エネルギー業界のヒントになる5つのxR活用事例と応用アイデア - 海外エネルギーテック最新事情 | EnergyShift

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エネルギー業界のヒントになる5つのxR活用事例と応用アイデア - 海外エネルギーテック最新事情

エネルギー業界のヒントになる5つのxR活用事例と応用アイデア - 海外エネルギーテック最新事情

2019/12/03

AR、 VRという言葉、テクノロジーはもうすっかり市民権を得た。そこに、複合現実であるMR(Mixed Reality)を加えたテクノロジー群を、xR(エックスアール)と呼んでいる。これらの技術的進化は目覚ましく、各産業の手法を塗り替えてきている。では、エネルギー分野にこのxRを活用すると、どのようなことが起こるのか?その事例とアイデアを、エネルギー診断クラウドサービス「エネがえる」の樋口悟氏が紹介する。

エネルギーテック、エネルギーのデジタル化といったテーマが今ホットだ。そこでは、蓄電池やEVを利用した電力消費の最適制御、スマートメーターのデータ利活用、VPP、ブロックチェーンを活用した電力P2P取引などがホットな話題になっている。先日発表があったNTTの独自送電網整備へ6,000億円投資というニュース、経産省がリリースした地域の配電事業に免許制というリリース等をみてもわかるように、2020年以降、いよいよ本当の電力自由化が始まる。

本コラムでは、こうしたエネルギー業界の流れで確実に重要性を帯びるxR(AR・VR・MR)に着目して海外事例や応用アイデアを紹介していきたい。

すでに社会に広がっているxR

xRとは、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)の総称だ。
言葉の定義はGoogleで検索すれば多数出てくる。それよりもYoutubeでキーワード検索して動画で体感いただきたい。代表的事例として、以下に示しておく。

私がエネルギー業界におけるxR活用に着目している点は以下の3点だ。

1つ目は、5G普及を背景にGAFAM*1や中国BATH*2のメガプレイヤーが主要な戦略にxRを置いていること。特に2022年〜2025年にリリースされると予想されるAppleのARデバイスは、脱スマホのトリガーになるだろう*3

2つ目は、xRは、日本企業の最大の経営リスク「人材不足・高齢の熟練技術者引退・インフラ老朽化対策」を解消できるコア技術になること*4。すでにマイクロソフトが提供するMRデバイス「Hololens2」は上記の経営課題解消のため日本の大企業を中心に購入希望が相次いでいる*5

マイクロソフト Hololens2

3つ目は、xRがエネルギー業界の「コスト削減」「既存事業の変革」「新規事業の創出」と、あらゆるレイヤーで利活用できること。短期では例えば送配電網や各設備の運用保守効率化、中期ではxRデバイスから得られるデータ利活用、長期では顧客体験の変革が想定できる*6

それらを予兆するように、すでに海外エネルギー業界でxRの活用が活発化している。エネルギー産業は2018年だけでARスマートグラスの出荷の17%を占めており、その市場規模は2022年までに180億米ドルに拡大するという報道もある*7

それではここからxRの海外事例と応用アイデアを皆さまにご提示したい。

5つの海外事例と応用アイデア

まずは、コンシューマー(顧客体験を変える、共創する)の事例とアイデアを一つ紹介する。

事例01:IKEAのAR家具試し置きアプリ「IKEA Place」

概要IKEA Placeは、イケア製の様々な家具(約2,000種)の3Dモデルを部屋の中にAR表示することで「試し置き」ができるスマホアプリだ。自分の部屋にAR表示した家具の写真を撮影して、友達や家族にシェアすることができるため、一緒に購入検討もしやすい。「IKEAはエネルギー関係ないだろ!」と激しくツッコミが入りそうだが、応用可能な事例なため、あえて掲載した。

ここがポイント「試し置き」による購入前の不安解消。さらに「商品開発中」でも試し置きして予約注文を取れる。「顧客と共創(巻き込む)」により、設置・施工前の現地調査を短縮することも可能になる。

応用アイデア 急速な普及が見込まれる家庭用蓄電池の「試し置きアプリ」を蓄電池メーカーが無償配布する。顧客の購入率アップに繋げられないか? その画像・動画データを施工業者と共有することで、設置・施工の時間を圧縮できないか?

