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テキサス停電考察:4分37秒の危機を乗り越える

テキサス停電考察:4分37秒の危機を乗り越える

2021/03/02

2021年2月中旬、大寒波の影響により米国で電力需給がひっ迫し、テキサス州では4日半にわたって計画停電が実施された。電力危機がひとまず去った現在、何が問題だったのか、検証が行われている。関係者の証言から、今回の電力供給は極めて危機的状況だったことが明らかになった。そして今後、残された課題に取り組むことになる。テキサス州の最新状況を、エネルギー戦略研究所 取締役研究所長の山家公雄氏が解説する。

前回の記事:100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム

1. テキサス州で開始された電力危機の検証

本論は、2021年2月22日付の小論「100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム」に続く、テキサス州停電問題を考えるシリーズの第2弾である。

2月15日(月)早朝より始まった計画停電は、19日(金)10時半に終了したが、全需要の3分の1に相当する430万軒が停電を経験した。その後、検証が進んでおり、1週間後の25日(木)、26日(金)には州議会にて関係者ヒアリングが実施された。

今回は、最新データや議会証言等により、一体何があったのか、どのような議論が行われているのかについて解説する。

1.1 計画停電終了から1週間で議会証言へ

1899年以来(122年振り)の寒波が襲来し、あらゆるインフラが機能不全に陥った。2月12日(金)に、州政府は過酷な寒波襲来に備えて非常事態宣言を出す。2月15日(月)1時23分から始まった計画停電は2月19日(金)10時32分まで続いたが、その1週間後には、関係者が州議会に一堂に会し、証言を行った(表1)。

関係者証言は両日で25時間に及んだ。議会証言の前日には、多くの批判が寄せられていたシステムオペレーターERCOTにおいて、組織内で報告が行われ、詳細なデータが公開された。本論では、このデータに基き解説する。

表1 2021年冬季テキサス州停電を巡る経緯

2021年冬季テキサス州停電を巡る経緯
筆者作成

2. テキサスで何が起こっていたのか 詳細タイムラインで検証

2.1 広域ブラックアウト(システムダウン)を計画停電で食い止める

まず、計画停電に至るまでの状況を時系列でみていく(図1)。

2月14日(日)に気温が低下し、電力需要が急増していく。ERCOTは8時30分節電要請に向けたアラートを発する。19時6分には冬季ピーク需要を大きく更新する69,220MWの需要量を記録する。同時に供給力が急減し、需給はひっ迫して23時30分過ぎには予備力が300万kWを下回る。

図1 テキサス州の電力需給量との推移(ERCOT 2021/2/14~17正午)

緊急時運転入り後の周波数・需給状況の推移(1:23~2:06 /2/15)
(出所)ERCOT資料に筆者加筆

日付が15日に変わり、気温の低下に拍車がかかるなかで、0時12分に再び予備力が300万kWを下回り、0時15分には緊急時運転に移行する。自主的な節電を促すレベル1から、州外からの輸入を行うレベル2を経て1時23分には送配電会社(Utility)に計画停電(Rolling-Blackout)の指令を出す。

15日から16日におよぶ厳寒のなかで、供給力減少と需要削減が続き、2分の1の電源しかない状況の中で制御していくことになる。17日入り後気温の上昇とともに需給は少しずつ改善していく。

関連記事:米国テキサス州、100年ぶりの大寒波で日本を上回る電力高騰。計画停電へ

2.2 40分間で5回(1,050万kW)の需要削減指示でシステム蘇生

図2は、計画停電実施直前の15日1時23分~直後の2時6分の43分間の状況を示したものである。縦軸は周波数、横軸は時刻である。

1時23分時点では、全設備容量の3分の1に相当する約3,500万kWの電源が停止となっていた。この43分の間、5回、計1,050万kWもの需要削減を実施した。電源停止(Outages)も続発し、計600万kWが追加でオフラインとなった。

電源停止に応じて計画停電指令を発し続けなければならなかったのである。

計画停電直前の周波数は約59.9Hzと60Hzを下回っていたが、最初の停電指令(1,000MW)開始後60Hzを回復する。しかし、電源アウトが続き、59.8Hzに近づいた時点で第2次停電指令(1,000MW)を出す。

図2.緊急時運転入り後の周波数・需給状況の推移(1:23~2:06 2021/2/15)


