リチウムイオンバッテリーは、さまざまな希少金属(レアメタル)を必要とする。リチウムもレアメタルではあるが、それ以上に資源の確保が課題となってくるのが、コバルトだ。前編では、コバルトがどのように需要が拡大していくのか、その予測を示した。中編では引き続き、コバルトの主な産地となるコンゴ民主共和国への依存をめぐる問題について、週刊「レアメタルニュース」編集長の吉竹豊氏による解説をお届けする。
現状、コバルトの大規模な増産が可能な国は1つしかない。それは、紛争鉱物が紛れ込みやすく、カントリーリスクが極めて高いコンゴ民主共和国(DRC、旧ザイール)だ。米国内務省地質調査所(USGS)によると、コバルトの世界採掘量は2000年頃から増え続けているが、DRCの増産が大きく寄与している(図6)。
図6:コバルトの世界採掘量(1,000t、USGS)
出所:USGS
2020年の世界採掘量は14万トンだが、これに対してアフリカで第2位の面積をもつDRCの採掘量は9万5,000トンと全体の68%を占めており、寡占性が極めて高い。DRCでは、周辺国を巻き込んだ大規模な国際紛争が1996〜2003年に激化し、採掘量が1998年に1,500トンまで減り世界シェアも6%に低下。だが、以降は回復に転じ、18年の採掘量はピークの104,000トンを記録し、シェアも70%に達した。
経済合理性をもつ世界埋蔵量は710万トンで、このうちDRCが360万トンと過半数を超える。DRC南東部のルアラバ州や上カタンガ州から、東隣のザンビアまでは、品位の高い銅の主要産地「カッパーベルト」として知られているが、DRC産の銅鉱石は主に酸化鉱だ。溶媒に溶かし電気分解などをする湿式製錬のため、生産コスト面では乾式製錬に適した硫化鉱にくらべ不利になりやすい。しかし逆に、コバルト品位は高い。そのため、鉱山の権益を保有する資源メジャーのグレンコアや、中国の資源会社などは、鉱山の操業再開や新規プロジェクトを進める意向で、採掘量は拡大していく見込みだ。
コバルト精鉱から金属コバルトなどの電池材料を生産する中間処理は、過剰能力を抱える中国が世界の5割超のシェアを維持するとみられている。
主産物の銅の世界需要は、新エネルギー車や充電スタンドの普及にともなって拡大が続くことが見込まれ、採掘・製錬も順調に拡大する。ロンドン金属取引所(LME)現物の国際相場は2021年2月に8,000ドル/トン台に入り、5月には1万725ドルと10年3ヶ月ぶりに過去最高を更新するなど、高値圏にある。
DRC以外のコバルト採掘量は2015年にピークの6万3,000トンに達した後、ザンビアやカナダなどが縮小したことで、2016年以降は4万4,000〜4万7,000トンで推移し、増産余地に乏しい。そのうちザンビアの銅鉱石は乾式製錬に適した硫化鉱のため、銅製錬は競争力を持つが、コバルト品位が低いため、コバルトの製錬は2017年から休止してきた。だが、需要回復にともない、ここにきて再開の動きがようやく出てきた。その他の産地はほとんどがニッケル(採掘量220万トン)の副産物で、鉱山全体に占めるコバルトの収益が限られる。そのため、コバルトが供給不足や相場高騰に陥っただけでは、資源開発が進む可能性は低いが、逆にニッケルの採掘・製錬が拡大すれば、コバルトの供給も拡大する。
コバルトが産み出す新たな問題とは・・・次ページ
モビリティの最新記事