破壊的技術が登場しつつあるとき、企業が生き残るためには、事業構造を転換していくことが必要です。事業環境が変化する中にあっては、事業構造も否応なしに変わらざるを得ません。変化に逆らうのではなく、変化の先を見抜き、変化の波に乗り、自社の事業を変えていくことが必要不可欠です。
事業ポートフォリオを構成する4つの象限は、みなさまも聞いたことがあるのではないでしょうか。
最初の立ち上げる事業はなかなか収益につながらず、「問題児」に例えられます。それがやがて成長し、「スター」へとなっていきます。そして、安定した収益を出すようになる「金のなる木」という主力事業になっていきます。しかし主力事業もやがて衰退期である「負け犬」に移っていきます。
えてして多くの企業は、利益率の高い「金のなる木」に集中しようとします。しかし「金のなる木」の事業が「負け犬」になってしまうと、企業は大きなダメージを受けます。
事業ポートフォリオは知っているかたは多いのですが、自社について事業ポートフォリオを実際に書いたことがある人はあまりいないかもしれません。ここでたとえば自分の会社や部門の15年後の事業ポートフォリオを書いてみましょう。金のなる木はすでになくなっているかもしれません。そうだとすれば、問題児をスターに育てる努力が必要です。それなしでは、企業はやがて行き詰まることになります。
「問題児」である新規事業を興す事業領域は、時代の変化成長の波に乗ったものであるべきです。問題児が全てスターに育つわけではありません。しかしそもそも変化の波に乗っていない新規事業でなければ、成長は難しいでしょう。
「工業社会」から「知識社会」への転換をしていくということは、モノ作りから知識に価値がある社会へと変わっていくことです。
工業社会で、良いものを安く作って供給することに大きな価値がありました。しかし、工業社会が成功した結果、大量生産によって世の中にモノがあふれています。知識社会においては、すでにモノづくりが次第に簡単になっていくため、製造以上に研究開発やマーケティングに価値が生まれてきます。
例えば、必要なものを必要に応じて流通させる事業として、メルカリがあります。これは、大量生産したものを流通させるのではなく、必要なものが必要な人に届けられるプラットフォームです。情報通信技術の発展により、膨大な需要と膨大な供給をマッチングさせることが可能になって、はじめて登場したサービスといえるでしょう。
エネルギーも同様です。工業社会では、大炭田や大規模な油田を開発して得られる石炭や重油という資源を、できるかぎり大規模な発電所で発電することが、もっとも効率的だといえました。
しかし、これから自然エネルギーが主役になると、大規模な発電所より個人宅の屋根に設置した太陽電池のほうが安く電気をつくることができるかもしれません。エネルギー産業の形も、数多くの発電所が作った電気を、さまざまな利用者が使う形に変化していくことでしょう。いわゆるスマートグリッドの世界です。
このように考えると、スマートグリッドは、「電気のメルカリ」といって良いかもしれません。
今回は最後に、「破壊的技術」による経営環境の変化に対応し、事業構造を大きく変化させた成功事例として、富士フイルムを紹介します。
フィルムカメラからデジタルカメラへの移行は急激なものでした。フィルムの需要のピークとなった2000年当時、すでに小型のデジタルカメラが発売されていました。しかしデジタルカメラはまだ画素数が少なく、性能はフィルムカメラよりも劣っていました。むしろフィルムの需要は旺盛で、使い捨てカメラの「写ルンです」の成功で、工場はフル操業していました。したがって、一般的にはフィルムの需要はまだ伸びるとされていたのです。
出所:富士フィルムHD
2004年にはフィルムカメラとデジタルカメラの販売台数は逆転します。しかし当時の富士フイルムの社員の多くは、フィルムカメラはまだ持ち直すと楽観的にとらえており、危機感はなかったといいます。それに対して、当時の古森社長は、営業の最前線から入る情報で、フィルムカメラの需要は急減すると予測しました。そして研究所に対し、写真用フィルムの研究を止めて、化粧品や医薬品の研究に集中させる指示を出しました。写真用フィルムの市場はほとんど消失しましたが、このときの古森社長の英断の結果、富士フイルムは生き残れたのです。
では、ライバルだった米国のイーストマン・コダックを見てみましょう。コダックは2000年頃までは世界を代表する超優良企業でした。また、コダックはデジタルカメラを世界で最初に開発したのです。しかしコダックは、最初の性能が悪かったデジタルカメラは、将来も実用化しないと考えてしまったのです。デジタルの進化のスピードを甘く見たのです。その結果、2012年にコダックは倒産し、今では商業印刷を主に扱う小さな会社に落ちぶれました。。
人は都合の悪い変化は見たくないものです。しかしそれを直視しなければいけません。脱炭素時代に全ての企業が置かれているのが、こうした状況です。
(続く)
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