トヨタ、2度目のフルモデルチェンジ EVサバイバー 第4回 | EnergyShift

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トヨタ、2度目のフルモデルチェンジ EVサバイバー 第4回

トヨタ、2度目のフルモデルチェンジ EVサバイバー 第4回

2021年08月20日

今回からは、さらに日本の自動車産業に切り込んでいき、私なりの分析と私見を述べさせていただきます。最初は、一番個人的にもその動向や予測を聞かれることの多いトヨタにターゲットを絞って語らせていただきたいと思うのです。

脱炭素「国民車」普及の兆しか

前回では軽自動車のEV化を話題にいたしましたが、ほぼ同時期にスズキとダイハツが、今春、いすゞ、日野、トヨタの3社で作られた合弁企業CJP(Commercial Japan Partnership Technologies株式会社)に加わったという発表がありました。

これが軽自動車電動化に向けた国の新軽自動車規格ロードマップに対して先手を打ったデファクトスタンダードづくりの意図があるのかどうか、注意深く会見を聞きました。

しかし、首脳4者による会見のトーンは、まずは共通のコネクテッド基盤による物流の効率化ありきを現時点の主目的としており、記者との質疑に対しても軽自動車(商用車)のEV化については踏み込んだ発言はとうとう出ませんでした。


■4者による共同記者会見の模様。左からトヨタ自動車株式会社の豊田章男代表取締役社長、ダイハツ工業株式会社の奥平総一郎代表取締役社長、スズキ株式会社の鈴木俊宏代表取締役社長、CJP株式会社中嶋裕樹代表取締役。【参照出典:DAIHATSU企業情報サイトより】

ただし、プレスリリースの結びが「志を同じくするその他のパートナーとの連携についても、オープンに検討していきます」となっているように、商用車含む軽自動車を生産販売している、日産三菱(NMKV)やホンダの参画を待って軽EVのロードマップに付言するつもりかもしれない、という期待を残した会見となりました。

いずれにしても、軽自動車のEV化とそれに伴う普通充電設備の普及、そして共通のコネクテッド基盤を持ち、車車間通信(クルマ同士が直接通信し、クルマの周辺状況に関する情報をダイレクトに授受することで、必要に応じた運転支援を行なう)と路車間通信(道路とクルマの通信により、対向車・歩行者情報、信号情報などを取得し、ドライバーに注意を促すなどの運転支援を行なう)に加えて、自動車と家との充電給電をも考えたV2Xのビジョンを備えた、新時代の軽EV規格の整備は戦後すぐの昭和24年(1949年)に生まれた軽自動車規格の進化のなかでも最大のものとなるはずです。

車両の運転支援システムや自動運転の技術がコネクテッドして協調してゆくと、規格が揃った軽自動車はまるで公共交通のような存在となり、軽自動車が支える地方の生活の質が向上してゆきます。各家庭が軽自動車購入などに充てている経済的負担と、地方公共団体に入っているその税収を利用しながら脱炭素スマートシティに次第に変貌してゆく街。少子高齢化で負担が増える地方都市にとって魅力的に映るのではないでしょうか。

近い将来にもしCJPへの他の軽自動車メーカー参画が発表される時が来るのならば、ここまで踏み込んだビジョンを示してもらいたいと思っています。

異端の戦略「WovenCity(ウーブンシティ)」

さて、スマートシティといえば日本でもっとも有名なプロジェクトがトヨタが静岡県裾野市で手がける「Woven City」だと思います。

私のもとにはよく「トヨタはいつになったらEVに本気になるのだ?」とか「世界の潮流は水素燃料電池車(FCV)ではなくバッテリー電気自動車(BEV)だ」など、トヨタの動向を焦って見守っている人が意外と多いのです。

なぜトヨタが世界の自動車メーカーの潮流に逆らって異端の戦略をとるのか。それを理解する明快なメッセージが繰り返し豊田章男社長の口から発せられているのです。

トヨタには「トヨタイムズ」というオウンドメディアを持っていることはご存知でしょうか。「トヨタイムズ」youtubeチャンネルも2018年12月に開設していて登録数は19.1万人。テレビCMでも告知していることを思えば控えめな数字かもしれません。

トヨタイムズにはウェブサイトもyoutubeチャンネルもほぼ同じ内容の英語版も存在します。「Toyota Times Global」youtubeチャンネルは2020年3月開設で登録数は5,160人です。ここでは、トヨタ自動車社長としての豊田氏の言葉だけでなく、日本自動車工業会会長としての豊田氏の言葉が繰り返し伝えられています。世界のトップ企業でこれだけオープンに自分の考えを率直に語るCEOを私は知りません。

