井物産でIT系の事業投資、新規事業開発などをしており、電力 × ITを軸に動いていました。当時あるエネルギー関連企業の買収計画を進める中、コンサルタントとして入ってもらったのが三宅さんだったのです。
その後、三宅さんがみんな電力に転職され、「顔の見えるでんき」をブロックチェーンでより信頼ある仕組みにしていきたい、というニーズが出てきた。一方で私は昨年、このA.L.I.Technologiesに転職してきたのですが、当社にはブロックチェーンに強いエンジニアが多くいる。その結果、一緒にやることになったのです。
−御社はドローンを中心とした事業展開をしている会社と認識していましたが、ブロックチェーンとはどう関連するのでしょうか?
渡慶次:当社はエアーモビリティー事業、つまり空飛ぶバイクを実現させ、空のインフラを作ることを目指しています。空中には、目には見えないけれど空の道があり、この決められた道を飛んでいくのです。その挙動をモニタリングし、つまりどこを飛んだか追跡したり、課金などをしていくシステムを構築しているのです。
このシステムを一般にUTM(Unmanned Aerial System Traffic Management)と呼んでいるのですが、ここで重要になる技術がブロックチェーンです。そのため、ブロックチェーン構築を専門とする優秀なエンジニアが当社に多くいるのです。
エアーモビリティー事業のほかに、GPUを使った計算力の貸し出しビジネスであるコンピューティングパワープール事業も展開しています。ここには大きな電力を必要とするため、たとえばソーラーパネルの近くにシステムを作る……といった話も出てきており、そうした点でも、電力とは切り離せない世界にいるのです。
−電力とブロックチェーン、一見まったく関係ない世界の話のようにも思えますが、最近いろいろなところで話題になっています。
渡慶次:確かにブロックチェーンは電力業界でもバズワード、パワーワード的に使われているように感じます。その背景には、日本でも電力の自由化が進んできており、いろいろなIT系のモノの考え方の方が電力業界に入ってきていることがあるのだと思います。
電力業界はご存知の通り発電、送配電、小売りと大きく3つに分かれますが、IT業界の常識とはかなり違うのも事実。IT業界の常識がそのまま通じ、そのノウハウを電力業界にスライドさせてビジネスができるのは小売りと発送電の一部の効率化くらいしかないのではないでしょうか?
発送電になってくると、どうしてもインターネット的に扱えない部分が出てきてしまいます。たとえば周波数調整なら有効電力で、電圧調整なら無効電力で行うなど、交流回路特有の事情を理解しておく必要があります。
IT業界出身の方はやはり有効電力と無効電力すらわからない人も多く、それだと電力のP2Pなどといっても話にもならない。やはりバズワードになりすぎていると思うのです。
ブロックチェーンがなんでも解決してくれると思っている人がいっぱいいすぎるのが実情ではないでしょうか。確かにブロックチェーンは電力業界にフィットするけれど、ブロックチェーンが必須ではないのです。
−今日はもっと「電力とブロックチェーンの輝かしい未来」のような話になるのかと思っていました……
渡慶次:ブロックチェーンにはいろいろな特徴がありますが、パブリックなブロックチェーンを使って、システムを納品するとゼロダウンタイムなんて言い方をしますが、つまり落ちずに動き続けるという素晴らしいシステムができてしまいます。
そうなるとシステム屋は儲からない。だから大手SIerなどはプライベート型ブロックチェーンやコンソーシアム型ブロックチェーンを勧めてくるわけですが、それでは非改ざん性など、ブロックチェーン本来の良さが出てこないのです。
電力業界に限らず、ブロックチェーンを本当の意味で有効に使っているケースは少なく、まだ過渡期の技術だと思います。そうした技術が電力のような絶対的な信頼性の求められるところでいきなり使うというのは難しい。
そのため、弊社では大手企業向けにブロックチェーンの使い方や仕組みを解説しつつ、アイディアだしや評価を行うワークショップなどを行っているところです。私個人的には懐疑的に思っている点もあるのですが、これから少しずつ全体としてブロックチェーン導入が進んでいくのだと思います。
−ところで、みんな電力のP2P電力取引プラットフォームについて、より具体的なところを伺います。これはブロックチェーンを用いて、家庭で太陽光発電をする人など、電力の供給者と、実際に電力を利用する需要者を結び付けていくものですよね。そのブロックチェーンにNEMを使っている、ということですが、なぜNEMを採用したかという点を教えてください。
渡慶次:P2Pで何をするかという事業内容については、みんな電力に聞いていただくのがいいのですが、このプラットフォームで目指したのは、供給者側がどれだけ発電したのかをブロックチェーンによるトークンとして発行するとともに、需要者側がどれだけの電気を使ったのかもトークンとして発行し、それを突き合わせていくという仕組みです。
おっしゃる通りそのブロックチェーンにNEMを使いました。ビジネスの世界ではEthereum (イーサリアム)を使うケースが多いのですが、ちょうど今回のシステムを構築した当時、ICO(Initial Coin Offering)が流行っていた時期と重なっていたんです。つまり、ICOをイーサリアムベースで行うものが非常に多かったときだった。その結果、トークンを発行するのに非常に時間がかかり、Ethereumは扱いづらかったのです。かといってプライベート型のブロックチェーンにすると本来の目的である信頼性が薄れてしまうので、パブリックなものを使いたかった。
そこですごくマッチしたのがNEMでした。NEMはNew Economy Movementの頭文字をとったもので、分散型の社会インフラとして使われることを目指したブロックチェーンでした。
非改ざん証明書を発行する機能を持っているしスピードも速い。このP2P電力取引プラットフォームに非常にマッチしていると考えて採用したのです。
−NEMというとコインチェック事件*で悪い印象を持っている人も少なくないですが……。進化の速いブロックチェーンの世界、もし今、改めてP2P電力プラットフォームを作るとしてもNEMを採用するのでしょうか?
渡慶次:みんなNEMと呼びますが、正確にはNEMベースの仮想通貨はXEMであり、事件があったのはXEMが流出した…ということなんですけどね。
そのNEMでは基本的に1トランザクションあたり、0.15XEMが課金される仕組みです。今回のP2Pシステムでは30分に1回のトークンを発行するため、1日あたり48トランザクションとなり、7.2XEMかかる計算です。
2つの発電所から供給するとなれば、その倍となるわけです。現在1XEMが10円程度ですから、1日72円。これは大規模に電気をやりとりする法人であればいいけれど、個人としてはやや厳しいものとなります。もちろんXEMの相場も変動します。
2018年1月のピーク時には200円を超えたので、こうなるとまったく現実的ではなくなってしまいます。
一方で、その後NEM以外にもさまざまなブロックチェーンのプラットフォームが登場してきており、中にはパブリックなブロックチェーンだけど、トランザクションごとでの課金がかからないというものもあるのです。
そのため、今改めて作るなら、別のブロックチェーンを選択する可能性が高いですし、みんな電力のシステムも、別のものに移行するということもありではないか、と考えています。
*1:2018年1月に起こった仮想通貨流出事件。(取材・執筆 藤本健 撮影:寺川真嗣)
エネルギーの最新記事