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次世代バッテリーがEV普及のカギを握る

次世代バッテリーがEV普及のカギを握る

2019/10/28

2018年、グローバル市場で初めて販売台数が200万台を超えたEV。自動車大国アメリカでも、EV市場は成長しており、2028年にはニッチ市場からメジャーへと転換する、シェア16%を超えると予測されている。しかし、EV市場拡大には3つの条件がある。その一つが次世代バッテリーの開発と生産キャパシティの拡大だ。EV普及のカギを握る次世代バッテリーの最新動向について、米国在住のジャーナリスト、土方細秩子氏が解説する。

成長する米国EV市場

今年1月から9月までの米国のEV(プラグインハイブリッドを含む)販売台数は23万台を超えた。昨年同様に10-12月期に販売台数が伸びれば、18年の販売総台数36万台に迫るだろう。

市場をけん引しているのはもちろんテスラで、モデル3が111,650台、モデルXが13,725台、モデルSが10,350台と、トップ5のうち3つのモデルを占めている。ちなみに2位はトヨタプリウスプライム15,705台、4位がシボレーボルト13,111台となっている。

グローバル市場では昨年EVの販売台数が初めて200万台を超え、今年は9月までで140万台強となっている。EVの導入についての統計を行っている米EVAdaption社によると、EVがニッチ市場からメジャーへと転換する、シェア16%を超えるのは、米国では2028年と予測されている(図1)*1。販売台数は300万台を超え、市場シェアは17%を超える見込みだ。さらに他州に先駆けてEV導入が進むカリフォルニア州だけを見ると、メジャー転換期はわずか3年後の2022年で、州内のEVシェアは17.5%に到達する、と予測されている(図2)。このときの販売台数は約35万台となる。

Loren McDonald/EVadprion.comの
データを元に編集部が作成
 
Loren McDonald/EVadprion.comの
データを元に編集部が作成

EV市場拡大の3つの条件

ただしEVAdoption社ではこの数字が実現する条件として

  1. 2020-2022年の間に「購入しやすい」価格帯のEVが複数市場に投入されること。
  2. 2020年までに高価格帯のEVの継続走行距離が250-300マイルに到達すること。さらに継続走行距離250マイルを超えるSUVやピックアップトラックモデルが投入されること。
  3. 2022年までにバッテリーの80%チャージ速度が15-20分程度に改善されること。

を挙げている。

1はテスラモデル3が他のモデルの10倍近く売れている事実からも明らかだが、1台が8-10万ドル、という価格ではEVが普及するのは難しい。オプションをつけても5万ドル以内で購入できるモデル3が米国ではEV人気の火付け役になっていることは明らかだ。

2と3については、EVの購入を躊躇する人々が真っ先に挙げる理由であり、ドライブの途中でバッテリーが切れるのでは、バッテリーチャージに時間がかかり、ドライブ時間全体が長引くのでは、という不安がぬぐえないのが事実だ。

懸念されるバッテリー不足とポスト・リチウムイオン

さらに、予測の通りにEV導入が進んだ場合、世界中でバッテリー不足が深刻になる可能性もある。グローバルのEVバッテリー需要は2028年には1,200GWhに達すると予測されているが、これはおよそ300GWhという現在の需要の4倍となる。

2019年現在、世界最大のバッテリーメーカーはテスラとパナソニックの合弁事業であるギガファクトリーで、生産キャパシティは23GWh、続いてCATLの12GWh、BYDの7.2GWhなどとなっている。しかし今後は、中国、韓国メーカーの急成長があり、バッテリー市場は大きくアジアにシフトする、という見方もある。

ただし、これらはリチウムイオンバッテリーに関してのみのことである。前述のEVAdoptionが掲げる条件の2,3を満たすには、現在のリチウムイオンバッテリーでは十分ではなく、新たなバッテリーの開発と生産がEV普及のカギを握る、と見られている。短時間で充電可能、キャパシティが大きく、価格もある程度抑えられる、という三点がリチウムイオンバッテリーに代わる新しいバッテリーの絶対条件となる。

