PV-Net都筑建氏に聞く 2019年の卒FITユーザーが本当に考えていること
まもなくFITを卒業する人たちが出てくる。これは国内初の卒FITとなる。
2019年11月に卒業するのは、メガソーラーなどの大規模発電事業者ではなく、住宅の屋根に太陽光発電システムを載せた個人ユーザーたち。2019年度中に56万件という卒FITユーザーが排出することになるのだが、当の卒FITユーザーたちはこれをどのように捉え、どんな行動を取るのだろうか?
個人住宅の屋根で太陽光発電を行っているユーザー団体、NPO法人太陽光発電所ネットワークの代表理事、都筑建氏に話を伺った。
卒FIT56万件と言う数字は一人歩きではないか
太陽光発電所ネットワーク(以下PV-Net)は日本全国にいる自宅で太陽光発電を行うユーザー、約2,500人が参加する市民コミュニティで、2003年5月に設立した団体であり、筆者も2003年秋から加入しているメンバーだ。
もともと非常に情報が少なかった太陽光発電に関し、設置者同士で情報共有をすると同時に、交流、相互支援、また再生可能エネルギーを広げる活動をPV-Net全体として、また各地域ごとに分かれても活動してきた団体でもある。
−まもなく2019年11月になります。これによって大量の卒FITユーザーが出てくることになりますね。
都筑建氏:2019年度に卒FITになるユーザー数が56万件と言われています。でも、この56万件という数字も、どこまで正しいのだろうか……と疑問に感じています。これは一般財団法人 新エネルギー財団(NEF)や一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)が、過去の補助金などの手続きを元に算出した数字にすぎません。
確かに補助金を交付した数はそうだろうけれど、実際には転居したり、亡くなったりした結果、家を壊したり、よくわからなくてシステムを取り外してしまうケースも多くあると思います。56万件というのは、あくまでも最大数。実際には少なくても1割程度は減っているのではないでしょうか?
−とはいえ、50万件程度は卒FITを迎えることになると思います。みなさん、卒FITに対策を立てたりしているのでしょうか?
都筑氏:おそらく7割近くの方が、その事実を知らない、もしくはよくわからないなどで、とくに何もアクションをとらないのではないかと思っています。
−大量の卒FITユーザーの7割が無関心ということですか?
都筑氏:今年1月、消費者庁の消費者安全調査委員会が、住宅用太陽光発電の火災事故の調査結果を公表しています*1。これに関する調査の中で「あなたのご家庭で所有する太陽光発電システムに関して、業者による保守点検は、どのように実施していますか」という調査を1,500人に対して行っているのですが、そのうち7割が「実施していない」という回答をしているんです。改正FIT法によってメンテナンスは義務付けられているのにも関わらず、放置されているに等しいんですね。また、「『太陽光発電システム保守点検ガイドライン【住宅用】』の存在を知っていますか」の回答に至っては9割以上が「知らない」と答えています。
このようなことから考えても、やはり7割は実質的に無関心である、と考えてもいいのではないでしょうか?
−別の見方をすれば、PV-Netの会員の方は、残る3割の方々で構成されていると考えるとよさそうですね。
都筑氏:そうだと思います。PV-Netの会員は、周りから情報を得たり、自分から情報を取りに行くという意味で3割のほうに入ると思います。一方で、7割の方々に対しては自律的に動くことを期待するのはなかなか難しいでしょう。
卒FITの人たちに対してのビジネスというのが新たなビジネスとして注目されてきているようですが、3割の人たちへのアプローチと7割の人たちへのアプローチはまったく違ってくると思います。
また3割の人たちの中でも、結構な数の人たちが、自分たちでどういうビジネスを作っていけるか、と模索してもいるのです。まさに太陽光発電におけるプロシューマーがいよいよ動き出す、ということなのではないでしょうか? もっとも自分をプロシューマーだ、と言っている人は少ないですが、我々がセミナーなどをやっているときに発言してくる人たちは「自分はどう動くのがいいだろうか?」というところから始まります。何かに頼るのではなく、自ら得か、損かも判断していくので。
今年の卒FITユーザーは20年選手が多い
都筑氏:そしてもう一つ大きな特徴として言えるのは、今回卒FITを迎える56万件の人たちは、20年選手が多い、ということです。
−私自身もそうですが、FIT制度があるから太陽光発電を始めたのではなく、もっと以前から始めていて、気づいたらFIT制度がスタートした、というパターンですよね。
都筑氏:そうです。住宅の屋根に載せた太陽光発電を電力会社の系統と接続が許可されたのが1993年、その太陽光発電に補助金が出るようになったのが1994年で、ここから住宅用太陽光発電の歴史がスタートしたわけですが、その早い時期から始めていた人たちが、かなりの数いるというのが、2019年度に卒FITを迎える人の大きな特徴です。
儲かるから、得するから、と始めた人たちとやや意識が異なるため、2020年度以降に卒FITを迎える人たちとは、少し分けて考えてもいいかもしれません。
−3割と7割の話は、全体の調査でしたから、2019年度の場合は、積極的に考える人達が3割よりは多いかもしれませんね。
都筑氏:確かにそうかもしれません。この20年選手のところには、他とはもう少し異なる課題もいくつかあります。
1つ目は、システム的な寿命が来ていて、続けるか、辞めるか、リプレースするか、の選択を迫られているケースがあるということ。パネル自体は問題なく動いているケースが多いですが、とくにパワコンは寿命を迎えているので、全体を見直す人も少なくありません。
太陽光発電システムのグリーン相続
都筑氏:そしてもう一つ大きいのが、そうした方々が高齢化している、という点です。次の世代へ引き継げていればいいのですが、そうでないケースがかなり多く見受けられます。どのようにしてグリーン相続を実現するかが大きな課題になってきているのです。
−グリーン相続とは何ですか?
