次期エネルギー基本計画の改定を進める、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会において、2020年12月21日、2050年の再生可能エネルギー比率を5〜6割とする参考値が公表された。5〜6割でも野心的だという意見が出た一方、多くの委員から再エネ100%など複数シナリオを検討すべきといった意見があがった。当日の模様をレポートする。
2020年12月21日に開催された第35回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会において、次期エネルギー基本計画を改定する議論の出発点として、2050年の再生可能エネルギー比率を5〜6割とする参考値が公表された。残りの3〜4割は原子力、火力発電+CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蔵)/カーボンリサイクル、そして水素・アンモニアでまかなうというものだ。
事務局側は、「この数字は政府目標ではない。2050年カーボンニュートラル達成に向けて、あくまで議論を深めるための目安、選択肢のひとつである」と説明したが、多くの委員から「再エネ100%など複数シナリオを検討すべきだ」という要望があがった。まずは参考値の概要を見ていきたい。
2020年10月から始まった次期エネルギー基本計画の改定議論は、「再エネだけにすべての電力供給を頼ることは現実的ではなく、原子力、CCUS付き火力発電、水素、アンモニアなどあらゆる選択肢を追求していく必要がある」という方向性で進んでいる。
この方向性のもと、まず最大限の導入を目指す再エネについて、事務局は次の4点などを考慮し、2050年の再エネ比率5〜6割という数字を提示した。
次に原子力だが、技術的に確立した脱炭素電源である一方、「国民の信頼回復」「安全性の確保」「立地地域との共生」「持続的なバックエンドシステムの確立」「事業性の向上」「人材・技術・産業基盤の維持・強化、イノベーションの推進」など課題も山積している。
そのため事務局は原子力に関して、安全性を大前提に一定規模の活用を目指すとし、あえて2050年の電源比率を明確にせず、火力発電+CCUS/カーボンリサイクル、そして水素・アンモニアとあわせて約3〜4割まかなうという表現にとどめた。
一方、水素・アンモニアは2017年に策定した水素基本戦略を踏まえ、2050年の発電電力量の約1割を担うと位置付けた。
この参考値について、「十分野心的だ」(増田寛也 東京大学公共政策大学院客員教授)という意見の一方、電化への転換やDXの進展によって増加が予測される、エネルギー需要について複数検討すべきだといった意見が出た。
村上千里 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 環境委員長は、経済同友会や全国知事会のほか、JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)などの企業イニシアチブが2030年のエネルギーミックスについて、さまざまな提言を出す現状を踏まえて、「2030年ですら40%、50%を提案し、達成可能だという団体がいる中で、2050年5〜6割はまだまだ低い」と述べた。
増田氏は、「さまざまな立場の方が、2050年ではなく、2030年の再エネ目標について言及しており、政府内からも環境省が40%と発信したが、数字だけが先行して高い目標を掲げたところがすごいという風になりはしないか危惧している」と発言した。
増田氏の発言を受け、豊田正和 日本エネルギー経済研究所理事長は、「民間団体のみならず、政府内からも(再エネ導入比率について)さまざまな数字が飛び交うようでは、議論が混乱する。エネルギー政策に責任を負っている経済産業省の、この諮問機関が議論をしている以上、少なくとも政府内は静かにしていただいた方がよい。民間団体も数字を提示するなら根拠を示していただきたい」と牽制した。
原子力について、杉本達治 福井県知事は「安全性を大前提に一定規模の活用を目指すという、一定規模という表現では人材は育たない。議論を逃げずに(原子力の)比率についても議論すべきだ」と述べたが、今回の議論において、とりわけ意見がわかれたのは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、原子力をどう位置付けるかであった。
豊田正和 日本エネルギー経済研究所理事長
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、日本のCO2排出量の4割を占める電力部門(エネルギー転換)の脱炭素化は避けては通れない。資源エネルギー庁は、技術的に確立した脱炭素電源である原子力について、「使えるものは使っていく」というスタンスを取る。
原子力もまた多くの課題を抱えており、なかでも国民からの信頼回復に向けた取り組みは道半ばだ。
ただ、日本における原子力発電所の状況は、36基(建設中を含む)が仮に40年で運転をやめた場合、2050年断面で設備容量は3基、414万kWに減ってしまう。すべて60年運転をしたとしても23基、2,374万kWとなり、2060年には8基、956万kWに減る。これがファクトだ。
