エナシフTVスタジオから(3)
YouTube番組「エナシフTV」のコメンテーターをつとめるもとさんが、番組では伝えられなかったことをお話しします。今回は、2021年2月に米国テキサス州で発生した、強い寒波による大停電についてです。
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2021年2月15日から数日間にわたって、米国テキサス州では、大寒波の影響で多くの発電所が停止し、卸電力市場の価格は9ドル/kWhまで高騰した上、計画停電を実施せざるを得ませんでした。このニュースは日本でも大きく取り上げられましたし、EnergyShiftでも何回かお伝えしています。
その日本での報道なのですが、エネルギー政策をミスリードしかねない単純な見方による記事が見られることが気になります。代表的なものとしては、日本経済新聞の記事でしょうか。3月1日付朝刊では社説で取り上げていますが、その結論は、「特定電源に偏りすぎない電源構成のバランスも大切」というものです。これではまるで、火力発電を一定割合残さなきゃいけないみたいです。もちろんそれを全面的に否定するつもりはありませんが、私たちが直面する課題はむしろ、いかにして火力発電を減らしていくのか、ということではないでしょうか。
また、ネット上には、再エネ(特に風力発電)の大量導入が問題だった、あるいは日本で導入されたものの批判も強い容量市場というしくみがテキサス州で導入されていなかったことが問題だった、という意見が見られます。
しかし、実際に脱落した電源のほとんどはガス火力発電所でしたし、容量市場以外にも電気の供給力を確保する方法はあります。
大停電の原因は、直接的には大寒波によるエネルギーの需要増とガス火力発電所を中心に電源が脱落したことです。そして間接的には、大寒波に備えてこなかった電力システムということになります。
米国のエネルギーニュースの専門サイトClean TechnicaはForbesの記事を参考に、停電の要因のリストを記事の中で挙げています。それは以下のようなものでした。
ということです。
テキサス州のアボット知事は当初、風力発電の凍結が原因だとしましたが、実際に凍結した風力発電は31GWのうち8GWにとどまっています。これもまた、防寒対策がなされていなかったことが原因です。より寒冷な北欧で風力発電が稼働していることを考えれば、風力発電の本質的な問題ではないことがわかります。
2011年にも強い寒波が訪れ、テキサス州で計画停電が実施されました。しかし、このときの教訓を生かすことがなかったことから、今回の大停電を「人災」だと指摘する報道も見られます。
今回の大停電を受けて、テキサス州の送電網を運用するERCOTは理事長ら6名が辞任する事態となりました。とはいえ、ERCOTとしても発電所に対して防寒対策を強制する権限はなかったと弁明しています。
共和党のアボット知事は民主党の再エネ拡大路線を批判したつもりでしたが、防寒対策をとらない電力システムを放置してきたのは、共和党だったという批判もなされているようです。
関連記事:米国テキサス州、100年ぶりの大寒波で日本を上回る電力高騰。計画停電へ
再生可能エネルギーが拡大すると、既存の火力発電所は設備利用率が下がり、運用が難しくなります。とはいえ、風が吹かない夜間は、火力発電がある程度必要になってくるでしょう。とはいえ、そのときのためだけに発電所を維持するには、コストがかかるため、発電事業者は発電所を休廃止させようとします。ですから、発電所を維持してもらうために、みんなでお金を出し合うしくみが必要になります。
その方法の1つが、日本でも取り入れられた容量市場であり、あるいはドイツで取り入れられた戦略的予備力というしくみです(これらについては、以下の記事を参考にしてください)。
参考記事:容量市場の傾向と対策 前編:容量市場の何が問題なのか? その背景をさぐる
ERCOTの卸電力市場では、電力の市場価格が発電原価を下回っており、発電事業者にとっては経営が困難な市場でした。今回のような市場価格の高騰があってようやく経営が成り立つということです。とはいえ、やはり競争力がない石炭火力発電所はこの数年の間に多くが廃止されています(米国では石炭火力よりもガス火力の方が安い)。
このように、発電事業者にとって利益が出ない市場ですから、防寒対策への投資というモチベーションも持つことができないのかもしれません。そうであれば、電気を安定して供給するためには、小売事業者が何等かの負担をすることも必要でしょう。ただしそれが容量市場に限るということではありません。
