太陽光パネルの価格が日本でもあがっている。新疆ウイグル自治区でのシリコン製造へのアメリカの禁輸措置が影響しているという。背景を探った。
ことの発端は、2021年6月24日にアメリカ・バイデン政権が、強制労働の疑いがあるとして、中国から太陽光発電パネル原材料であるシリコン関連製品の輸入禁止を命じたことだった。
輸入禁止を命じたのは、中国の合盛硅業股分有限公司(ホシャイン・シリコン・インダストリー)。新疆ウイグル自治区に製造拠点を持つ多結晶(ポリ)シリコンの製造大手だ。ホシャインの原料シリコンだけでなく、ホシャインのシリコンを使った太陽光パネルも含まれる。
同時にアメリカ商務省は輸出禁止対象にする「エンティティ・リスト」にホシャインのほか、新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)、東方希望集団(イースト・ホープ・グループ)傘下の新疆東方希望有色金属、新疆協鑫新能源材料科技(新疆GCLニューエナジーマテリアルテクノロジー)、新疆生産建設兵団(XPCC)の計5社を追加した。これらにアメリカ製品を輸出する際には商務省の許可が必要になる。
太陽光パネルはシリコン半導体の集積体であり、半導体が光に反応して発電する仕組み。そのため、太陽光パネルにはシリコンが必須となる。シリコンの生産シェアは8割が中国で、その半分ほどがウイグルで採掘・製造されている。残りは中国の別の地域、あとの20%は中国以外の国だ。
そのシリコンの採掘に際して強制労働が行われているのではないかということは、数年前から問題になっていた。
バイデン政権がグリーン政策を推し進める一方、ポリシリコンのウイグル強制労働問題は高まり、今年1月にはアメリカの団体が対応を求めていたり、3月に上院議員から米国の太陽光パネルのウイグル依存度を米国太陽光発電協会(SEIA)に調査を求めたりしていた。
デロイト・トーマツの調査によれば、メーカーに強制労働のイメージが少しでもあれば欧米の顧客の多くは離れるといい、いまや人権とそのビジネスインパクトはかつてないほど大きいという。
ソーラーパネルメーカーの大手、ジンコ・ソーラーのアメリカ部門はアメリカで販売・設置されるソーラーパネルにはウイグルから調達された部品や材料は含まれていないとコメント。ジンコ・ソーラー社製パネルを使用している再生可能エネルギーの発電会社sPowerも使用パネルに強制労働は関係ないと述べており、ブランドイメージが損なわれないように躍起になっている。
ドイツでは「サプライチェーンにおける企業の人権に関するデューデリジェンスに関する法律」が可決された。EUではサプライチェーンにおけるデューデリジェンス義務を導入する声が高まっている。
これらのデューデリジェンスは再生可能エネルギープロジェクトとからんで求められることが多い。なぜなら、風力発電や太陽光発電の立地における先住民コミュニティの問題や、電池(リチウムやニッケル)や今回のシリコンのような鉱物採掘の強制労働問題、鉱山の権利問題が常に関連してくるからだ。
これらの対応から、アメリカではシリコンの輸入禁止措置までとられたが、マーケットはすぐに反応した。
シリコン価格は1年間で5倍に高騰し、日本で使うパネル価格も3割から4割上がった。現在は1Wあたり30〜35円前後と日経新聞は伝えている。パネルの価格は当然ながら、太陽光発電プロジェクトの建設費を直撃する。
太陽光パネルの国別生産割合では中国が7割を占める(日本は1%)。コスト面からも中国は競争力が非常に高い。
世界の太陽電池モジュール生産量の国別分布(2019年)
その中国は、中国太陽光発電産業協会のコメントとして、シリコン生産地を視察したがアメリカの主張は事実ではないと述べている。
アメリカの合衆国税関・国境警備局(CBP)によると、アメリカは過去2年半の間にホシャイン社の素材を使用した製品を少なくとも1億5,000万ドル輸入しており、直輸入も600万ドルあると推定している。アメリカは2020年に80億ドル以上のソーラーパネルを輸入している。
冒頭で述べた通り、即日発効の命令により、ホシャイン社のシリコンをすべて、または一部に使った輸入品をすべて輸入してはならないとしている。一方でアメリカCBPはホシャイン社のシリコンがどこに使われているのかを定量的に示すことは困難だろうという。ホシャイン社は世界最大のポリシリコンメーカー8社のために冶金グレードのシリコンを提供しており、どこのメーカーのどこに使われているかを示すことは非常に難しい。
6月、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはウイグル自治区に関する160ページに及ぶ報告書を国連に提出したが、アントニオ・グテーレス事務総長は国際調査をまだ指示していない。
一方、6月22日には日本を含むカナダ、オーストラリア、英国、フランスなど40ヶ国は国連人権理事会で、中国に対し、国連高等弁務官の早急なウイグル入りと調査を受け入れるよう求めた。
アメリカ商務長官は、G7の公約である世界のサプライチェーンから強制労働を排除する行動を取っているのだとコメントしている。
ブルームバーグによると、こうした一連の動きは中国と気候変動に関して協力したいというアメリカの希望を損なう可能性があるという。
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