さまざまな課題を抱える原子力について、「脱炭素電源のひとつのオプション」とする意見と、「積極利用」とする意見が飛び交った。
まず、原子力推進派による主要意見は以下のとおりである。
豊田氏:「2030年のエネルギーミックスである原子力20〜22%を維持すべきだが、達成は新増設なしでは難しい。新増設の準備を始めるべきだ」。
隅 修三 東京海上日動火災保険相談役:「再エネも、CCUSも技術的、コスト的課題をクリアできるか不透明なところが非常に多い。未知の電源だけで脱炭素化をすると宣言するには無理があると言わざるをえない。やはり技術自給率の高い原子力は、再エネを補完するゼロ・エミッション電源として、2050年においても不可欠である。しかし、このままでは2050年に稼働している炉はほとんどなくなってしまう。従って、既存原発の再稼働、運転期間の60年、あるいは80年への延長は必須である」。
橋本英二 日本製鉄代表取締役社長:「日本国内で原子力発電所向けの熱交換用パイプを製造できるのは当社のみだが、実生産がない状況が10年続いている。どのように設備、技術、技術者を維持していくのか。ギリギリの状況であるというのがいつわらざる状況だ」。
隅 修三 東京海上日動火災保険相談役
一方、村上氏は日本原子力文化財団による「原子力に関する世論調査(2019年度)」を引用し、国民の信頼回復の現状を語った。
世論調査によると、「今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」という問いに対し、「徐々に廃止」が49.4%、「即時廃止」が11.2%、「増やしていくべきだ」は2.0%、「現状を維持していくべきだ」が9.3%だった。また、再稼働に対する設問では、「再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」と回答した割合が50.3%にのぼり、「得られている」は2.7%であった。
村上氏は「国民意識が好転しない限り、可能な限り原発依存度を低減するという第5次エネルギー基本計画の方針を変更することは難しいのではないか。信頼回復の足かせになっているものは何か。関西電力による金品授受問題や敦賀原発のデータ書き換え問題など、原子力を推進する組織や体制への不信感が拭えていないためではないか」と指摘した。
松村敏弘 東京大学社会科学研究所教授は、コスト低廉だという原子力の経済効率性について、次のように語った。
「本当に新設の原子力発電所が低廉なのか。2050年という断面では、追加的に生み出す電力の社会的価値がほぼほぼゼロになるという、時間帯が相当出てくる。そうした状況下でも、本当に経済効率的なのか。ひとつの電源に過度に依存するとリスクが高い。従って、原子力もひとつのオプションとして維持すべきだという議論には説得力がある。しかし、コストが安いから推進すべきだという議論は果たして正しいのか。相当、疑問に思う」。
橘川武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授は、推進派に対し次のように述べた。
「今日は原子力を議論する主要な日です。しかし、事務局提案にはリプレイスが入っていない。すでに国策は、原子力はひとつのオプションとしては残すが、再エネとゼロ・エミッション火力でカーボンニュートラルを達成するという方向に舵を切っている。推進派の委員は、六ヶ所村のウラン濃縮工場やABWR(改良型沸騰水型軽水炉)である柏崎刈谷6・7号機、島根3号機のあり方など、正面突破の原子力政策を出すべきだと思う。しかし、出す覚悟がない中で、原子力に無駄な幻想を持つことはおかしい」。
橘川武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授
このほか、原子力や水素・アンモニアについて、「世界中が脱炭素に向かう中、核燃料、水素、アンモニアの争奪戦が始まる。特にグリーンなものについては厳しい競争が始まるだろう。原料輸入に頼る電源で、2050年を目指してよいのか」(小林いずみ ANAホールディングス、みずほファイナンシャルクグループ、三井物産社外取締役)。
また、カーボンプライシングに関して、「タブー視することなく検討しなければいけない。1万円から3万円/CO2トンの複数シナリオを分析すべきだ。そうすればコスト構造はガラッと変わる」(橘川氏)といった提言が出た。
2020年も終わりを迎え、エネルギー基本計画の改定期限である2021年8月が近づいてきた。改定に向けた議論はいよいよ本格化していくだろう。
梶山弘志 経済産業大臣
(Text:藤村朋弘)
参照
経済産業省資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第35回会合)
動画:経済産業省資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第35回)
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