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日本が期待する次世代太陽電池 ペロブスカイト 「日本にはこれがない」開発者が語る課題とは

日本が期待する次世代太陽電池 ペロブスカイト 「日本にはこれがない」開発者が語る課題とは

2021年10月13日

次世代の太陽電池と期待されるペロブスカイト太陽電池の技術は日本の研究者によって開発された。いまや海外では量産が始まっている。同電池は光を吸収するペロブスカイト結晶を膜状に加工して作る。液状の結晶原料をプラスチックフィルムなどに塗布して作れるので、軽く薄く、曲げることも可能だ。普及しているパネル型のシリコン太陽電池では考えられない場所への設置や、思いもつかないような物に貼り付けることも夢ではない。だが、こうした日本発の技術にもかかわらず、日本が世界をリードするには課題があると開発者の宮坂氏は指摘する。

日本発の技術だが、量産化では海外に出遅れ

量産の口火を切ったのは、ペロブスカイト太陽電池に特化したスタートアップのサウレ・テクノロジーズ(ポーランド)で先月(9月)のこと。イギリスのオックスフォード・フォトボルテイクスや中国企業も商業生産の準備中という。

日本企業では、フィルム基板のペロブスカイト太陽電池として世界最大サイズ(703cm2)で世界最高のエネルギー変換効率15.1%を実現した東芝が、実用化に向けて一歩踏み出したところだ。

ペロブスカイト太陽電池は、工学博士で現・桐蔭横浜大学特任教授の宮坂力氏らによって日本で生み出された。宮坂氏は、光エレクトロニクス関連で優れた業績を上げた研究者に贈られる、イギリスのランク財団の賞を先ごろ(9月28日)受けたばかり。電池の普及次第ではいずれノーベル賞も…といわれる同電池研究の第一人者だ。

日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池だが、量産化・商業生産では海外企業に遅れをとっている。それはなぜか。今後どのように広がっていくのか。宮坂氏に話を聞いた。

ペロブスカイト太陽電池に特化した企業が勝つ

「ペロブスカイト太陽電池に限らず、国などのプロジェクトに加わって技術開発をする際、その予算内でやっているうちは海外と渡りあえない。海外のスタートアップなどは投資家から自力で何十億円もの資金を集め、ペロブスカイト太陽電池に特化して開発にまい進するのだから」と宮坂氏は切り出す。

「日本企業の多くはいくつかある事業のひとつとしてペロブスカイト太陽電池を開発しようとするが、サウレ・テクノロジーズや中国の企業は同電池でダメならすべてなくなる覚悟でやっている。日本にはこれがない。だから海外より開発が遅れた」と国内企業へハッパをかける。「10年ほど前は太陽電池のワット当たりの生産数は上位を日本企業が独占していたが、中国企業にとって代わられた。太陽電池は売れてもビジネスにならないと日本企業が考えるようになったから」と付け加えた。

宮坂氏はペロブスカイト太陽電池にかかわる海外での特許を取得していない。理由は国・地域ごとに数百万円もかかるから。国内特許は取ったが「私たちのような小さなベンチャー企業(宮坂氏らの大学発ベンチャー)が持っている特許なら日本の大企業の足かせになるほどのことはないはず」と話す。

コストで対抗できなくても、製品のばらつきを抑えて生産面の歩留まりを上げ、製品自体の安定性や耐久性を高めていく部分では、日本企業は優位にあるはずなのに。

無機/無鉛の高性能電池が研究開発の柱に

ペロブスカイト太陽電池の普及が期待される分野のひとつが自動車ボディへの搭載という。同電池は電圧が安定し、軽量なので燃費軽減にも貢献できる。曲面だらけの最近の自動車にも対応可能だ。電池に含まれる有害物質もユーザーが車を買い替える際に回収するシステムを構築すれば問題はない。

