2020年は、急激に社会が脱炭素化へと舵を切った年だといえるだろう。経済紙には毎日のように、脱炭素、再生可能エネルギー、SDGs、ESG投資といった言葉が並ぶ。年末から続く、電力卸取引所の価格高騰もまた、社会の脱炭素化に向けた試練なのかもしれない。日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が、今だからこそ、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の必要性を改めて説く。
新しい年を迎えた。みな含んだところもありながら、「おめでとう」を繰り返している。残念ながら、新型コロナの勢いは留まるところを知らず、ついに緊急事態宣言に至った。
一方で、電力不足と電力の卸売価格がかつてないほどの高騰を見せている。LNG(液化天然ガス)不足が背景にあるのは確かであるが、それ以外はっきりしないことも多い。さらに、原因だけでなく、いつまで続くのかという終わりも見えないことが関係者を「恐怖」に陥れている。すでに事業継続できなくなった新電力が出始めている。この件は、もう少し落ち着いた時点でまとめて書く機会を作るつもりである。
断片的にわかったことはある。
まず、JEPX(日本卸電力取引所)という卸売市場がほぼ機能していないこと。そこには、電力を売る側と買う側に巨大な塊が存在していて、市場の不安定さが生まれるリスクが付きまとっていることである。「発販分離」を強調する声が聞こえている。
購入側にインバランス抑制指示に従ってさらなる高値で落とす動きもあったようである。きっかけはLNGかもしれないが、値段のつけ方があり得ない数字である。ある種のパニック的な値付けが行われているように見える。電力広域的運営推進機関(OCCTO)も炊き増しなど異例の指示を続けている。私が関係している地域新電力には、節電要請も発してもらっている。現状では、各位の努力で要請無しでも停電は起きていない。とにかく、どの立場であろうと落ち着くことから始めるべきというアドバイスが現状では適切に思える(1月10日現在)。
もうひとつ、今回の事態で感じたことがある。これは前回のコラムでも強調したことでもある。
「再生可能エネルギーの発電量が足りない」ということである。
今回の荒天で、太陽光発電が極端に厳しい発電状況にある。出力抑制が恒常化していた九州でさえ積雪のため発電できていない(東京近辺は素晴らしい晴れが続いていて、きっとがんがん発電しているはずであるが)。これを例に、再エネ発電は頼りにならないと喜ぶ声がツイッターにいくつか並ぶ(なぜ、嬉しいのかわからないが・・・)が、私の結論としては、再生エネ発電をもっと徹底的に増やすべきだと思っている。
まず、日本も風力発電を拡大して、欧州(地域によってかなり差があるが)のような風力と太陽光の組み合わせが望ましい。しかし、その欧州でも風力発電がまだ足らないと考えているようだと専門家が発信している。欧州でもやや電力卸売価格が上がっており、その解決策に風力発電の増強が求められるとの予測である。
ただし、もう太陽光は十分だ、という訳ではない。例えば、東京電力管内から今、九州や関西に電力の融通が行われているが、関東の太陽光発電がもっとあれば、さらなる助けになるはずである。ドイツでは、2050年に基本的な需要に対する4倍程度の発電能力を再生エネで持つことが提案されている。繰り返しておくが、あふれるほどの再生可能エネルギーが必要である。
そんなに作ってどうするのかという疑問は、前回までのコラムを読んでいただきたい。
あふれるほどの再エネの世界を想像してみよう
もともと、今月の本連載のテーマはこれであった。
特に、「グリーン」というキーワードを取り上げて、お話をするつもりだったが、突発的な出来事で出鼻をくじかれた感は否めない。
行けるところまで、書き進めてみる。
ものすごく私的なことからで申し訳ないが、日経新聞のデジタル版の購読を昨年末から始めた。これまで何度も日経新聞の記事などを引用して文章にしたり、セミナーを行ったりしていたが、実は定期購読していなかった。日経さんすみません。
ところが、このところあまりに脱炭素や再生エネに関連する記事が日経に載り、ついに手が上がった次第である(「Myニュースメール」など、キーワードを登録すると自動的に記事のリストを送ってくれて使いやすい。誉めさせてください)。
日経新聞の元日一面トップは「脱炭素の主役 世界競う 日米欧中動く8500兆円」という特集記事(「第4の革命カーボンゼロ」の第一回)であった。元旦の一面トップは各新聞社が特ダネを争うが、日経は大会社の社長人事などをよく取り上げられていた。脱炭素に対する日経新聞の意気込みがよくわかる。
内容はタイトルそのままで、「カーボンゼロの奔流が世界を動かす」、「カーボンゼロは総力戦になる」など脱炭素を進める世界の動きと日本政府への積極的な指摘をまとめていた。
脱炭素とグリーンという言葉はセットになって現れている。
新型コロナによる企業活動の低下で、2020年のCO2排出が大きく減った時、IEA(国際エネルギー機関)は、活動再開の基本エネルギーは再生エネで行うべきとわざわざ記者会見を開いて発信した。いわゆる「グリーンリカバリー」である。金融ショックからの回復でCO2が激増した失敗を繰り返したくない意図がはっきりと出ている。
日本政府が脱炭素達成の切り札の一つに水素利用を挙げている。ただし、どんな水素でもいいわけではない。製造過程から二酸化炭素を出さない、例えば、再生エネ電力による水の電気分解などでなければ価値は無いとされている。これを「グリーン水素」と呼ぶ。一方、化石燃料が関わっている場合は「ブルー水素」「グレー水素」という呼び方が定着してきた。
最近では、外交用語にもグリーンが使われる。
気候変動対策、カーボンニュートラルの海外での会談や交渉は「グリーン外交」と呼ばれるらしい。
そして、「GX」という言葉も定着してきている。
DXがデジタル・トランスフォーメーションを示すことをご存知であろう。簡単に言えば、デジタル化である。GXのGはお分かりのようにGreen(グリーン)なので、グリーン化とでも言えばよいだろうか。水素の例を見ずとも、ブルーではない、脱炭素によるグリーン化が求められる
GXは企業価値を上げるツールでもある。世界の主要企業は、すでにGXを基本に動き、日本企業も追随を始めている。
企業に限らず、自らが行っていること、これから行おうとしているすべてのことが「グリーン」であるかどうか、これからは必ず考えながら進める時代となった。
日本政府が追い付いた脱炭素の目標年は2050年である。しかし、世界はすでに先を行っている。2050年の設定はもはや当たり前になってしまい、すでにスピード達成競争が始まってしまった。
温室効果ガス削減の設定を企業に促す国際的な組織である「SBTイニシアチブ(SBTi)」の参加企業がこの1年余りで倍増し、1,100社を超えたという。SBTiは、参加企業に2030年代の具体的な削減策を求めている。
RE100では、アップル社のようにすでに自社の再生エネ電力化を達成し、サプライチェーンへの脱炭素要請を始めた企業もある。また、2030年をゴールに掲げた企業も少なくない。
脱炭素は、企業にとっては生き残りがかかる。2050年達成の宣言をしたからといってうかうかしてはいられない。これは、自治体も同じである。
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