さらにいえば、テキサス以外の地域との電気の融通ももっとできるようにするべきでしょう。同様に寒波に見舞われた中西部の各州ですが、大規模な停電とはなっていません。
その上で、Clean Technicaは別の視点から、エネルギーの効率化が必要だという記事を掲載しています。そこには、日本が学ぶべきことと日本から学ぶべきことの両方があります。
先に、テキサスの再生可能エネルギーについて述べておきます。アボット知事が再生可能エネルギーを批判したにもかかわらず、今後も拡大していく見込みです。
Clean Technicaによると、2021年だけで、9GWの太陽光発電が建設される可能性があるといいます。すべて建設されると太陽光発電だけで15GWになります。風力発電はさらに10GWの建設の可能性があるということです。
さて、今回の大寒波で、多くの人が暖房を使うことができず、亡くなった方も数十名いるということですが、その暖房そのものが効率的ではなかったという指摘がなされています。
第一に、テキサス州の住宅の約70%は、1999年以前に建設された、十分な断熱性能を持たないものだということです。さらに、35%はガス暖房、60%は電熱ヒーターないしは効率の悪いヒートポンプによるものだといいます。ガス暖房の利用増がガス火力向けの燃料不足をもたらしたことが指摘されています。
しかし問題はガスだけではなく電気にもあります。ガス火力発電の電気で電気ヒーターを利用することは、ガス暖房以上にエネルギー効率が悪いのです。しかし、高効率のヒートポンプを使えばガス暖房よりも効率を良くすることができます。さらに、地中熱利用によってより効率を向上させることができます。
エネルギーを安定して使っていくためには、供給側の取り組みは重要です。しかし、需要側の取り組みも不可欠です。
テキサス州の建物の断熱性能が高く、高効率のエネルギー利用ができていたのであれば、停電はもっと緩和されていたかもしれません。
建物の断熱性も重要
日本が学ぶべきことは、建物の断熱性能です。日本の住宅もまた、断熱性能は低く、1枚ガラスのアルミサッシからは熱がどんどん逃げていきます。もし断熱性能が高ければ、この冬の卸電力市場の高騰はもっと緩和されていたかもしれません。
一方、日本から学ぶべきことはヒートポンプでしょう。エアコンはともかく、高効率のヒートポンプ式給湯器、いわゆる「エコキュート」の技術は、もっと米国で普及してもいいものだと思います。それだけで、給湯のための消費電力量が3分の1以下になるのです。
今回のテキサス州の大停電の原因は、決して単純なものではありませんが、同時に再生可能エネルギーの大量導入や容量市場がないことが原因ということも、誤った指摘です。
とはいえ、再生可能エネルギーの導入はこれからも拡大しますし、それに合わせて電化も進みます。それをより良い電力システムにしていくためには、安易な思考停止は慎むべきでしょう。
関連記事:日本の2021年冬の電力ひっ迫記事一覧
参照
Clean Technica:Houston Chronicle Says Texas Failed To Build In Energy Efficiency To Plan For Climate Extremes
Clean Technica:Texas Natural Gas Production Fell ~45% During Cold Front
Clean Technica:Heat Pumps & Efficiency — Other Key Solutions To Texas’ Electricity Woes
PowerMagazine:ERCOT Board Members Resign in Wake of Blackouts
PowerMagazine:Texas Launches Probe of Power Companies After Blackouts
GTM:Texas Blackout Hearings Highlight Intertwined Risks of Natural Gas, Power Grid and Deregulated Market
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