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省エネ法改正ではじまる「再エネ争奪戦」 1.2万社に再エネ導入目標の設定義務化、余った太陽光発電の利用拡大で迫られる日中操業

2022年01月13日

再エネの争奪戦がはじまる!? 産業界に広がる危機感

再エネの争奪戦がはじまる」との危機感も広がりつつある。

一般社団法人電子情報技術産業協会の川上景一常務理事は、「サプライチェーンや金融機関などの要請が強まり、再エネの利用拡大スピードは今後さらに加速するだろう。自社による再エネ電源の導入も進めるが、電力会社からの再エネ電力の購入は欠かせない。だが、電力会社の再エネ供給スピードが遅れると、再エネの供給不足が起こる可能性がある。そのような状況になったら国はどう対応するのか」と疑問を呈した。

日本製紙連合会の先名康治技術環境部専任調査役も、バイオマス燃料の取り合いが起こる可能性を危惧する。「非化石エネルギーの目標達成に向けて、各事業所間でバイオマス等の燃料の取り合いとなり、コスト面での課題が発生する懸念がある。さらにはバイオマス燃料として使われるチップが製紙原料のチップ価格にも影響する可能性もある」と述べる。

「再エネ争奪戦の結果、再エネ目標が未達でも、省エネ目標を達成すれば、評価が下がることがないよう対応を求める」(一般社団法人セメント協会の林康太郎生産・環境幹事会幹事長代行)という意見のほか、再エネの追加性にインセンティブを与えた制度設計を求める声もあがっている。

一般社団法人日本ガス協会の三浦一郎常務理事は、「たとえば工場内に新設した再エネは、その設置によって日本全体での再エネ拡大につながる。一方、既設電源による再エネメニューや証書などの購入は、需要家がそれを契約購入しても環境価値の付け替えにしかならず、日本全体での再エネ拡大につながらない。投下される資本も大きく異なることから、真の再エネ拡大につながる努力をする前者にインセンティブを与える制度設計が必要ではないか」と述べた。

再エネ導入に向けては製造業の協力が欠かせないが…

再エネの最大限の導入に向けては、電力を大量消費する製造業の協力が欠かせない。だが、日中操業に関して産業界から多くの懸念の声があがっている。

「メーカー責任として需要家に対して、必要なときに必要なものを供給しなければいけない中、再エネの変動に合わせて生産設備のオンオフを頻繁におこなえば、生産効率を低下させる」(一般社団法人日本鉄鋼連盟の田村潤一技術・環境部長)。

「紙・パルプ業界のような装置産業では、設備の起動停止が容易ではなく、それに伴うエネルギーロスや製品ロスが出る。容易に対応できることではない」(日本製紙連合会の先名氏)。「(日中操業の要請に関して)少なくとも1週間程度前の事前通知が必要だ」(一般社団法人セメント協会の林氏)。

さらに再エネの出力制御がいつ、どのタイミングでおこなわれるのか。事業者に正確に伝えなければ、再エネ利用の拡大にはつながらない。だが、「現在の九州エリアの実態として、前日時点の再エネ抑制が行われる可能性が示された場合であっても、実際には3回に1回程度は抑制が実施されていない」(一般社団法人日本ガス協会の三浦氏)という。出力制御がおこなわれなかった場合どうするのか、といった課題もある。

経産省は「再エネ100%電気や証書などを買ったら、省エネをやったことになるようなことは避ける。省エネと非化石転換、この2本柱で対応する。また非化石転換の難易度は違う。一律ではなく、業種ごとの違いや目安を踏まえたうえで、国の基準を示していく」と述べた。日中生産シフトに関しても、「再エネ出力制御がいつ発生するのか見通しを示しながら、24時間稼働をする製造業が技術的、経済的に可能な範囲で、需要の最適化に取り組んでもらえるよう今後、詳細制度設計を進めていく」方針だ。

改正省エネ法は、2022年の通常国会で改正法が成立したならば、2022年5月ごろから工場等判断基準ワーキンググループなどにおいて具体的な詳細検討に入り、2023年4月の施行を目指す。

 

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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