豊田社長の見つめる革命後

まず、自動車産業は現在進行形でCASE革命(C=接続、A=自動運転、S=シェアリング&サービス、E=電動化という4キーワードによるクルマの価値改革のこと)の真只中であり、革命後の企業のあるべき姿を豊田社長は明確に語っています。

「自動車をつくる会社からモビリティカンパニーに生まれ変わる」と。

自動車メーカー間の競争にはどっぷりとははまらず、モビリティ全体をマーケットと捉えて企業の価値を再定義すると宣言しているのです。

自動車を大量に作って売る会社であり続けるのならば、EV量産時代に備えて大規模なバッテリー生産工場に投資する必要があるかもしれませんが、豊田社長は繰り返し、生産台数を追い求めた過去のトヨタは間違っていたと反省を口にして、現在は「幸せの量産」を目指すと繰り返し語っています。

これが抽象的な発言に聞こえますでしょうか? 私にはCASE革命後のトヨタの姿を量産自動車メーカーとして定義しない方針であるという発信にしか思えず、とてもわかりやすくクリアに発言しているように聞こえます。

では、新たなトヨタの姿をどこにセットしているのでしょうか。その答えもトヨタイムズにありました。

豊田章男社長が熱い想いを注ぐトヨタの関連会社があります。持株会社ウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社と、各事業会社ウーブンコア、ウーブンアルファ、ウーブンキャピタルで構成されるウーブン・プラネット・グループです。

いまはグループとなっていますが、2020年まではTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社)というひとつの会社でした。日本に本部を置き、トヨタ車をソフトウェア面で支える役目を負って2018年に設立されたソフトウェア企業です。

自動運転の開発や自動車向けのソフトウェア基盤とその開発環境など、車のソフトウェア化やAI化に対して、GAFAのようなITジャイアントの自動車分野への進出に対抗できる力を持たねばならないという想いが込められています。

TRI-ADは「ウーブンシティ」の開発の役目やモビリティベンチャーへの投資機能を加えられ、2021年1月からウーブン・プラネット・グループに生まれ変わったのです。

豊田氏としては、最高のハードウェアを量産することに長けたトヨタを、むしろソフトウェア面からハードを牽引するような企業にしたい、クルマを動作させるためのソフトという視点ではなく、街を構成するソフトウェアのなかのひとつのハードウェアピースがクルマである、という視点をウーブン・プラネット・グループには与えているように思えます。

トヨタの2度目のモデルチェンジに私財を投資

トヨタ自動車はもちろん、ウーブン・プラネット・ホールディングスの親会社でありますが、豊田章男社長本人は、ボードメンバーでもなくタイトルも持っていません。しかし、長男である豊田大輔氏をウーブン・プラネット・ホールディングスのシニアバイスプレジデントとウーブンアルファの代表取締役に送り込んでいます。

またトヨタ自動車工業の創業時に親会社である豊田自動織機からの資本とは別に豊田喜一郎個人からの投資も行なったことにインスパイアされて、豊田章男個人としてもウーブン・プラネットに出資したそうです。

衰退してゆく自動織機メーカーからやがて巨大なビジネスに成長する自動車産業にシフトした祖父(こちらが1度目のモデルチェンジ)と自分を重ねて、CASE革命で競争力が落ちることが予測されるハードウェアメーカーとしてのトヨタを、ソフトウェア面でモビリティとエネルギーをブリッジする企業にシフトさせる=2度目のモデルチェンジをさせることが、自分の使命だと感じているのです。

他の自動車メーカーは、ガソリンエンジンの自動車メーカーからバッテリーEVの自動車メーカーへのモデルチェンジを目指しているのだとすると、トヨタだけはハードウェア量産メーカーからソフトウェアで付加価値をつくることができる企業へのモデルチェンジを目指しています。「無謀だ」「冗談でしょ」という社内外の雑音に対して、「私財の投資」という覚悟を示したわけです。


■私たちはこれまで自動車会社として、工業製品をつくってきました。そこで必要とされる人材の特性は「均一性」だったと思います。バラつきがあるものを、誰が作業しても同じ品質でつくることが大切だからです。しかし、これからはお客様のニーズも社会のニーズも多様化し、モビリティにもハードとソフトの両面で魅力的な性能が求められます。その中で、多様な価値観や能力を持つ人材が必要になってきたと感じています。この多様な人材こそが、イノベーションを生み出す原動力になるとも思っています。その先頭を走っているのが、トヨタグループのソフトウェア会社である、Woven Planetだと思います。Woven Cityでは、ハードやソフトを超えた「街」という単位で、ヒトの心をつなぎ、多様なパートナーとともに人々を幸せにするモビリティ社会の実証を行います。【出典参照:トヨタ自動車 第117回定時株主総会(2021年6月16日)より】

