米国の中でも太陽光発電が集中するカリフォルニア州が抱える課題は、日本にとっても重要な意味をもつ。太陽がかげる夕方の電力需要が跳ね上がる「ダックカーブ」現象はその一例だ。そのカリフォルニアで奮闘する数少ない民間電力会社から、大手3社(PG&E、SCE、SDG&E)の取り組みを比較しつつ、その特色について報告する。
"イケてる" 米国の電力会社(4−1)
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カリフォルニア州は、アメリカ全土の太陽光発電の半分以上が集まっている。1990年代に一度電力自由化されたものの、大規模な停電となったカリフォルニア電力危機などの影響で、2000年代初頭から自由化を中断。現在、自由化の範囲は大口需要家など一部にとどまっている。
そういった背景があるため、カリフォルニアの私営電力会社(IOU:Investor-Owned Utilities)は数少ない。
カリフォルニア州エネルギー委員会によると6社だ。このうち、供給量の多いPG&E(Pacific Gas and Electric Company)、SDG&E(San Diego Gas and Electric Company)、SCE(Southern California Edison Company)の3社について紹介する。
電力会社タイプ | 社名 | 電力消費量(GWh) |
---|---|---|
私営電力会社 | Bear Valley Electric Service | 78.464967 |
私営電力会社 | Liberty Utilities | 286.582287 |
私営電力会社 | Pacific Gas and Electric Company | 28014.177402 |
私営電力会社 | PacifiCorp | 367.130421 |
私営電力会社 | San Diego Gas and Electric Company | 5859.611494 |
私営電力会社 | Southern California Edison Company | 27324.324408 |
出所:カリフォルニア州エネルギー委員会:California Energy Commission
カリフォルニア州エネルギー委員会のウェブサイトでは、任意の電力会社、セクター、年次別の供給量などを一覧で確認できる。
上表は、2019年のIOU各社の家庭向け電力販売量(単位:GWh)を示したものだ。多い順にPG&Eが28,014GWh、SCEが27,324GWh、SDG&Eが5,859GWhとなっている(日本国内では四国電力の2019年度の電力販売量が29,855GWh)。
各社の供給エリアは下図のとおり。白色で示されたPG&Eと紺色のSCEのエリアが広いことがよくわかる。SDG&Eは、最下部のグリーンのエリアだ。ちなみに、以前取り上げたサクラメント電力公社(SMUD)は、SDG&Eの供給エリアの真ん中に位置する。
出所:カリフォルニア州エネルギー委員会:California Energy Commission
PG&Eは、度重なる山火事などによって多くの民事訴訟を受け、賠償金が膨らみすぎたことで2019年1月に経営破たんしたことは日本でも報じられた。その後、連邦破産法(日本でいう民事再生法)の脱却に向け、増資や株式売却によって資金を集め、2020年7月にこれを脱却したことを発表している。
1905年創業のPG&Eは、サンフランシスコを本拠として電気とガスを販売している。送配電網やガスのパイプラインを有する小売電気事業者であり、電気の顧客は510万軒、ガスは440万軒だ。
2019年の電源構成は、44%が原子力、29%が太陽光や風力、バイオマスや小水力などの再エネ、29%が大規模水力で、100%カーボンフリーの電気を供給している。PG&Eは、シエラネバダ山脈を中心に68ヶ所、3,900MWの水力発電設備を有している。
出所:PG&E ウェブサイト
カリフォルニア州最後の原発であるディアブロ・キャニオン原子力発電所は、PG&Eが運営者だ。2025年までに段階的に閉鎖されることが決定しており、再エネの割合を増やす意向だ。
閉鎖を発表した2016年当時のトニー・アーリーCEO は「エネルギー効率、再生可能エネルギー、貯蔵がカリフォルニア州のエネルギー政策の中心となる(California's energy landscape is changing dramatically with energy efficiency, renewables and storage being central to the state's energy policy)」と述べた。
SCEは、カリフォルニアを中心に1,500万軒の顧客に電気とガスを送り届けている。2030年までに80%、2045年までに100%のカーボンフリー電源に切り替えることをコミットしている。電源の脱炭素化に加え、輸送の電化や低炭素電源の開発、炭素貯留などに取り組む。
2019年の電源構成は、48%が再エネや大規模水力、原子力を含む脱炭素電源だ。
出所:SCE SUSTAINABILITY REPORT 2019
SCEの特徴は、エネルギー貯蔵と省エネに力を入れている点だろう。
2017年4月、SCEはGEとともに、蓄電池とガスタービンを組み合わせたハイブリッドシステムの運用を始めた。これは太陽光や風力発電の出力変動に対して、急速な負荷追従ができるように考えられたシステムだ。
個人、法人問わず需要家の省エネを支援する100以上のプログラムを有している。例えば、ヒートポンプ給湯機の税額控除や、中小企業に加えて学校や農業従事者に向けたエネルギーソリューションも展開中だ。
SDG&Eは、エネルギーインフラ持株会社であるSempra Energyの傘下だ。Sempra Energyは多くの電力会社やガス会社を有し、北米やメキシコで事業を展開している。
1881年に設立され、サンディエゴの360万軒に電気とガスを供給している。ちなみに、CEOのキャロライン・ウィン氏と副社長のヴァレリー・ビル氏は女性だ。
2045年までに温室効果ガスの排出量ネット・ゼロを目指している。2018年のデータ では、電源構成のうち43%が再エネで、天然ガスが29%だ。125MWを超えるエネルギー貯蔵システムを有する。また、サンディエゴ動物園にソーラーキャノピーを導入したり、NEDOや住友電工らと米国初のバナジウムレドックスフロー蓄電池の実証を行ったり、サンディエゴ全体のスマートグリッド化に力を入れている。
この他、3社に共通することで、日本の電力会社にはないものは、デマンドレスポンスのサービスだ。電力会社の要請に応じて節電するとお金が支払われる。デマンドレスポンスのサービスは、自社ではなくサードパーティによって提供されており、顧客はデマンドレスポンスの会社を選ぶことができる。
こうしたことも含め、顧客の省エネ・節電や再エネの利用を支援しているという点は、共通している。
次回は、PG&Eのサービスについてみていきたい。
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