(出所)ERCOT資料に一部筆者加筆

その後も電源停止が続き、「危険領域」である59.4Hzを下回ってしまう。この時点で、コントロールルームにアラートが鳴り響き、第3次指令(3,000MW)が出る。なおも下がり、今回の最低値59.302Hzまで下がったところで第4次指令(3,000MW)を出し、危険領域から脱出する。

あたかも心肺機能が停止した患者を人工呼吸で蘇生させるような対応である。

59.4Hzより下の水準に9分以上滞在すると系統全体のシステムダウンが生じる。今次危機では4分23秒で何とか脱出できた、あと4分37秒で完全にアウトだったことになる。「4分37秒の危機」との見出しがメディアに踊った。59.9Hzに上がった時点で第5次指令(2,000MW)を出し60Hzを超えた。

40分の間に5回、これは容易なことではない。病院、福祉施設、信号、浄水場等の重要施設を除き地区毎に実施することになるが、需要家の情報を把握していることが前提となる。競争市場であるテキサス州では、スマートメーターが8~9割普及していることが奏功したと考えられる。

計画停電は、日本では2011年3月11日の東日本大震災後の首都圏で実施されたが、運用の経験に乏しい上、スマートメーターも普及しておらず、混乱したことは記憶に新しい。

2.3 天然ガス停止が最大の要因

今回の危機で、55,237MWもの電源が停止となった(356基)。総設備容量は107,514MWであり、実に48.6%もの設備がオフラインとなった。利用できる容量は52,277MWだったということである。

どの電源が特に停止(Outage)となったのであろうか。図3は、2月14日から19日までの、停止となった発電容量の推移を電源種別に見たものである。14日直前の時点では、既に27,800MWの容量がオフラインとなっていた。内訳は計画停止が2,800MW、計画外停止が25,000MWである。計画外のうち14,000MWは風力・太陽光である。

図3.ERCOT停止電源容量の推移(電源別) 2021/2/14~20


(出所)ERCOT資料に筆者加筆

図3より、天然ガスの停止が最も多いことがわかる。14日の約1,200万kWから15日入り後急増し半日で約2,600万kWへと急増し、17日の昼まで続く。停電軒数は天然ガス発電停止容量の水準とほぼパラレルに動く。

ERCOTが15日の時点で天然ガスの影響が最も大きいと明言していたが、データもそれを裏付けている。当初アボット州知事が主要因として名指しした風力は、あまり目立たない。石炭や原子力も停止が増えており、低温は汽力発電全体に影響していることがわかる。

3. 州議会証言からわかったこと、不明なこと

ERCOTと電力関係者の懸命な努力、需要家の協力と忍耐等により、4日半におよぶ計画停電は、2月19日(金)10時32分に終了した。極寒のなかのエネルギ-不足は、水道、交通等のインフラ損傷とともに州民に大きなダメージを与えた。

1週間後の25日(木)~26日(金)に、州議会は関係者を招集し、ヒアリング(証言)を実施した。以下は、議会で証言されたポイントである。

3.1 政治は規制当局の対応を批判 ERCOTは反論

今回の災害に伴う停電に関して、アボット州知事をはじめとして、規制当局への風当たりが強い。特に、システムオペレーターで公益的な機関であるERCOTへの批判が多い。

厳気象への事前準備や警戒を怠っていた、政府や州民に対する情報伝達や関係者間のコミュニケーションが不足していた、発電事業者等に対して防寒等のメンテナンスの指示を怠った、計画停電が後手に回り大規模停電を招いた等である。

ERCOT首脳は、想定を大きく超える寒波が圧倒的な要因である、計画停電は手順に従って実行し全面ブラックアウトを防ぐことができた、電力会社にメンテナンスを指示する権限はない、コミュニケーションは反省すべき点はある等を回答している。

一方、レギュレーターでERCOTを監視する立場にあるPUCT(Public Utility Commission of Texas)は、ERCOTの影に隠れる形で目立たなかった。しかし、議会証言では、無責任とみられる答弁もあり「自身の権限を分っていない、何もしていない」という批判を浴びた。

PUCTの委員3人はアボット知事の指名であり、大手発電事業者は有力な後援者であり、非営利機関のERCOTへの風当たりが強くなっているとの見方がある。「競争市場」に関しては、政策的に導入、推進してきたこともあり、主要な論点とはなっていない。

3.2 停電の要因は多岐にわたり、エネルギ-全体を俯瞰する対策が重要

ヒアリング対象者は、多岐にわたる。ERCOT、PUCT、鉄道委員会(石油、ガスの監督機関)、送配電事業者(Utility)、発電事業者、小売り事業者、天然ガス事業者等である。証言者は代表的企業であるが、以下のように立場により見方が異なる。

