2020年6月4日、太陽光発電の普及に向けて、さまざまなカンファレンスを主催する、Solarplazaがウェビナー「COVID-19が日本の太陽光発電産業に与える影響」を開催した。
新型コロナウイルスは社会、経済にさまざまな影響を与えている中、日本の太陽光発電産業において、発電所の開発や運用、サプライチェーン、資金調達、セカンダリー取引に与える影響、直面する課題とは何か。大手EPC(Engineering、Procurement、Construction)やO&M(Operation & Maintenance)、金融機関、投資家などの専門家がWithコロナ時代の太陽光発電市場を考察したウェビナーレポートをお伝えする。
6月イベント延期でウェビナー開催
2004年設立のSolarplazaはオランダを拠点に、これまで40ヶ国以上で、140以上のカンファレンスを開催し、6万人以上のPVプレイヤーとネットワークを築いてきた。日本においても、2015年から運用中の太陽光発電所および太陽光発電のポートフォリオに特化した、「ソーラーアセットマネジメントアジア」を毎年1回開催しており、本来であれば、「ソーラーアセットマネジメントアジア2020」を2020年6月4~5日に開催する予定だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、このイベントは9月へ延期された。
この延期を受け、今回のウェビナー「COVID-19が日本の太陽光発電産業に与える影響」が開催された。
ウェビナーの主なアジェンダは、「日本ではどのような活動やセグメントが最も影響を受けているのか?」「COVID-19の影響は生産拠点の国内回帰を後押しする可能性があるか?」「COVID-19影響下における運用上の問題など」である。
日本の太陽光発電、コロナショックは限定的か
ウェビナーは、太陽光発電のシンクタンクである資源総合システム上席研究員、大東威司氏による「新型コロナによる2020年度以降の国内市場および海外市場への影響」と題した、ショートプレゼンテーションから始まった。
国内市場は「住宅用」、「低圧野立て・産業用ルーフトップ(低圧・高圧)」、そして「地上設置型(高圧・特高)」3つのセクターから構成されている。
太陽光発電システムの生産に関しては、世界最大の製造拠点である中国において、一部メーカーの工場稼働の停止・縮小はあったものの、4月までに工場稼働率は回復。中国における生産・物流が早期に正常化したため、日本への影響は限定的であった。しかし、緊急事態宣言による経済活動の停止により、住宅用の新規顧客獲得は低迷。また消費者の需要減退や住宅引き渡し遅延などの影響はいまだ影を残す。
低圧野立てや産業用ルーフトップでも、自家消費型に需要がシフトする中、新規顧客獲得が苦戦。新たなビジネスモデルと期待されるTPO/PPA(第三者所有方式/電力購入契約)も対面営業ができず、足踏み状態となっている。
メガソーラーなどの地上設置型は、FIT残留案件を中心に建設は進展しており、大きな影響はない。ただし、新型コロナウイルス感染防止の観点から、建設現場でも人員制限などの対応策を講じており、完工遅れの可能性は残る。
資源総合システムは、3つのシナリオを策定し、2020年度の市場規模を予測している。楽観ケースでは、一時的な停滞はあるものの、年度内に回復し、景気刺激策で上向き、2019年度比で微増となる「8GW」を想定した。中間ケースでは、新型コロナの収束が遅れ、停滞・需要減退により、2019年度比3~4割減となる「4~5GW」を予測。もっとも深刻な影響を受ける悲観ケースでは、前年度比半減となる「3~4GW」を予測した。
脱炭素に陰りが 世界の太陽光導入量は100GWに減速
続く海外市場分析では、国によってマダラ模様との見解を示す。
まず産業の川上セクターへの影響は、中国における生産活動が正常化したことで落ち着きを取り戻したが、その一方でロックダウン政策により、各国における太陽光発電プロジェクト開発の遅延が発生している。遅延による需要減少により、太陽光発電製品の価格下落が起きつつある。
その川下セクターでの影響は、インドやスペインなどは4月中旬より建設を再開したが、ロックダウンは日本でも起こった入札延期を各国で発生させている。また新興国の通貨下落により、米ドル建て契約をした企業は製品調達コストが上昇。原油安により再エネの価格競争力が相対的に低下する懸念もある。