ただし、現状は「耐久性、走行中に変化する光に対する不安定さ、耐えられる温度、それぞれに不安がある」と宮坂氏。耐久性は湿気が入らないような封止(シーリング)を完璧にすることでほぼ解決でき、光の変化にはペロブスカイトの材料組成を変えることである程度まで修正可能という。

難しいのが温度。これについて、宮坂氏は次のように話す。

「太陽電池上で陰になった部分は発電しないが、光が当たる部分は発電する。発電した電気が逆流して回路上でより大きな電流が発生し、熱が出てはんだなどのペロブスカイト周辺の材料に影響して火事になることが稀にある。環境面から無鉛のはんだが望ましいが、こちらは熱に弱い。研究用のデバイスではペロブスカイト太陽電池で400℃までもつものを開発し多数の論文を発表したが、実用化はまだ先になるのではないか」

ペロブスカイト太陽電池のチャンピオンデータは、有機材料と無機材料のハイブリット構造で太陽光に対する変換効率が25%。シリコン型太陽電池は26%。だが、有機は燃えてしまう。宮坂氏が開発した無機材料だけのペロブスカイト太陽電池は400℃まで耐えられるが16〜17%止まりだ。「無機だけではまだハイブリッドと差があり、誰もそのレベルに到達していない。そこは研究の柱のひとつ」と宮坂氏は意気込む。

屋内はペロブスカイト太陽電池にベストな環境

もうひとつ、普及が期待される分野が、窓・壁や屋内などだ。「屋外はほぼシリコン型太陽電池に任せていい。市場に普及し価格も低くなったのだから、いまさら置き換える必要はないと思う。シリコン型が使えない場所、例えば窓や壁、光が弱い室内などでペロブスカイト太陽電池を使うのがいい」

変換効率16〜17%の無機材料のペロブスカイト太陽電池だが、屋内なら34%も可能という。同電池は赤外線を吸収しないので、太陽光に対してはどうしても効率が低くなる。しかし、出力電圧がシリコン型の1.5倍と高く、屋内であれば主に可視光線だけなので効率は上がる。そのため、屋内のLED照明や窓から入ってくる光を使った発電として期待ができるというのだ。

今後さらにIoTデバイスは増えていくだろう。日本企業が屋内用の発電デバイス技術を持つことは強みになると思われる。

「太陽電池では、企業もそれを支援する国やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)も、屋外での太陽光を対象とした発電に力点を置いている。そのため、屋内での発電はマイナスに見られる傾向がある」と宮坂氏は指摘する。

「屋内での発電だとイメージもわきにくい。窓に貼る、壁に取り付けるなども含めて、太陽光の直射光以外を利用する目的に特化したもの、と考えればいいと思う。将来的にシリコン太陽電池と同等の耐熱性、耐久性が得られたところで、シリコン型のマーケットをペロブスカイト太陽電池がとって代わればいいことだ」と続けた。

ペロブスカイト太陽電池の研究者は、博士号を取得した若手を含めると海外に2万5千人ほどいるという。宮坂氏は「例えば中国は約1万5千人。日本は数百人程度だろう。いくら日本の質が高く技術が濃縮されているといっても、相手は100倍もいて多勢に無勢。リードする研究者のトップデータと比較すると、日本は決して優位ではない」と危機感を募らせる。

研究だけでなく、社会実装の面でも海外の方が進んでいる。脱炭素の面からもさまざまな応用が期待できるペロブスカイト太陽電池。日本企業の奮起が待たれる。


ペロブスカイト太陽電池を熱く語る宮坂力氏(手にしているのは色素増感型太陽電池でペロブスカイト太陽電池はその一種)

小田切淳
小田切淳

フリーランス編集者 大学で林学と都市空間計画を学ぶ。編集プロダクション勤務を経て現職。科学技術(建築・都市計画、環境先端技術、気候変動、農林業先端技術)と地域文化(旅行・観光から見た地域の歴史・文化・交通・産業)をフィールドに、取材・執筆・撮影を行う。

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