都筑氏:太陽光発電システムのような環境価値のあるものを、どのように次の世代へ相続していくか、というテーマです。太陽光発電システム込みの住宅をそのまま相続していくのか、廃棄物ということでリサイクルの問題として対処するかなど、難しい岐路に立たされています。ハッキリと0か1か、ではないにせよ、そこにプロシューマーの考え方が底辺に残っていて、これが社会現象になっていく可能性がある。
つまり、必ずしも子供や孫にグリーン相続するのではなく、たとえば自治の自治会に引き継いでいく、といったことも出てくるのではないか、と。
2019年の卒FITユーザーは売電先をどう選択するのか
−なるほど、いろいろな課題もあるようですが、改めて卒FITの人たちは、今回、売電先の選択をどのようにするのでしょうか?
都筑氏:2016年4月に電力小売りの自由化がスタートしました。そのときは、よほど先進的な人や、原発嫌いの人たちの一部が動いたに過ぎない状況だったと思いますが、2019年11月、いよいよ自分で選択するときが来たという思いを持つ卒FITユーザーは多いと思います。
ただ、卒FITは売電価格が従来よりも大幅に下がるため、売電して儲けるという発想ではなく、自家消費するかが一番の課題。そこをいかに最大化するかを考えると同時に、環境価値の活用を真剣に考えるステージになったと思います。
その意味では、どの電力会社を選ぶかということよりも、バッテリーなどにより大きな関心が向かっているように思います。強いていえば、仮想的なバッテリーの仕組みではありますが、電力の預かりプランのようなものには興味を持っている方が少なくないと思います。
−確かにこれまで48円/kWhで売電できたわけですが、8.5円も9.0円も大差ないように感じるところです。とはいえ、バッテリーはまだまだ高価で、なかなか手が届きにくい状況です。
都筑氏:リチウムイオンが主流とはなっていますが、鉛蓄電池の可能性も含めて、みなさん関心を持っているようです。いまどういう種類があり、どのくらいの価格で、どんな特徴があり、寿命がどのくらいなのか……、そうしたことを見定めている段階ではないでしょうか?
三菱総研が、「戸建住宅では一般的な家庭において6万円/kWhにおいて5kWhの蓄電池でストレージパリティ(損益分岐点)に到達する」という調査結果を発表しています*。現時点ではそこまでには至っていませんが、そこに到達すれば黙っていても普及していくでしょう。
もっともこれはPVの世界で何かが進むのではなく、電気自動車側の普及具合によってバッテリー価格は変わってくるので、我々はあくまでも受け身の状態。今できることがあるとすれば、中古の電気自動車(EV)を購入して、これを活用することですが、現状中古EVの数は極めて少ない。そうしたことも含め、多角的に考えていきたいところです。
−中古車の話が出たので、最後に太陽光発電システムの中古市場についての現状や、その辺についての考え方をお聞かせください。
都筑氏:先ほどのグリーン相続にも関連するところですが、現在、国内ではPVの中古市場が皆無に近い状態であるため、家を壊すことになったらPVも破棄するしかない状況です。国内で自動産業が大きく発展した背景には中古車市場があり、これによって循環サイクルができているからです。
太陽光発電はそれができておらず、中古市場をJPEAが拒んでいるのが大きな要因です。これは大きな問題であり、今後卒FITを迎える人がどんどん増え、いずれは産業用も卒FITを迎えることを考えると、中古市場の構築、整備を急ぐ必要があります。
もちろん、単にモノの売買だけでなく、家を売らずに屋根を貸すなど、さまざまな仕組みも含めて考えていかなくてはならない段階に来ていると思います。
−ありがとうございました。
(取材・執筆・撮影 藤本健)