発電電力量を「増やす」リパワリング
太陽光発電の設備利用率は、パネルの効率だけで決まらない。光の当たり方や影のでき方、パワコンの性能やその配置といった要因でも変化する。一度完成した発電所であっても、設備改修(リパワリング)によって発電量を増やし、投資を上回る収益を上げることが可能だ。afterFITで工事チーム兼リパワリングチームを担当する橋口辰也氏が、発電電力量を増やすポイントを解説する。シリーズ第1回目は、パワコンのリプレイスを取り上げる。
パワコンの特性や接続、気温などで電力量は変わる
パワーコンディショナー(パワコン)は、太陽光発電の直流の電気を、送電線に流すために交流の電気に変換する機器です。直流の電気を100%交流に変換できればいいのですが、どうしてもロスが生じます。また、どのくらいロスになるかは、気温や入力する電力量などによっても変わります。
また、パワコンにどのように太陽光発電モジュールを接続していくのかということも、大きく関係しています。
こうしたパワコンの特性や発電所の立地地点の特長、パネルの配置などを考えながら、設計にあたって、パワコンを選定・配置しています。
パワコンの特性は、製品によって異なっています。実際に私たちは、日射量と発電量がまったく同じ低圧の2つの発電所において、一方のパワコンを別の会社の製品に交換し、実験をしたことがあります。
このときは、SMA製の4.5~5kWクラスの小型のものと、他の会社の製品で、半年間の比較をしました。結果からいえば、SMA製のパワコンの方が、電力量は多かったのですが、同時に、夏・秋・冬と季節ごとにデータが異なっているということもわかりました。
低圧~高圧では小型パワコンが主流に
パワコンの性能もさることながら、最近注目されるようになってきたのが、小型パワコンへのリプレイスです。
以前は、発電所の規模に応じて大型パワコンを設置することが主流でした。確かに、小型パワコンをたくさん設置するよりもパワコンそのものの価格が安くなりますし、管理も楽になります。
しかし、小型のパワコンを分散して設置することの方が、メリットが大きいという考えが広がってきました。
実際にあったことですが、ある発電所で大型パワコンが故障したときに、修理されるまでに50日もかかりました。修理したくても、部品もなければ技術者もすぐに対応できなかったのです。この間に失われた売電収入は800万円にもなります。
もしこれが仮に、小型パワコンだった場合はどうでしょうか。高圧の発電所で使われる小型パワコンの主流は、33.3kWから、49.5kW、125kWといったサイズです。仮に125kWのパワコンだった場合、売電できないのはここにつながっている太陽光発電モジュールの分だけで、残りのモジュールが発電した電気は引き続き売電できます。また、予備のパワコンを用意しておくことで、修理を待たなくても交換することで対応することができます。
幸い、小型パワコンの価格は大型パワコンとkWあたりの価格で遜色がなくなってきました。こうしたこともあって、この発電所では、大型パワコンを小型パワコンにリプレイスしました。
現在は高圧以下の発電所では、設計段階から小型パワコンを複数設置することが主流になっています。
太陽光パネルの下に設置されたパワコンストリングスの特性を考えた接続
太陽光発電所では、何枚かの発電モジュールが直列につながっており、1つながりごとにパワコンに個別につながっています。この直列の1つながりをストリングスといいます。
太陽光発電では、モジュールをパワコンに接続するにも、どのようにつなぐかで、電力量が変わってきます。
基本は、特性が似たモジュールをつないで1つのストリングスにして、パワコンに接続するというものです。
太陽光発電パネルは、影ができると発電しないだけではなく、電気が流れなくなります。したがって、直列につないだモジュールの一部に影ができただけで、ストリングス全体が発電しなくなってしまうのです。
そこで、例えば夕方は影ができて発電しないモジュールがあれば、同じようなモジュールを1つのストリングスにします。一方、夕方でも発電するモジュールはそれとは分けて別のストリングスにします。
実際には、1つのストリングスにまとめるモジュールの特性は、影だけではなくより細かくなります。
