今冬の電力需給のひっ迫で市場価格の高騰し、新電力大手のF-Powerが会社更生法の申請に追い込まれた。苦境に立たされた新電力はF-Powerだけではない。仕入れ価格が高騰しても、電気料金に転嫁できず、逆ザヤが発生したうえに、4月5日には1回目の清算金(インバランス料金)の支払い期日が迫っている。経営危機にさらされた新電力の中には、4月危機説すら浮上している。
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自社の発電設備を持たない新電力の多くは、JEPX(日本卸電力取引所)を通じて大手電力会社から出た余剰電力を調達している。しかし、今冬の電力需給はひっ迫し、JEPX価格は通常時の10倍となる超高値に張り付いた。
当然、新電力の仕入れコストも10倍に増加した。資源エネルギー庁の資料によると新電力がJEPXに支払った月間の金額は、2020年11 月では約500億円(約6.0円/kWh×83億kWh)だったが、2021年1月には約5,590億円(約62.1円/kWh×90億kWh)へと急増した。
しかし、他社との価格競争が熾烈になる中、新電力たちは仕入れコストが約5,590億円に膨らんでも、電気料金に仕入れコストを転嫁できず、逆ザヤが発生してしまう。特に自社電源を持たない新電力たちは利益を大きく毀損し、事業撤退に追い込まれるレベルの深刻な打撃を受けている。
さらに今、インバランス料金の高騰が新電力の経営を圧迫している。
インバランスとは、新電力などが顧客の電力需要を予測してJEPXなどから電力を調達するが、顧客の電力使用量が調達量をうわまった場合など、その過不足分を一般送配電事業者が補給する仕組みである。
このインバランス措置によって、顧客への電力供給はストップされず、停電などに陥らずに済むが、新電力は後日、不足した電力分の費用を清算金(ペナルティー)として、一般送配電事業者に支払わなければならない。
このインバランス料金は、市場全体で需給バランスが不足したときには、市場価格より割高になる。
実際にインバランス料金の推移を見てみると、2020年12月1日時点ではインバランス料金の最高価格は7.91円/kWだったが、2021年1月1日には100.25円/kWhをつける。1月5日には190円を超え、1月7日には400円を突破。さらに1月11日には500円を超え、511.3円/kWhを記録する。
市場価格がいくら高値になろうとも、インバランス料金を支払うよりマシだと考えた新電力たちは、JEPX市場に買いに走り、その結果、市場価格が高騰するという悪循環が生じていた。
インバランス料金は、翌々月の第5営業日が一般送配電事業者への支払い日となっている。
つまり、市場価格が高騰した1月分のインバランス料金の最初の支払い期日は3月5日であった。しかし、その3月5日に、1月のインバランス料金が平均78円/kWhだとする確報値が公表される。59円/kWhとした速報値から大きく乖離する事態となる。ちなみに1月の平均市場価格は63円/kWhである。
確報値が速報値に対して3割近く上昇した事態を受けて、エネ庁は3月19日、インバランス料金の最初の支払い期日を4月5日に1ヶ月後ろ倒しにしたうえで、分割払いを年末(9回)まで延長する追加措置を講じていた。
3月26日に開催された第32回電力・ガス基本政策小委員会において、エネ庁が実施した新電力へのヒアリング結果が公表された。
2020年11月時点で供給実績のある小売電気事業者全520社のうち、みなし小売電気事業者(大手電力会社)10社を除く、510社を対象にしたヒアリングで、「経営が苦しい」と答えた事業者の意見は次のようなものである。
A社:資金繰りの見通しは立たない状況。事業継続はしたい意思はあるが資金面でわからない状況。
B社:電力事業を始めて1年強。単月で3〜40万の薄利なのに、今回2,000万の赤字。70ヶ月分の利益分が飛ぶ。需要家もいることなので、責任があり、撤退は考えていない。事業の見直しはあるが、事業継続予定。
C社:数千万円の赤字。確報値は、速報値と比べて3割増であった。経営に大いに影響があったが、今後は経営を立て直し、地産地消で地元の方の期待に応えるようにする。
D社:分割措置は利用しない予定だったが、金額が思ったよりも多く、分割措置の申請についてこれから社内で検討する。
また3月25日時点で、インバランス料金の分割払いを申請した事業者数は、84バランシンググループの177社にのぼっている。主な申請理由は以下の通り。
電力・ガス基本政策小委員会に出席した内閣府の再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォースを担当する山田正人参事官は、「1月のインバランス収支が2,300億円にのぼる」と指摘した。この数字が正確なら、不足インバランスを出した新電力などは、一般送配電事業者に2,300億円を支払わなければならないことになる。
JEPXへの仕入れコスト約5,590億円に加え、インバランス料金2,300億円、合わせて約7,890億円が負担額となる。新電力の資金繰りに大きな影響を与えることは想像にかたくない。
山田参事官は、「経営破たんに追い込まれそうな事業者の話によると、今回の価格高騰の対応として、新電力が金融機関から融資を受ける際には、今回の損失を特別損失として計上する必要があるという。そのためには、「今回のような市場高騰は2度と起こらない」という会計上の評価が必要になる。
現在はまだ、再発防止策の実施がようやくスタート地点にたった段階であり、今後、新電力が相次いで経営破たんに追い込まれる前に、再発防止策が実効性を持つまで、思い切ってインバランス料金の支払いを猶予する必要がある」と述べた。
また新電力大手のエネットは、「現在も多くの新電力がファイナンスを含め、事業継続の問題を抱えている。多くの新電力は極力、JEPXを活用しない方向へ舵を切っている。これは、これまで自由化で目指してきた競争政策とは異なる方向であり、JEPXへの信頼性の低下の現れである」と発言した。
4月5日に、1月分のインバランス料金の最初の支払い期日が到来する。事実上の倒産に追い込まれたF-Powerのように、相次ぐ経営破たんが起こるのか。市場では4月危機説がささやかれている。
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