SPERA水素プロジェクト 千代田化工建設他が、水素の国際間輸送で実証開始 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)

SPERA水素プロジェクト 千代田化工建設他が、水素の国際間輸送で実証開始

SPERA水素プロジェクト 千代田化工建設他が、水素の国際間輸送で実証開始

2020/07/17

次世代のクリーンエネルギーとして期待されている水素だが、その輸送は大きな課題となっている。先日、NEDOが推進する2つの水素サプライチェーンプロジェクトのうちの1つ、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合による、水素受け入れ側の実証プラントがメディアに公開された。詳細をエンジニアリングビジネス誌編集長・宗 敦司氏がレポートする。

世界初の国際間水素サプライチェーン

ブルネイ(ブルネイ・ダルサラーム国)で水素を製造し、日本に輸入して利用するという、世界で初めての国際間水素サプライチェーンの実証試験が本格稼働した。筆者は日本側の重要施設となる川崎の脱水素化設備を見学する機会を得た。今回は、この設備がどのようなものだったのか、レポートする。

燃焼時にCO2などの温室効果ガスを発生しない水素。その水素をエネルギー源として活用するためには、「水素をどういう形で輸送するか」というのが大きな課題のひとつだ。これまでは水素パイプラインや水素吸蔵合金を使用していたが、パイプラインでは比較的近距離での水素輸送しかできない。水素吸蔵合金では重量が重すぎる上に効率が悪いという欠点がある。

そこに登場したのが有機ケミカルハイドライド法。これはトルエンに水素を化合させ、メチルシクロヘキサン(MCH)として輸送するものだ。トルエンは常温常圧で通常の石油施設で輸送出来ることが最大のメリットだ。高圧となる圧縮水素ガスでもなく、液体水素のように極低温に対応した特殊な設備も不要となる。しかも、これまで未利用の安価な資源(トルエン)を活用し、安価に輸送することで、水素普及の阻害要因である高価な水素価格の低減にも繋がる可能性がある、というわけだ。

この有機ケミカルハイドライド法での水素輸送サプライチェーンの構築に力を入れているのが千代田化工建設だ。同社はMCHの脱水素触媒を開発し、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)を立ち上げた。
そして今回、世界初となる国際間水素サプライチェーンの実証試験を本格的に開始した。

水素コスト低減のカギとは

実証試験は、海外の未利用資源を使って水素を製造し、日本に輸送して利用するという国際間の水素サプライチェーンを構築するもので、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する2つの水素サプライチェーンプロジェクトのうちのひとつになる。
もうひとつは、川崎重工業などが進めている豪州で褐炭を使って水素を製造し、液化水素(LH2)の形で水素を日本まで輸送するというプロジェクトで、こちらはまだ輸送まで至っていない。

AHEADでは、ブルネイのLNGプラントでこれまで未利用であったプロセス発生ガスを原料に水蒸気改質で水素を製造する。これをトルエンに化合させて、メチルシクロヘキサン(MCH)とし、タンクコンテナに詰めてコンテナ船で輸送。川崎コンテナターミナルで荷揚げして、東亜石油京浜製油所内に輸送。そこに設置された脱水素プラントにMCHを供給。化学反応で水素を分離し、同製油所内のガスタービン発電設備の燃料に混ぜて、発電燃料として使用する。脱水素されたトルエンは再びブルネイに輸送され、そこで再び水素を化合してMCHとすることで、トルエンが水素キャリアとしてぐるぐる回る水素サプライチェーンとなる。

ブルネイ側の水素化プラントは、昨年(2019年)9月に運転を開始し、開所式も同年11月に実施している。川崎の脱水素プラントも昨年末に試運転を開始していた。さらに、「今年6月21日にはトルエンの2巡目の水素化が開始され、日本~ブルネイ間の水素サプライチェーンが実質的に繋がった」(森本孝和AHEAD理事長)。

