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石炭火力支援停止に 深刻な電力不足 どうした中国

2021年10月01日

 なぜ、中国は石炭火力支援停止を表明したのか

それでは、中国の石炭火力支援停止から解説する。

気候変動対策が国際的に叫ばれる中、脱炭素の対象としてもっとも注目が集まっているのが石炭火力発電だ。CO2の排出量が多い、というのがその理由だが、他方で、途上国にとっては、増えるエネルギー需要を満たすために、安価で安定的な電力供給をまかなうという点で、アクセスのしやすい発電形態にもなっていた。

そうした事情もあり、石炭火力を世界各地で作っていたのが中国である。

中国は海外、特に途上国に対してインフラを積極的に輸出しており、それによって、各地で中国の影響力というのを増進させている。とりわけアフリカなどは顕著だ。エチオピアにいけば、アフリカ連合の敷地に中国の旗が立っているのを見ることが出来る。中国が建物を建てるインフラ支援をしたからだが、アフリカ連合に中国の旗。非常に違和感があるが、それほど中国の影響力はアフリカに浸透しているということだ。

ちなみに、これは余談だが、エチオピアの外務大臣や保健大臣を務めたテドロス氏は、いまWHOの事務局長になっており、新型コロナウイルスについての指揮を取っている。深くは申し上げないが、なるほどな、と思えるのではないだろうか。

この中国の支援スタイル、途上国の財務状況が悪化しようが、借款を貸付け、中国人を現地に派遣して、現地に裨益しない形でインフラを整備するというスタイルである。それゆえ、国際秩序を乱すもの、として、日本を含む各国はこれを問題視してきたわけだが、その中のメニューの一つに石炭火力もあった。

しかも、中国の石炭火力は、CO2対策などはされていない、安いけれども環境配慮のないもの。それが世界中に広まるのであれば、気候変動対策においてもっとも逆行し、最悪の展開となる。

これを逆手に、日本は、日本のものは中国製に比べたらCO2を出さない、という形で石炭火力輸出支援の理由に使ってきたという経緯がある。

「だったら他の電力メニューで支援しろよ」という話なのだが、この理屈自体は詭弁でしかなく、実際、欧米にはそう受け止められていた。ただ、こうした詭弁が成り立ってしまうほどに、中国の石炭火力支援の存在感は大きく、中国に世界の電力セクターのパイを取られるという危機感が日本にあった、ということもまた事実だ。

とはいえ、もはや日本もG7の合意で石炭火力の政府支援が停止となり、一方で、中国はこれからもどんどんやっていける、そういうフェーズに入ったかのように見えたところだった。中国からしたらおいしい展開だ。

そうした中、9月21日の国連総会において習近平国家主席が「石炭火力輸出支援の停止」を表明した。

具体的には習氏は次のように述べている。

「中国は発展途上国の低炭素推進を強力に支援し、海外での石炭火力発電所を新たに建設しない」

途上国の脱炭素ではなくて、低炭素というあたりに、天然ガスなどの分野での支援は残した格好になるが、ただ、後段の石炭火力発電を新たに建設しないという発言は、これまでの方針を180度転換するものだ。この方針転換については日本政府の中でも「嘘だろ」と思った人間は多いと思う。むしろ、「こうなる前に日本は手を引いておいてよかった」、「石炭火力から手を引く順番で最後にならなくてよかった」と心をなでおろしているのではないか。カーボンニュートラル宣言のときには中国に順番では出し抜かれていただけに。

それほどまでに、このタイミングでの中国の石炭火力輸出支援停止は、いくら後段で説明するアメリカの働きかけがあったとしても、これまでの経緯を知っている者からすると、突然の転換であり、予想はできなかったものと思われる。

いずれにしても、形としては、これで中国は気候変動対策のために脱炭素アクションを大きくとってきた、という格好になったわけである。

しかし、さきほどの中国の影響力拡大の文脈からしたら違和感があるはずだ。この点はのちほど考察したい。

ただ、国際的に限らず、国内でも石炭に関する動きが中国で出てきている。そこで中国国内の電力不足について解説したい。

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前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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