日本自動車工業会の豊田章男会長は6月3日の記者会見で、政府が2030年までにEV用充電スタンドを15万基に、水素ステーションを1,000基に増やすとした、脱炭素実行計画案について、「電動車が多く走る、集まる場所を特定し、優先的に設置すべきだ。(特定に関しては)自動車業界をあてにしてほしい」と語った。
政府の成長戦略会議は2日、脱炭素社会の実現に向けた新たな成長戦略案を取りまとめた。
そのなかで、自動車分野では2035年までにガソリン車の販売を禁止し、すべての乗用車の新車をEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)にする目標を達成するため、新たなインフラ整備目標を策定した。
具体的には、2030年までにEV用充電スタンドを今の5倍となる15万基に、FCV用水素ステーションを今の6倍となる1,000基に増やすというもの。
新たなインフラ整備目標に対して、自工会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は6月3日の記者会見で、「EVやFCVの普及はインフラとセットになる。こうした目標はありがたい」と述べたうえで、次のように指摘した。
「数だけを目標にすると、どうしても設置しやすい場所に設置していくことになり、稼働率が非常に低くなる。その結果、使い勝手が悪いということになりかねない。自動車にはコネクテッド技術をGPSという形ですでに導入している。この通信技術を使えば、電動車が多く走り、集まる場所を特定することができる」。
そして、必要とされる場所へ、インフラを優先的に設置するためにも、「自動車業界をあてにしてほしい」と語った。
また二輪車の脱炭素化に関して、自工会の日髙祥博副会長(ヤマハ発動機社長)は原動機付き自転車、いわゆる原付領域でのバッテリー化を進める考えを示した。
日髙副会長は「二輪車はバッテリーを搭載するスペースに制約があるためEV化が厳しい。しかし、ある頻度での充電を前提にすれば、原付領域ではEVバイク化が可能となり、カーボンニュートラルに対抗していける」と述べた。
ただし、搭載できるバッテリーの容量は小型、少量だ。ホンダ、川崎重工、スズキ、ヤマハ発動機の大手4社が個別で開発、調達すれば、採算が合わなくなる懸念がある。
日髙副会長は「4社が協調しあい着脱式バッテリーを標準化し、交換ステーションもある密度で設置すれば、ユーザーの利便性も高まる」と述べ、標準化への取り組みを加速させる方針だ。
政府の成長戦略案には、デジタル社会を支える最先端の半導体について、生産拠点の国内立地を推進し確実な供給体制を構築するという方針も盛り込まれた。
自動車分野では半導体不足による生産休止など、足もとでも影響が及ぶ。さらに電動化や自動運転技術が進むと、半導体搭載量は今後ますます増える。自動車業界にとっても半導体の安定確保は課題だ。
自工会の永塚誠一専務理事は、「自動車業界も半導体不足の影響を受けている。国はNEDOを通じて、TSMCとの先端半導体開発に対する支援を行ったが、今後も、半導体分野に対する政府支援を期待する」と述べた。
一方、トヨタ自動車は6月3日、CO2削減を加速するため、1.5億ドル(約160億円)のグローバル投資ファンド「Toyota Ventures Climate Fund」を設立した。
脱炭素技術を持つベンチャー企業などへ投資することで、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速させる方針だ。
(Text:藤村朋弘)
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