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省エネ法改正ではじまる「再エネ争奪戦」 1.2万社に再エネ導入目標の設定義務化、余った太陽光発電の利用拡大で迫られる日中操業

2022年01月13日

日中操業に取り組む東京製鉄の狙いとは

工場の操業を日中にシフトする取り組みは広がりつつある。

電炉最大手の東京製鉄は九州電力と組み、2018年から九州工場の操業を夜間から、太陽光発電の余剰が生じる日中にシフトさせる実証に取り組んできた。一般的に工場向けの電気料金は夜間が日中より2〜3割安い。九州工場もスクラップを溶かすために多くの電気を使う電炉は夜間に稼働させてきた。この電炉を余剰電力が発生し、0.01円をつける昼間に稼働させ、逆に天候不順で太陽光発電が思うように発電せず、電力不足が生じそうな日は、通常、日中に実施する鋼板などの加工を取りやめる。

出力制御が発生しそうな場合、東京製鉄は九州電力から2日前までに連絡を受けて、日中操業に切り替える。その際の電力料金は、通常の昼間料金より安く設定されている。東京製鉄は生産の日中シフトに関して、「電炉操業は時間帯が限られた中でおこなってきたが、安価な平日昼間の余剰電力を活用することが可能となれば、生産量の拡大や省エネ、さらに電力コストの低減にもつながる。当社にとって大きなメリットとなるうえ、再エネの有効活用にもつながる」とコメントしている。

九州電力にとっても、「平日昼間の電力余力を安く提供してでも、小売として有効活用したい」「なんとか再エネ出力制御を低減させたい」との思いから、日中操業シフトはウエルカムだ。

東京製鉄による取り組み事例

 2018秋2019春2019秋2021春2021秋
回数6回現在
実施中
実施期間8〜22時8〜228〜158〜17
DR平均規模数万kW/回

※ 朝8時に夜間操業を終えた後、短時間に限った再操業するのは困難とのことから、 一定の時間幅を設定(0.01円/kWhコマだけの上げDRではない)
出典:九州電力

だが、課題も多い。

2日前通知では、企業側は操業体制を整えにくく対応が難しい。さらに生産シフトに対する電気料金の下げ幅は、1kWhあたり数円レベルで経済的インセンティブが小さいといった課題がある。省エネ法改正に向けて、早くも電力を大量に消費する製造業から、「再エネ争奪戦がはじまる」「日中操業シフトなど生産のオンオフの頻発化は生産効率を落としかねない」といった懸念が示されている。

単価設定によるお客さまインセンティブのイメージ


出典:九州電力

省エネ改正法は了承されるも、さまざまな注文が

2021年12月24日に開催された総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会では、省エネ法改正に関して了承を得られたものの、専門家や産業界からさまざまな意見が出た。

一般財団法人日本消費者協会消費生活コンサルタントの市川まりこ氏は、特定事業者に積極的に再エネ転換を促すことに反対の立場を表明した。「日本は国土が狭いうえ、海は深く、再エネ資源に恵まれていない。日本のエネルギー事情を鑑みると再エネ拡大に大きく依存するとコスト高になることが明白だ。コストの増大は事業者の体力を消耗させ、モノやサービスの価格を上昇させる。国民生活を苦しめることにつながる」と述べた。

また多くの委員から、「エネルギー使用量をしっかり減らす、効率性をあげることが省エネ法本来の目的だ。再エネ証書やJ-クレジットなどを購入すれば、使用エネルギー量を減らさなくてよいといったことにならないよう慎重な法改正を求める」といった意見や、「省エネ政策が複雑化し、これに付き合うと企業の生産性が落ちないか」といった懸念も示された。

再エネなどの導入目標の設定を義務化される産業界からは、「鉄鋼や化学、石油などは、今の技術では再エネ電力への切り替えが難しい製造プロセスがあり、非化石エネルギー利用比率を向上させるためには乗り越えるべき多くの課題がある」といった声があがっている。

たとえば代表的な製鉄技術である「高炉法」では、鉄をつくる過程で石炭の使用が欠かせない。その一方で、製造過程で発生する副生ガスや排熱を電力や熱として回収し、徹底的に使い尽くすことで、化石燃料の追加購入を減らす取り組みを進めている。石油精製のプロセスなども同様に、CO2排出が避けられない中、副生ガスの70%以上を回収し、利用しているという。

しかも、こうした産業は電力使用量が多いため、工場屋根に太陽光パネルを設置しても再エネ比率はあがらず、購入電力の再エネ化に依存せざるを得ない状況にある。実際、再エネなどの導入比率は業種によってばらつきが多い。バイオマス発電の導入拡大が進んだ製紙業こそ48%を超えるが、鉄鋼、化学、セメントなどは10%台にとどまる。

エネルギー多消費4業種の非化石エネルギー利用状況

 2017年2018年2019年
鉄鋼業8.82%9.03%11.95%
化学工業15.89%16.77%16.89%
セメント・
ガラス製造業
10.71%14.73%15.22%
製紙業47.42%48.31%48.67%

出典:経済産業省

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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