発電事業者稼働できる設備はあったが燃料が調達できなかった。高値でも購入するように指示を出していたが、ガスは十分に供給されなかった。防寒対策は費用対効果を無視できない。
送配電事業者計画停電は公正に実施。防寒対策は費用対効果を無視できない。
配電事業者、
電力小売り
貧富の差で供給に差をつけることはない。
ガスP/L(パイプライン)
事業者
地下に埋設してあるので特段の防寒措置は不要。
ガス生産者(協会登録事業者の)供給量は増えている。最大の防寒対策は電力確保(優先給電等)。

事業者からみて共通の見解は、「エネルギ-全体を俯瞰した対策」が必要であることである。電力と天然ガスは相互に密接に関連しているが、規制当局が別々で、民間事業者も連携が弱いとの認識がほぼ共有された。これは、質問者(議員)も強く感じたとしている。

3.3 120年振り厳寒が圧倒的な要因 容易でない防寒対策

政府は、特にERCOTを批判する傾向があるが、ERCOTは、厳気象が圧倒的な要因であり需給シミュレーション前提を大きく超えたと主張した。この認識について電力取引の関係者は共有している。

防寒対策(Winterization)は、主要な対策になることは間違いない。アボット州知事は議会に防止対策の検討を要請しているが、防寒対策を筆頭に位置付けている。

しかし、該当する事業者はどの程度メンテナンスを実施すべきか当惑している。今回は1899年以来の(122年振りの)大寒波であり、気候変動を前提に置いたとしても、フル対応は費用対効果が見い出しにくい。

数年に一度なら理解できる、10年一度でも簡単な判断ではない、100年一度のためのメンテは工学的合理性からはありえない、ということになる。

被害を甘受し復興することを選択する方が合理的となる。現在批判の矢面に立たされているERCOTであるが、「計画停電に踏み切り、多くの方に多大な迷惑をおかけしたが、実行しなかったらシステム全体がダウンし、復旧に数週間、数ヶ月かかる可能性があった」と主張したが、説得力があると思われる。

関連記事:シリーズ 2021年電力ひっ迫

4. 終わりに:残る問題は

計画停電終了から1週間で、まだ原因究明の途上であるが、① 防寒対策を実施、② 情報公開・発信が重要、③ 電力・ガスの連携(エネルギ-の俯瞰)に課題がある等は共通認識となっている。一方で、どうしてガス生産を含めて多くの供給力がアウトとなったのか、厳しい防寒対策を事業者に強制できるのか、規制強化を伴うであろう「エネルギ-俯瞰」は政治的に可能か等大きな課題が横たわる。

そして、停電が終わり高額な請求書が消費者に届けば、改めて責任の所在が議論されることになろう。

ゼロサムゲーム的に需要側だけでなく供給側にも損得が入り混じる。電力市場価格は上限値9ドル/kWhが数日続いたが、天然ガス価格も同様に暴騰している。ガス供給ができた事業者、緊急相対取引に応じられた事業者は大儲けし、発電・小売り事業者等は料金に転嫁できなければ大損する。

私企業の情報はまだ十分に開示されていない。120年振りの予想不可能な天災が原因であれば、これは、基本政府(州、政府)が清算と補償を引き取るべきではないか。ヒューストン市長、フォートワース市長は「州政府が膨らんだ電気料金問題を解決すべき」と主張している。アボット知事も州政府の責任に言及している。

大混乱の中、課題や責任問題が取り沙汰されているが、4日半で計画停電が終了する、その1週間後には詳細なデータと丸2日に及ぶ議会証言が行われるなど、解決に向けた速度と情報公開等見習うべき点は多い。

前回の記事:100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム

山家公雄
山家公雄

エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、京都大学特任教授、豊田合成㈱取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ- 1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、食品業界等の担当を経て、2004年環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年より現職。融資、調査、海外業務などの経験から、政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から総合的に環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。 著書は、「日本の電力ネットワーク改革」2020年、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」2020年、「テキサスに学ぶ驚異の電力システム」2019年、「第5次エネルギー基本計画を読み解く」2018年、「アメリカの電力革命」2017年編著、「再生可能エネルギー政策の国際比較」2017年編著、「ドイツエネルギー変革の真実」2015年、「再生可能エネルギーの真実」2013年、など多数。

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