中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望 第1回:全土で活発な実証走行が続く、燃料電池商用車 | EnergyShift

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中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望 第1回:全土で活発な実証走行が続く、燃料電池商用車

中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望 第1回:全土で活発な実証走行が続く、燃料電池商用車

2020/02/14

中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望 第1回:全土で活発な実証走行が続く、燃料電池商用車

燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle: FCV)といえば、国内においてはどうしても電気自動車に後れを取っているイメージが強い。しかし、走行距離や燃料充填時間などの点ではEVなどよりも優れている点があることも確かだ。例えば中国では現在、商用車を中心に燃料電池自動車の実証走行が盛んに行われている。
長年、燃料電池と水素エネルギーを中心に取材を続けてきたデジタルリサーチ社の遠藤雅樹氏が、中国FCVの状況を隔月でレポートする。

世界から注目される、中国の燃料電池商用車市場

中国では現在、燃料電池商用車(バス、トラックなど)の開発と路線バスの実証走行テストが多くの都市で盛んに行われている。実証走行は北京、上海といった大都市だけでなく、仏山市(広東省)、張家口市(河北省)、大同市(山西省)などの地方都市でもはじまっており、物流車や路線バスとして30~100台規模で導入されている。

中国の燃料電池車(乗用車・商用車)の生産台数は2017年以降急増しており、2017年が1,191台、2018年が1,527台、2019年(1-10月)もすでに1,327台になっている。そのうちの90%以上を商用車が占める。燃料電池商用車の開発と実用化において、いま世界で最も注目されているのが中国市場である。

なぜ燃料電池なのか? 中国は水素エネルギーや燃料電池をどのように位置づけているのか? 中国の燃料電池市場はこれからどう進展していくのか? この連載では、中国における燃料電池の開発動向と今後の方向性を、その背景となっている中国政府のエネルギー政策や産業政策、実用化の現状、主要な参入企業の最新動向などを紹介することで概説していこうと思う。

北京五輪、上海万博でも活躍した燃料電池バス

中国の燃料電池開発は、中国科学院(大連化学物理研究所など)をはじめ、清華大学、同済大学、上海交通大学、武漢理工大学といった大学系の研究機関、さらにそのスピンアウト企業である新源動力、上海神力、上海中科同力、武漢理工新能源、北京億華通、そして大手自動車メーカーである上海汽車などが中心になって進められてきた。

そうした状況の中、燃料電池バスの開発がはじまったのは2004年頃のことで、清華大学とつながりのある北京億華通が国家プロジェクトとして燃料電池バスの開発に着手した。2006年には北京億華通と北汽福田汽車が共同で「国家863新エネルギー車プロジェクト」の一環として燃料電池バスの開発に着手し、国連開発計画(UNDP)からも助成を受け、2008年開催の北京オリンピック会場において3台の燃料電池バスとして披露された。

その後、2010年の上海万博では北京五輪の3台に加え、同済大学・上海汽車・上海申沃客車が共同開発した3台の燃料電池バスが投入され、都合6台の燃料電池バスが来場者の送迎に使われた。同2010年には、金龍聯合汽車工業(蘇州)と北京億華通が共同開発した燃料電池バス1台が、シンガポールで開かれたアジアユースオリンピックに登場した。

2011年、五洲龍汽車が開発した60台の燃料電池遊覧車と2台の燃料電池バスが、深圳ユニバーシアードの会場で運用された。2014年には上海汽車による燃料電池乗用車、電気自動車、プラグインハイブリッド車の大々的な紹介が各地で行われ、燃料電池乗用車は全国14省、25都市を歴訪した。

中国におけるバス製造・販売の最大手の宇通客車は、2009年に第1世代の燃料電池バスを開発。2012年には社内に燃料電池バス開発部が設立された。その後2015年に第3世代燃料電池バスを開発し、政府工信部から中国で初めて燃料電池バスの生産許可を取得した。

カナダの燃料電池メーカーが中国市場をけん引

バラード(Ballard)やハイドロジェニックス(Hydrogenics)など欧米(いずれも本社はカナダ)の燃料電池メーカーが中国に接近しだしたのは、「十二五国家戦略性新興産業発展計画」(2011~2015)の最中、2012~2013年頃。両社とも中国のバスメーカーに燃料電池スタック(セルの集合体)の技術供与を行っている。

北京億華通、福田汽車、宇通客車はハイドロジェニックスの燃料電池モジュールをベースに、金龍客車はバラードの燃料電池システムをベースとして、それぞれ燃料電池バスを開発した。2013年の新エネルギー車への補助金政策の開始と、「中国製造2025」(2015年5月発表)による製造業の構造転換の表明が、欧米燃料電池メーカーの本格的な中国進出を後押しすることになる。

金龍客車の燃料電池バス(弊社撮影)

「中国製造2025」とは中国政府による国内製造業の自立を目指す産業政策。自動車産業を柱とする製造業全体の構造転換をここで表明し、その牽引役として新エネルギー自動車の分野での自主ブランド製品のシェアを2025年には80%に引き上げる方針を示した。

特に電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)を重視する方針を明確にしており、2017年6月の「外商投資産業指導目録」では、懸案であった外資企業による新エネルギー車生産合弁企業の制限、二次電池や燃料電池企業設立時の外資の比率制限が撤廃された。これにより、外資系の中国進出による現地生産のハードルが下がったといえる。さらに電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)の開発過程での中国自動車メーカーの技術蓄積が、燃料電池バスや商用車の開発にも活かされていることは疑いない。

バラードやハイドロジェニックスなどは、中国のEVバスメーカーに対して燃料電池スタックの供給からはじめ、欧米の燃料電池バスプロジェクトで培ったエンジニアリングサービスを提供。路上実証に耐えうる燃料電池バスのプロトタイプの開発を支援することになる。燃料電池バス1台当たり100万元(1,500万円)という補助金額と一定の生産台数が保証されていることも中国市場参入の動機であっただろう。

2019年末、中国の各都市で運転されている燃料電池バス・商用車のうち、バラードないしハイドロジェニックスの燃料電池スタックを搭載しているものは、全体の80%以上になると推定され、この状況はまだ当分の間続くものと思われる。

中国第一汽車集団の傘下である一汽解放汽車の燃料電池物流車(弊社撮影)
遠藤雅樹
遠藤雅樹

(有)デジタルリサーチ代表取締役。(株)矢野経済研究所でガスタービン、燃料電池などの産業分野で市場調査に従事したあと、2001年に燃料電池市場をフィールドにした市場調査会社デジタルリサーチを設立して代表取締役に就任。主な仕事として「燃料電池新聞」(2004~2016年)、「週刊燃料電池 Fuel Cell Weekly」(2009年~)、「中国燃料電池週報」(2019年~)、「燃料電池年鑑(Ⅰ)日本市場編、(Ⅱ)海外市場編」(2014年)、「定置用燃料電池の現状と将来展望(Ⅰ)家庭用燃料電池、(Ⅱ)分散電源・コージェネ、(Ⅲ)Power to Gas」(2016年)、「Transportation燃料電池の現状と将来展望」(2018年)、「中国の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2019年)、「世界の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2020年近刊)などの調査レポート、有料ニュースレターを発刊している。2019年から中国の水素・燃料電池の現状調査を開始、上海、北京、仏山、如皋などに足を運んでいる。早稲田大学文学部仏文科卒。