その決意は企業文化の変革にも滲み出ます。私はトヨタ自動車への取材歴はそれなりに長いのもあり、そこで働く社員の方々と懇意にすることも多く、とても優秀で細かいディテールを疎かにせず、かつ謙虚で向上心に富んだトヨタ社員たちを大勢知っています。彼らと一緒に仕事をしているだけで、自分の仕事に対するクオリティの基準がどんどん上がっていくのを感じることができる素晴らしい企業文化だと感じています。

しかし、だからと言って自分の娘の就職先としてトヨタ自動車は薦めることができないと思っています。男性優位の社風、グルーバル企業でありながら主な役員は日本人男性ばかりの組織では、これから働く女性にとって、自然体にキャリアを積み重ねることは難しそうだと感じていました。

豊田社長もやはりそこを変えてゆかねば、多様性を組織の核としなければ、イノベーションは起こり得ず、本当のグローバル企業として世界から優秀なソフトウェア人材を引き付けることができないであろうこともわかっていました。

社風も含めて巨大なメカニズムで動いているトヨタ自動車本体ではなく、新しいウーブン・プラネットをダイバーシティ&インクルージョンを理念として組織文化を作り上げ、まさにそのようなモビリティ社会を作りたいと願い、ウーブン・プラネットのジェームズ・カフナー社長に新しい企業文化の醸成を託したのだと思います。

ウーブン・プラネットが注目するモビリティサービス

ウーブン・プラネット・グループで、ウーブンキャピタルはベンチャーへの投資活動を行う役割が与えられています。モビリティ、自動化、人工知能、データアナリティクス、コネクティビティ、スマートシティなどの分野のグロースステージのベンチャーに対して投資を行う予定で、すでに3月にはアメリカの自動配送ロボティクス企業のNuro(ニューロ)社に、6月にはフリートのDXとIoTオートメーションのプラットフォーム事業を行うRIDECELL(ライドセル)社に対して出資を行なっています。

一方で、ウーブン・プラネット・ホールディングスは、4月にアメリカでUberと並ぶ配車サービス大手のLyftから自動運転部門の買収を発表しています。

これらの動きからトヨタ自動車のトップが考えるCASE革命は、コネクテッド(C)、オートノーマス(A)、そしてサービス(S)の分野に対して熱視線を注いでいるようです。

エレクトリック(E)=電動化に関しては、これらモビリティサービスがどのような車両を求めるのか、というニーズの把握こそが開発の羅針盤であり、同時に過去100年間自動車産業を発展させてきた量産自動車の個人所有の拡大というビジネスモデルが曲がり角を迎えるであろうという冷静な見方をすることが、電動化技術のフルラインナップという戦術をとらせる背景にあるのではないかと私は見ています。

今回は、他の自動車メーカーのようにバッテリーEVの大量生産の構えで後手に回っているトヨタは、一方で創業以来のフルモデルチェンジを行う意思を示しているという事実をご紹介しました。次回はウーブンシティと水素エネルギーについて述べたいと思います。

つづく 【次回掲載 8月下旬予定】

 

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三浦和也
三浦和也

⽇本最⼤級のクルマ情報サイト「レスポンス」編集⼈、社⻑室⻑ アスキーにてWEBメディア編集を経て、1999年に⾃動⾞ニュースサイト「オートアスキー」(現レスポンス)を⽴ち上げ。2000年にはiモードでユーザー同⼠の実燃費を計測する「e燃費」を⽴ち上げる。IRIコマースアンドテクノロジー(現イード)に事業移管後は「レスポンス」の編集⻑と兼任でメディア事業本部⻑として、メディアプラットフォームの構築に尽⼒。2媒体から40媒体以上に増やす(現在は68媒体)。2015年にイードマザーズ上場。2017年からはレスポンス編集⼈、社⻑室⻑として次世代モビリティアクセラレーター「iid 5G Mobility」を開始。既存⾃動⾞産業へのコンサルティングと新規モビリティベンチャーへの投資や協業を両⾯で⾏い、CASE/MaaS時代のモビリティを加速させる⽴場。最後のマイカーはプリウスPHV。現在はカーシェアやレンタカーを利⽤するカーライフ。

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