インドやドイツ、台湾などは、開発遅延を受け、系統連系期限の延長やペナルティ条項の適用免除などの施策を実施するが、ここ数年右肩上がりで成長してきた太陽光発電の世界導入量にも減速感が漂う。2019年(暦年ベース)115GWだった導入量は、現状のまま推移すれば100GW、悲観ケースでは90GWまで落ち込み、加速ケースでは120~130GWになるとの見解を示した。
ただし、中長期的には、新型コロナからの経済復興を、気候変動対策を中心とする「グリーンリカバリー」が進展することで、再び成長軌道に乗ると予測した。
中国、米国、インド、欧州などの主要市場でのプロジェクトの遅延が継続すると、2019年の導入量を割り込む可能性もある出典:中国太陽光発電産業協会(CPIA)、「中国太陽光発電産業の現状と展望」(2020年5月)から(株)資源総合システムが作成
リーマンショックとコロナ危機の相違点
続いて日本の太陽光発電産業が直面する課題について、グループディスカッションが行われた。
スピーカーは以下の6名である。
- 太陽光発電の開発、設計、デューデリジェンスを手がけるM2PV創設者、マーティン・メスマー氏
- オリックスが保有する太陽光発電など再エネ発電所の運営・管理・保守を行うオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントの戦略責任者、百合田和久氏
- 600MWの太陽光発電、風力発電に投資する日本政策投資銀行の再生可能エネルギーファイナンス責任者、児井太郎氏
- 大和証券の戦略子会社として、再エネなどインフラ資産に投資する、大和エナジー・インフラ投資事業第三部次長、藤田学博氏
- 世界で11GWの太陽光発電および風力発電資産を保有する、ヴィーナ・エナジーのO&M部長、西川祐士氏。
- そして資源総合システム上席研究員、大東威司氏
ディスカッションは、「リーマンショックと比較して、新型コロナウイルスはファイナンスにどのようなインパクトを与えたのか?」というテーマから始まった。
日本政策投資銀行の児井氏によると、リーマンショックは金融危機が発端となり、その後、実体経済に波及していった。翻って、新型コロナはまず実体経済が強制的に停止させられ、実体経済の停止がファイナンスにどのような影響を及ぼしたのか、という順序の違いを指摘した。
そのうえで、リーマンショックはエクイティ性資金、ローン性資金いずれも目詰まりを起こし、プロジェクト開発でも資金ショートというシビアな事態を発生させた。一方、新型コロナはまだ最終的な趨勢が見えないものの、投資活動は一瞬止まったが、実体経済の回復の兆し、政府による矢継ぎ早のバックアップ施策もあり、投資マインド自体は大きく減退することはなかったという。
加熱するセカンダリー市場
太陽光発電に約300億円を投資する大和エナジー・インフラの藤田氏は、コロナ前後で変化したセカンダリー市場に言及した。メガソーラーなど大規模発電所になると、投資家は実査なしに購入することはありえない。だが、コロナ禍では実査ができず、発電所の売買はこの2ヶ月間止まっていた。その反動からか、緊急事態宣言が解除された途端、「ドバッと案件が降ってきた」という。
売りオファー増加の背景には、売買停止による反動やFIT制度の抜本見直しを嫌気した発電所売却、さらに新型コロナによる業績悪化から、開発権利売りも含めたノンコア太陽光資産の早期売却などがある。
一方、セカンダリー市場の買い手は金融会社、もしくは事業会社による投資、という2つの流れがある。
藤田氏は、「コロナ禍を経てわかったのが、金融系はリーマンショックの苦い経験もあり、実体経済がやられるなか、自社にも危機が及ぶのではないかという不安感から、セカンダリーへの投資は鈍化気味な中、事業会社の投資意欲はますます旺盛になっていることだ」と指摘する。
事業会社とは、藤田氏によれば、「FIT買取期間終了後も、発電所に十分な経済性を見込みる人たち。つまり、自分たちで再エネ電力を売れる人たち」を指す。