ナノシリコン利用で高密度化・長寿命化

では、どのようなバッテリーが現在有力視されているのだろうか。まずは現在のリチウムイオンと同じ原理ながら、内部構造や素材を変えることにより長持ちさせる、という考え方がある。代表的なものに、現在のリチウムイオンバッテリーの負極(マイナス極)材料にシリコン材料を使用する、というものがある。

カリフォルニア州のSILAナノテクノロジー社はナノシリコンを使ったEV用バッテリー生産を目指すスタートアップだ。テスラの創業当時からの社員が独立して始めた会社で、中心メンバーはテスラからの独立組であり、EVについては知り尽くしている。

同社の考え方はリチウムイオンバッテリーの負極材料に、より多くのシリコンを添加する(シリコンリッチアノード材料)独自技術でバッテリーセルのキャパシティを上げ、デンシティを高める、というものだ。これにより同社ではエネルギーデンシティを20%向上させることに成功し、さらに40%向上させられる可能性がある、としている*2

これが実現すればEV用バッテリーは小型化、あるいは継続走行距離の飛躍的な伸びにつなげることができる。またこの技術の利点は、従来のリチウムイオンバッテリーにそのまま組み込めるところだ。バッテリーメーカーがラインを変えることなく、同社のセルを組み込むだけで新たなバッテリーを作り出すことが出来る。
同社にはドイツのダイムラー、BMWが出資しており、今後5年程度で実際のEV向けのバッテリー生産に乗り出す構えだという。現時点ではデジタルウォッチなどの小型バッテリーから実用化を始めているが、量産体制に入ることが出来ればEVの価格を大きく下げることにつながる、と同社は語っている。

日本がリードするソリッドステート(全固体電池)

日本がリードしているのはソリッドステート・リチウムイオンバッテリー(全固体電池)と呼ばれるバッテリー技術だ。リキッドフローではなくソリッドステート(固体)を使用することにより、安定して長持ちする電池が可能となる。

トヨタは2017年にこの電池の開発を発表、2020年にも同社のEVに適用するとして話題となった。ソリッドステートは現在のバッテリーの問題点である発火と寿命を一度に解決できる可能性がある。電解質が可燃性の液体であるために、その漏れからEVの発火事故が報告されているが、固体になればその危険性が大きく低下する。さらにトヨタではソリッドステートの寿命は現在のリチウムイオンの2倍になる、としている。

ソリッドステートも競争が激しくなりそうな分野だ。かつてカルマというEVスポーツカーを発表してテスラの最大のライバルと言われていたフィスカー・オートモティブ社の元社長、ヘンリック・フィスカー氏は、同社の破産後に新たにフィスカー社を立ち上げたが、トヨタと同じ2017年にソリッドステートバッテリーの特許申請を行った。同社では当時「1分で充電できる」「継続走行距離は800キロ」と語っていた。ただし現時点でこのバッテリーはまだ実現していない。

バッテリーチャージャーにも新たな可能性

一方で、現在のリチウムイオンバッテリーの新たな可能性を追求する動きもある。英国ワーウィック大学のWMG研究所では、センサーによりバッテリー内の温度を正確に分析することにより、従来より5倍速くバッテリーをチャージする技術を開発した(図3)。

この技術は2018年に論文の形で発表されており*3、今後どのような形で商業化できるのかを模索中だ。技術はセンサーをバッテリー、チャージャー双方に適用する必要があるため、普及するかどうかはインフラ整備にも関わってくる。

WMG研究所発表論文よりFBG(Fiber Bragg Gratings(ファイバ・ブラッグ・グレーティング:光ファイバセンシング技術)部がセンシングになる。

このようにリチウムイオンバッテリーを巡ってだけでも様々な新技術が開発されつつあり、どの技術がメジャーになってもおかしくない状況になっている。

しかし、リチウムイオンという考え方から離れ、全く新しいバッテリーを開発しよう、という動きもある。次回は次世代バッテリーの中心として期待のかかる新しい技術について紹介したい。

土方細秩子
土方細秩子

京都出身、同志社大卒、その後ロータリー奨学生としてボストン大学大学院留学、同大学コミュニケーション学科で修士号取得。パリに3年間居住後ロサンゼルスに本拠地を置き、自動車、IT、政治、社会などについての動向について複数のメディアに寄稿。