日本企業の気候変動対策に「格差」 CDP、Aランク数世界トップでも拭えきれない課題とは | EnergyShift

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日本企業の気候変動対策に「格差」 CDP、Aランク数世界トップでも拭えきれない課題とは

日本企業の気候変動対策に「格差」 CDP、Aランク数世界トップでも拭えきれない課題とは

2022年01月24日

企業の環境関連の情報開示や取り組みを評価し公表しているNGO(非政府組織)のCDPは1月19日、2021年に最高評価である「Aリスト」を受賞した日本企業を表彰した。評価は気候変動、水、森の3分野で行われ、うち気候変動でAを獲得した日本企業は56社となり、国別獲得数で世界一となった。水分野は37社で世界トップ。気候変動の評価基準が厳しくなり、世界的にはAランクの獲得企業数が減るなか、日本企業の躍進が目立った。

投資家や金融機関が活用、影響力を増すCDP

CDPは1年に一度、調査対象となる企業に質問書を送付し、各企業から集計した回答内容を踏まえて企業の評価をしている。毎年グローバルで調査しており、2021年は世界で約1万3,000社が回答した。日本での調査が本格化したのは2006年からで、当初はS&P Japan 150を基本として選定された150社が送付対象だったが、現在は500社が対象に広がっている。

CDPの評価は機関投資家や金融機関、ESG評価機関などが投資判断や格付けなどに活用していると言われ、世界的に影響力が大きい。ESG投資が加速するなか、投資家対策としても無視できないものになっており、日本企業の回答企業数も2015年には246社だったが、2021年は354社まで増えた。質問項目がTCFDと関連づけられているため、企業が気候変動対策を実施するにあたって、「CDPに回答すれば、TCFDで何をすべきか見える」との声もある。

気づいた企業は先進的、すそ野の狭さが課題

こうした流れを受けて、A評価を受ける日本企業も増えている。なかでも、気候変動分野でのA評価は、世界では2020年の277社から205社に減ったにもかかわらず、日本企業は53社から56社へ増えた。2018年比で言えば、世界で1.5倍(139社→205社)の伸びなのに対し、日本の企業数は2.8倍(20社→56社)。この結果、国別のA評価数は日本がトップとなり、次いで米国、フランス、英国、ドイツとなっている。3分野でA評価を獲得した企業は世界では14社。日本では花王と不二製油の2社で、いずれも昨年に続いた。

CDP 2021 Aリスト国別企業数(上位)

気候変動 グローバルで203社


出典:CDP配布資料

水セキュリティ グローバルで118社


出典:CDP配布資料

フォレスト グローバルで24社


気候変動、水セキュリティで、日本企業がAリストが世界で最も多い。28%、31%
フォレストは、世界でAリスト企業は昨年の16社から24社に増加
出典:CDP配布資料

だが、課題もある。CDP事務局のまとめによると、日本はアンケート回答数では世界5位。特に、「顧客要請」による回答数が少ない。米国はもちろん、中国とも大きな差がついている。この理由を掘り下げると、「脱炭素の面だけでなく、日本企業の企業としての成長性を阻害するかもしれない危ない要因」が潜んでいるという。

「顧客要請」数の意味するところは何か? 実は、CDPのアンケートの送付企業(回答要請をする企業)には、投資家要請と顧客要請とがある。日本の場合、投資家要請はTOPIX500に沿って大手企業を中心に500社が対象となっている。一方、顧客要請は「自社のサプライヤーに回答して欲しい」と考える企業が、CDPに要請して回答を集める仕組み。日本では環境省と、トヨタ、日産、ホンダの自動車大手など12社がサプライチェーン(供給網)に開示を求める「サプライチェーンメンバー」に登録している。

2021年 CDPサプライチェーンメンバー(日本)


出典:CDP配布資料

サプライヤーにも取り組みを求める動きは、世界的には急速に広がっている。米アップルがサプライヤーに2021年の二酸化炭素(CO2)排出量削減を求めているほか、日本でもトヨタが昨年、2021年の排出量を前年比3%減らすよう求め、ホンダも削減目標数値を示した。積水ハウスなども同様の動きがある。

だが、国内ではCDP活用の面ではサプライチェーンへの広がりが限定的という結果となった。中国で「顧客要請」数が多いのは、世界への「供給網」となっていることが原因で、世界各国の企業から中国企業に要請があるからだとCDP担当者は説明する。

残念ながら、日本は「回答を求める企業」の数も、「回答を求められているサプライヤー」の数も少ないことが、顧客要請数の低さという数値に表れた。つまり、サプライヤーにまで環境情報開示が広がっているとは言えない

こうした結果について、CDPワールドワイドジャパンの森澤充世ジャパンディレクターは「重要性に気づいて先進的な取り組みをする日本企業が多く、世界的に見てもトップを走っている」としたうえで、「回答している企業数がまだ限られている。日本の脱炭素を進めるには、取引先への開示やすそ野を広げることも必要」と解説し、気候変動対策に関するすそ野の広がりを課題にあげた。業界別では、アパレルと発電の取り組みが遅れていると指摘。これらの業界では、A評価企業はゼロだった。

CDP 2021 国別回答企業数(上位10ヶ国)

気候変動


出典:CDP配布資料

水セキュリティ


出典:CDP配布資料

フォレスト


米国・日本・英国に加え、中国・ブラジルなど新興国からの開示も多い
顧客からの要請が開示数の増加を牽引
出典:CDP配布資料

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山田亜紀子
山田亜紀子

EnergyShift編集部 朝日新聞社で記者、編集者を経て、国内初のソーシャルメディアエディターに。プロデューサーとして、ダイバーシティ、定年後の生き方・暮らし方等のテーマメディア&コミュニティを立ち上げた。2015年にNewsPicksに留職。20年より現職。

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