前編では、エネルギーミックスを中心に、小林正夫参議院議員にお話をおうかがいした。そこでは再エネの重要性と同時に、信頼回復を前提とした原子力の利用がポイントになってくるということだった。後編ではエネルギー基本計画の重点政策、そして福島第一原発事故から10年目となる現在の想いについて話していただいた。(全2回)
(前編はこちら)
― 次のエネルギー基本計画において、重点的に取り組まれるべき政策とは、どのようなものでしょうか。
小林正夫氏:エネルギー分野では、幅広い政策が必要だと思います。
電力に限っても、安定供給をいかに実現していくのかが重要な課題です。梶山経産大臣もカーボンニュートラルに向けたグリーン戦略に取り組んでいますが、その一方で電力需要は今後十数年間は伸びていくことが予想されるので、安定供給はより重要になってきます。
なぜ電力が伸びるのかといえば、高速通信時代、AI活用時代がその背景にあります。ですから、安定供給はもちろん、周波数の乱れが少ない質の高い電気を供給することが求められます。
電源のベストミックスということでいえば、火力や再エネはもちろんですが、水力は再エネの大きな量を支えています。この水力発電を維持していくために、しっかりと浚渫していくことが必要ですし、そのための予算措置も必要です。しかし、大規模なダムの場合、どのように浚渫していくのか、こうした課題にも取り組むべきでしょう。
バイオマス発電も、安定的に電気を送ることができる電源なので、大いに活用すべきエネルギーです。
一方、太陽光発電は、夕方以降に発電電力量が下がります。これをカバーするために、火力発電を立ち上げています。LNG火力も含め、困ったときは火力発電といえるでしょう。
このようにベストミックスを実現し、安定供給していくことが、重要な政策です。
小林正夫参議院議員
― 現在の政府の政策を考える上で、気になることがあります。それは、成長の2つの柱とされているのが、脱炭素とデジタル化なのですが、再エネが増えていくと電力システムのデジタル化を進める必要が出てくるということです。しかし、脱炭素のデジタル化はあまり話題になりません。
小林氏:私見ですが、そもそも論として、送配電分離が正しかったのかどうか、疑問を持っています。これは私が送配電部門の出身ということもあるかもしれません。
法律で決まった以上、電力システム改革を通じて、送配電分離をするのはやむを得ないのですが、発電と送電を分けてしまったことで、電力供給に必須である同時同量の維持など効率的な運用に問題がないかどうか、その是非は問われてもいいと思います。
― 確かに、電力のデジタル化を進めていく上で、発電と送電の協調による効率的な運用はテーマとなっていくと思います。その一方で、自由化されていない送電部門は、より公益事業らしい責任を担う一方で、新たな価値を作り出すことも必要かもしれません。
小林氏:送配電部門は今後も総括原価方式にのっとって事業を進めていくという点では、公益事業としての責任を担っていると思います。とりわけ、ここ1~2年は大型の自然災害による停電が発生しており、電力各社との連携で復旧させてきました。
しかし、これからの新入社員は送配電部門しか知らないというようなことになってくると、発電と送電の連携ですとか、そういった点でうまくいくのかどうか、疑問があります。
とはいえ、これから先、いろいろな技術が開発され、新しい時代の電気の供給ということも出てくることでしょう。
デジタル化ということですが、それがどのような社会をつくり、国民生活をどのように便利なものにしていくのか、その点はしっかりと見据えていきたいと思います。
私もデジタル化について、国会で質問させていただきました。効率的で新しいしくみができていくことについては、私も大賛成です。
― 先ほども少し話が出ましたが、2021年は福島第一原発の事故から10年目にあたります。小林先生は当時、政府の一員として事故の対応にあたったことだと思います。あらためて、想うことは、どのようなことでしょうか。
小林氏:現在でも、一にも二にも福島の復興を成し遂げることが優先課題です。また、福島第一原発については、廃炉を着実に進めていくことが必要です。デブリ(融解した核燃料)を取り出すための技術開発は、世界中の知見を集めて進められています。また、デブリが取り出されるまでは、冷温停止状態をしっかりと保っていくことが必要です。
そして、福島第一原発事故と同じことが二度と起こらないようにしなくてはいけません。
10年前、私は2期目で当選したばかりで、厚生労働省で政務官をしておりました。このときに事故が起こり、政務官としての対応を経験したのです。
地震発生時、私は国会の決算委員会で厚生労働大臣に陪席していました。地震発生後、委員会は中止となり、私は直後に東京電力に電話し、原発の状況を確認しています。このときは東電から「大丈夫です」という返事をもらい、その瞬間は「よかった」と安心したものです。しかし、テレビを見ていると大きな津波が発生し、福島第一原発は電源を喪失しました。一変して大事故となったのです。
東日本大震災は千年に一度の災害かもしれません。しかし、そうであったとしても、事故を起こしてしまったということは残念ですし、ショックなことでした。どのように対応していくのか、当時の民主党政権の中で、毎晩議論していたことも憶えています。
原子力そのものについても、「日本にはふさわしくないのでやめるべきだ」という意見がある一方で、私は「ここで将来の可能性をしばるのはどうなのか」と考えていました。そうした中、当時の民主党の中は2030年代原発ゼロという政策が決まりました。
― しかし、その後、野党となります。自民党政権となり、原子力政策は変化しました。
小林氏:私たちは与党として原発事故を経験しました。それをふまえ、原子力のあり方について、それぞれの政党の議員を含め、これからもいろいろな議論をしていきたいと考えています。
小資源国として、多くの電源を確保していくにあたって、原子力をなくしていいのかどうか、今後も真摯な議論を重ね、ベストミックスを考えていく必要があります。
― 最後に、これからの電気事業の役割について、おうかがいします。
小林氏:電気事業はすそ野の広い仕事です。多くの人が日本のエネルギーを支えています。
2020年から続くコロナ禍の中にあって、発電、送電を24時間、身体をはって守っているのが、電力会社の方々です。福島第一原発事故の廃炉を進めていく上でも、現場で多くの人がヘルメットをかぶり、頑張っています。
これからも電気事業はライフラインを守っていく、生活や産業を支えていく事業であり続けるでしょうし、そのことは多くの方にわかっていただきたいと思います。
(前編はこちら)
(Interview & Text:本橋恵一、Photo:岩田勇介)
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