こうした事業会社中心に、買いオファーが殺到している。その要因として、乱高下した原油先物のボラティリティを嫌った国内回帰などがあるが、本質的な理由は「FIT制度に基づく太陽光発電所は、どれだけ実体経済が悪化しても、FIT買取価格が下がることがなく、キャッシュフローを確実に生む。実体経済と相関性のない、オルタナティブアセットとしての魅力が再評価されている。今後ますます資金が流れ込んでくるのではないか」(藤田氏)とのことだ。
さらに売り圧力、買い圧力いずれも高まる中で、藤田氏は「開発権利の売買価格含め、セカンダリー価格は上昇するだろう」と予想した。
コロナがO&MのDX化を進展させる
続いて、「O&Mへの影響はあったのか?」というテーマでディスカッションが行われた。
この問いに対し、ヴィーナ・エナジーが日本で保有する約400MWの発電所のO&Mを統括する西川氏は、「定期点検の遅延、あるいは停電時の復旧作業など、フィールド業務に対する影響はなかった」と応じた。
さらに「開発への影響はあったのか?」「ロックダウンにより、日本の消費電力量も減少したが、消費電力量はコロナ前に戻らないという予測もある。消費電力量の減少は、将来の発電所の安定性に影響するか?」という質問が投げかけられた。
まず開発だが、コロナ禍によって開発が滞った事例はまだないという。さらに西川氏は、「FIT取得済み案件を抱えており、大型発電所の建設が継続するため、2~3年の間は特に大きな影響はないだろう」と述べた。ただし、消費電力量の減少に関しては、「開発の遅れに直結することはないが、出力抑制が増えれば、その分、売電収入が減る。収益性が落ちれば、開発意欲の低下が波及する恐れがある」と指摘した。
コロナ禍を通し、さまざまな製品に対し生産拠点の国内回帰を訴える声が高まった。では、製造拠点がすでに中国に移った太陽光パネルの国内生産回帰は現実的に起こるのだろうか?
この問いに対し、オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントの百合田和久氏は、「コロナの現状のインパクトでは、シフトバックするほどのきっかけにはなっていない、というのが日本メーカーの感覚だ」と話す。
では、コロナはO&Mの高度化・効率化を促すのか?
百合田氏は「オペレーションを高度に管理すれば、変動電源である太陽光発電でも、明日どれだけ発電するのか、発電量をグリッドオペレーター(送配電事業者)に対してコミットできるようになる」という。
オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントは2018年の設立以来、オリックスグループが保有する全国80ヶ所、約450MWの発電所を管理してきた。この経験から、「デジタル化を進め、過去のデータログと明日の天気予報を組み合わせたうえで、適正なメンテナンスをやれば、O&Mは明日の発電量予測を可能にする」という。ただし、デジタル化には投資が必要だ。「その投資を促すような、例えば、明日の発電量を予測できるメガソーラーと全く予測できないメガソーラーでは、カーテイルメント(負荷抑制)が違う、といったインセンティブが導入されれば投資は進む。O&Mは現状、ブルーワーカーのマネジメントという想像の域を出ないが、O&MのDX化によって発電量予測などが可能になれば、グリッドオペレーターによる需給調整にも寄与する。高度化したO&Mはエネルギーミックス実現の一翼を担うだろう」と語った。
販売・施工店など中小企業は苦境に
最後に大東氏は、「太陽光発電業界の中でも、やはり末端のインストーラーや販売店は苦しい状況にある。大手のEPCやO&M企業は、バリューチェーンのつながりを意識して、中小企業に仕事を回すような活動をすることが重要である。もし中小企業が連鎖倒産すれば、その影響は大手企業にとっても大きい」と指摘した。
新型コロナはセカンダリー市場の流動性を高め、O&MのDX化促進などポジティブな面をもたらしたが、地域の施工・販売店などへは暗い影を落としたままだ。また、消費電力量が減少し、日中の卸取引価格はゼロ円付近にまで下落した。ゼロ円という卸価格が今後も継続するならば、早ければ2021年度から導入されるFIP制度のもとでの発電所開発に大きな影響を与えるだろう。
大東氏は、「日本における太陽光発電の普及拡大が止まらぬよう、政府にさまざまな支援策導入を訴えていくべきだ」と語ったが、支援策の導入は可能なのか。今後も市場動向を注視する必要がある。
(Text:藤村 朋弘)