また中野洋昌経済産業省大臣政務官は、「水素社会の実現には水素供給コストが大事。この実証事業は海外の安価な未利用資源を使って水素を製造し、日本に輸送するプロジェクトであり、今後の水素社会実現のカギを担っている」とビデオレターで述べた。

脱水素設備はマイルドな化学反応

脱水素プラントは東亜石油京浜製油所のガスタービン発電設備の隣接地に設置されている。

コンテナターミナルからトラックで運ばれてきたMCHは、まず入出荷エリアでMCHタンクに移される。タンクコンテナを積んだトラックから、タンクへMCHが移送される。タンクの容量は1基あたり44.18リットルで、6基設置。このタンクから脱水素プラントへMCHが供給される。

入出荷エリア

MCHタンク

脱水素プラントでMCHは予熱によりガス化される。ガスはリアクター(反応塔)に送られ350~400℃の温度域で触媒によって脱水素化される。化学反応としてはシンプルでマイルドな条件で脱水素化できるのが特徴だ。

脱水素プラント

リアクター

この触媒については、千代田化工建設が実証設備で1万時間を超えるテストをしており、3年以上の使用が可能であることを確認しているという。ちなみに、反応に必要な熱は東亜石油のボイラで加熱したホットオイルで供給されている。

同設備の水素の発生量は約300m³/時。これは燃料電池自動車(FCV)で約6台をフル充填できる量だそうだ。水素の純度は98~99%。工業用などで使用する場合はさらに精製する必要があるが、ガスタービン燃料として使用するので充分な純度といえる。これをパイプラインでガスタービン発電設備に送り、約2%程度の混合率でガスタービン発電を行っているという。

脱炭素のための(水素社会を)「希望せよ」

この実証試験の規模は、フル稼働時には、年間250トンの水素供給量の規模となる(FCVフル充填4万台分)。

この試験は今年11月まで行われる予定であり、「これによって、まずは同技術がすぐに実用化できることを実証し、さらに継続的にデータ等を取得し分析していくことで、商用化に向けた改良、改善も行っていく」(森本理事長)という。AHEADでは、この実証終了後、引き続き商用化に向けた検討を行い、2030~2050年には発電事業としての事業化を目指していく考えだ。

ただ、あくまで今回は技術の実証が目的となっており、有機ケミカルハイドライド法による水素供給のコスト試算は行わない。コスト評価は、システムの改良や最適化などを行った上で今後の課題となる。従って現状では低コストで水素供給が可能かどうか、なんとも言えない。

MCHはコンテナ1台あたり16トン積載されるが、そのうち水素の含有量は0.9トン程度。もちろん事業化の際には、ケミカルタンカーなどで大量のMCH輸送を行うことになるし、液体水素に対して輸送設備のコストが大幅に低減されるのは大きなメリットだが、輸送される水素の16倍超のMCHを輸送しなければならないので、これが水素コストの低減にどう影響するか。

また、今回の実証で用いられる水素は炭化水素を原料とするため、いわゆる「グリーン水素」ではない。これまで大気放散されていた炭化水素を燃料化することで有効活用にはなるものの、水素製造時にはやはりCO2が排出されてしまう。この点が今後どう評価されていくかが、国際間水素サプライチェーン実用化のポイントとなりそうだ。

今のところ、水素をエネルギーとして活用することへのハードルが高いのは事実だ。しかし今回の実証のような取り組みに加え、欧州等でも水素のエネルギー活用の取り組みが進められている。実現性は徐々に高まってきていると感じる。

ちなみに千代田化工建設は、水素を貯蔵・輸送するMCHを「SPERA水素」として商標登録している。「SPREA」とはラテン語で「希望せよ」という意味であり、水素社会の実現によって、気候変動対策としての可能性に期待を込めている。実証の成果に期待したい。

SPERA水素プロジェクト® プロジェクトページより

参照

宗敦司
宗敦司

1961年生まれ東京都東村山市出身。 1983年 和光大学人間関係学科卒業。 1990年 ㈱エンジニアリング・ジャーナル社入社。 2001年 エンジニアリングビジネス(EnB)編集長