パワコンには、MPPTという機能があります。最大電力点追従という機能で、気象条件などによって、最も効率のよい動作になっていくというものです。したがって、影だけではなく、同じ条件で発電量が下がるモジュールをなるべく1つのストリングスにまとめるようにするのです。
実は、平らな土地に設置した大規模な太陽光発電の場合、どの発電パネルも同じ発電量になるので、大型パワコンを使うメリットがあります。しかし日本の土地は傾斜地が多く、モジュールごとに発電量が異なってしまうので、その意味でも小型のパワコンを複数台設置する方が適しているのです。
各モジュールからパワコンへの接続にも気を使うパワコンの設置場所にも注意
パワコンの性能は、温度によっても変わります。暑すぎず、寒すぎず、というところで最適に作動します。したがって、小型パワコンを複数台設置する場合は、注意が必要です。悪い設置の仕方は、1列に並べることです。パワコンには熱を空気で冷やすしくみが備わっています。しかし、1列に並べてしまうと、パソコンの熱い排気がそのまま隣のパワコンに入っていくので、この隣のパワコンは冷やされず、効率が下がるか、あるいは故障しないように出力をしぼってしまいます。かといってばらばらに設置してしまうと、メンテナンスが大変です。そこで、パワコンをまとめて設置する場合には、互い違いになるように並べるといった工夫が必要です。
同じように、パワコンに直射日光が当たらないようにすることも大切です。できれば風通しの良い日影がいいでしょう。
こうしたことがわかっていても、パワコンの位置やストリングスのつなぎ方に問題がある発電所は少なくありません。なぜそうなるのかというと、多くの場合、施工会社が施工しやすいような発電所になるように設計されているからです。
太陽光発電モジュールがいくつかとりつけてある架台の1つを、1アレイといいます。1つのストリングスが1つのアレイに対応していれば、確かに施工しやすくなります。しかし、例えばアレイの上側と下側では、発電特性が違います。例えば、下のモジュールは南側にあるアレイの上端の影ができてしまう、といったことがあるからです。そこで、多少手間をかけてでも、アレイを超えて、上側に設置したモジュールと下側に設置したモジュールを別個のストリングスにした方が、電力量が多くなります。
太陽光発電所は進化する
もっとも、ここまで述べたことは、必ずしも絶対ではありません。1つには、太陽光発電パネルもパワコンもどんどん進化しているということです。
さらに、太陽光発電の設計思想や付随する設備も変わってきています。
例えば、パワコンの出力となるAC(交流)側に対し、太陽光発電の発電容量となるDC(直流)側の方がどんどん大きくなっています。50kWの発電所に、70kW対応の太陽光発電モジュールが設置されている場合、約40%も太陽光発電モジュールの発電容量が大きいので、過積載率も40%になります。過積載にすると、ピークのときの発電量はカットされますが、設備利用率が向上するというメリットがあります。
また、ピークのときにカットした電気を蓄電池に充電するというケースもあります。
あるいは、固定価格買取制度(FIT)の買取り単価が下がり、制度そのものの終了も見えてきたことから、自家消費型の太陽光発電設備が増えています。
このように発電所の運転が変わってくると、パワコンの設置や接続のしかたについても、何が最適なのか変わってきます。
さらに、MPPTは最大電力を追従してくれますが、それがシステムのピークとは限らないこともわかっています。
したがって、私たちもまだまだ模索中だということです。
10年目がパワコン交換のチャンス
太陽光発電所のリパワリングのうちでも、パワコンのリパワリングは最も取りくみやすいものです。というのも、パワコンの寿命はおおよそ10年といわれており、固定価格買取期間である20年間の間には、1回は交換することになるからです。
したがって、10年目がパワコンのリパワリングのチャンスだといえるでしょう。
このときに、単にパワコンを交換するだけではなく、思い切って小型化する、あるいはストリングスを変える、といったひと手間をかけることで、残り10年間の売電量、すなわち売電収入が変わってきます。
FITは2012年7月からスタートしたので、2022年から順次10年目を迎えることでしょう。場合によってはそれ以前の7~8年目で交換した方がいいケースもあります。 そうしたことを念頭において、パワコンのリプレイスを考えてみてください。