小林正夫参議院議員は、電力業界の労組出身の国会議員であり、東日本大震災・福島第一原発事故が発生した2011年3月11日を、政府の一員として対応してきた。電気事業に深くかかわってきた小林議員は、エネルギー基本計画についてどのように考えているのか、お話しをおうかがいした。(全2回)
― 最初の質問ですが、2020年10月、政府は2050年カーボンニュートラル宣言をしました。この宣言に対する評価からおうかがいします。
小林正夫氏:カーボンニュートラルは、CO2排出削減の義務につながっていく、その点では大きな政策です。世界的にも進めていくべき政策ですし、気候変動の影響は深刻化しつつあるので、その点でも極めて重要です。
気候変動は、天然資源や食糧をはじめ、生きる事すべてにかかわってくるので、CO2排出削減は当然必要な政策ですし、我が国も積極的に取り組んでいくべきものです。
しかし、その一方で、CO2を100%無くしていくということだけではなく、エネルギーの安定供給を考えながら削減していくことも必要です。例えば、石炭火力発電所についても、高効率の設備の活用を考えていくことも、必要になってくると思います。
― 2020年10月というのは、タイミング的に遅いのではないかという見方もできると思います。
小林氏:タイミングとしては、適当だったと思います。昨年は世界各地で自然現象が異常になっているというニュースが多かったと思います。そのため、気候変動対策が必要だという機運が高まってきました。石炭の問題を中心に動き出してきたというタイミングでもあります。
小林正夫参議院議員
― 次の質問に移ります。現在、エネルギー基本計画の改訂が進められています。その中でも、もっとも注目されているのが、エネルギーミックスの見直しです。将来の目標について、どのようにお考えでしょうか。
小林氏:2020年12月から2021年1月にかけて、卸電力取引市場が高騰しました。そこで明らかになったのは、日本のエネルギー構造の脆弱性です。
資源小国の日本において、S(安全)+3E(環境、経済性、エネルギー安定供給)についてきちんとバランスのとれたものにしていく必要があります。
再生可能エネルギーのさらなる導入は必要ですし、洋上風力も大型の設備の建設をどんどんやっていくべきでしょう。エネルギーの種類ごとに、それぞれ長所と短所があります。そうしたことをきちんと国民に伝えて、バランスのとれたエネルギーミックスにしていく必要があります。
― 直近、2030年のエネルギーミックスはどうあるべきでしょうか。
小林氏:問題の1つは原子力だと思います。現在の稼働状況を見ると、このままでは政府の目標(第5次エネルギー基本計画における、20~22%)には届かないのではないかと思います。現実を見つめた計画にする必要があるでしょう。
とはいえ、資源小国として、電力の安定供給を実現していくためには、原子力が安全であると認められる前提で、再稼働を進めていくべきだと思います。政府として2030年の原子力の比率を変更しないのであれば、それはしっかりと説明していく責任があるでしょう。
― ですが、東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所では、他人のIDカードで出入りするなど、信頼を損なう出来事が続きました。
小林氏:あってはいけない事がいくつか続いたことは大変残念に思います。
2021年は福島第一原発事故から10年目という節目にあたります。改めて、安全を追求していこうというときに、柏崎刈羽原発で起きたことは、原子力発電を後退させる出来事です。
あってはならない出来事でしたが、改めて東京電力には再発が起きないようにしっかりと取り組み、国民に説明していただきたいと思います。
― 2050年のエネルギーミックスを考えると、原発の新増設が課題となってくると思います。
小林氏:日本にとって、原子力は準国産エネルギーです。そもそも、日本はエネルギーの自給率が低く、国産エネルギーをいかに高めていくのかということが課題となっています。
とはいうものの、まずは2030年も目標をいかにしてクリアしていくのか、ということが優先です。その上で、原発は新しいプラントの方が安全性が高いので、新増設も必要だと考えます。しかし、その前に、国民に対して、信頼が得られる努力をしていくことが必要です。そして電力会社も、高い安全性を実現する、しっかりした組織となっていくことが先です。
今日のような状況においては、原発の新増設を打ち出したところで、国民に理解されるものかどうか、懸念があります。
― エネルギーミックスにおいては、石炭火力発電も課題となっています。
小林氏:石炭火力発電については、非効率な設備は別の電源に切り替えていくということは、理解できます。とはいえ、2021年3月22日、経済産業省の石炭火力検討ワーキンググループで、2030年度の石炭火力の効率目標を43%にすると決めました。しかし、超々臨界圧発電方式でようやく43~44%が最高効率です。大手電力会社の石炭火力でどのくらいの発電所が該当するのでしょうか。現状を見ると、ほとんどの石炭火力は運転できないのではないかと思います。そういったことが、むしろ問題だと思います。
― 石炭火力が減少する分を、再生可能エネルギー、とりわけ洋上風力で対応していく、ということではだめなのでしょうか。
小林氏:もちろん、再エネは推進するべきだと思います。しかし、太陽光や風力は気候に左右される電源です。再エネを拡大していくと、電力の周波数が安定しにくくなっていきます。大型の蓄電池をベース電源として導入を進めていくようにならないと、再エネを主力電源として使えるようにはなっていかないでしょう。
― その点では、水素やアンモニアを火力発電の燃料として利用していくことが期待されています。
小林氏:いろいろな燃料を火力発電の燃料に混合させていく、ということも、石炭の消費を少なくしていく対策の1つだと思います。
(後編へ続く)
(Interview & Text:本橋恵一、Photo:岩田勇介)
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