次に、エンタープライズ(現場の保守運用・メンテナンスの効率化など)の事例とアイデアを3つ紹介する。

事例02:Real Wear-ヘルメット型ウエアラブルARデバイス

概要Real Wear(ドイツ・バンクーバー)は、エンタープライズ領域のARデバイス開発会社(ヘルメット型)だ。 石油、電気・水道・ガス業界、運送業など厳しい職場環境で勤務する現場労働者がターゲット。たとえば、風力発電電塔など危険な現場作業でも、リモートで熟練技術者にビデオ通話でアドバイスを受けながら、目の前のARカメラに映る複雑な修理等を一発で完了できる。また、10言語(日本語対応済)で使用可能な同時翻訳機能により、急増する多国籍チームでもスムーズに作業ができる。

ここがポイント厳しい現場作業者にフォーカスし、防爆・防水・防塵・耐衝撃対応のヘルメット型を採用。 危険で複雑な作業を行う現場労働者の人材不足を、「ARによるマニュアルレス×熟練技術者のリモート活用」により解決している。日本国内でもすでに鉄塔や送電線等の運用保守へのxR活用の研究が大手電力会社で実験されている。

応用アイデア 送配電網やプラントはもちろん、よりコストダウンと軽量化が進めば、家庭向けの各種エネルギー機器の設置・施工の領域でも活用できる。また、消防や防災対策としてのデジタル化されたヘルメットとして個人への導入も将来的には考えられる。

事例03:Fieldbit - Field Service Augmented Reality

概要Fieldbitは、フィールドサービス向けのリアルタイムARコラボレーションプラットフォームのリーディングカンパニー。世界最大エネルギープロバイダーの一つENGIEのInnovation Weekでエネルギーセクターの革新的なプロジェクトとして受賞した。石油&ガスおよびその他のユーティリティ、印刷、生産、医療機器を含む幅広い産業を支援している。
スマートグラスとスマートフォンを使用し、ARデバイスを持った現場作業者と熟練技術者による遠隔サポートを最大限活用するために、IoTで接続された各種設備のデータをAPI経由で取得する。

ここがポイントフィールドサービスの生産性の向上、高齢化した労働力の活用にフォーカス。一発で修理を完了させる「初回修正率」を高めることを志向。市販のスマートグラスやスマホでも実行可能。

応用アイデア 既存の送配電網・鉄塔・プラント等の保守管理にxRソリューションの導入が進むのは当たり前になる。ここで面白いのは、xRの導入は、「老朽化した設備の予兆保守・修理の効率化」と同時に、今まで見えなかった現場作業が「ARクラウド等の技術により、自動的に共有可能な3Dデータ化ができる」、さらに「遠隔操作により引退した高齢熟練技術者のリソースを活用できる」という点だ。

この点に着目した事業を立ち上げれば、誤解を恐れずに言えば「ダサくてつらい現場作業」を「最先端でデータドリブンなクールな職業」に転換し、さらには「今まで働く場のなかった多様な人材に雇用を作れる」ことになる。例えば、Fieldbitのようなソリューションを土台にした「世界中の熟練技術者を日本国内の人材不足に悩む現場作業にマッチさせる新しいクラウドソーシング事業」が作れるだろう。これはSDGsのビジョンを具現化する取り組みにもなる筈だ。

事例04:Interplay Learning - VRと3D技術を活用した太陽光発電オンライン教育

概要Interplay Learning社はテキサスに拠点を置くオンライントレーニングの開発企業。機械、電気、工業分野の従業員向けの学習プログラムを提供している。空調設備や太陽光発電を設置するための現地調査、実際の設置作業、試運転、トラブルシューティングについて、3DとVRを活用することで効果的な研修を実現している。Youtubeで大量に動画をアップしているので、動画を見ていただくとわかりやすいだろう。

ここがポイント世界のエドテック(教育分野)の市場規模は今後も拡大し、2030年は10兆ドルに達するとされている。VRを用いればリアリティ・没入感が飛躍的に向上するため、学習効果は高くなるという研究結果がある。日本でも太陽光施工不具合による事故など課題は数多いため、こういったVR学習支援は成立すると考えられる。

応用アイデア 再エネ産業は今後ますます拡大する。また、すでにAdobeがiPhoneやiPadでプログラミング不要でARコンテンツが制作できる「Adobe Aero」をリリースしたように、今後、xRコンテンツは誰でもカンタンに作れるようになるだろう。そこで、第三者としてエネルギー領域に特化したVR学習支援事業を立ち上げる。すでに学習教材を開発している大手事業者と提携するのもよい。
産業用・家庭用の各種エネルギー機器の複雑な組み合わせをカバーできるVR学習支援コンテンツをメーカー・電力会社・販売施工会社を横断して、巻き込み開発できないだろうか?
そこでは国内TOPクラスの施工会社を口説き、ノウハウをVR/AR教材として知財化。サブスクリプション事業として拡販する際に収益の一部をライセンスフィーで支払うなど「真面目で地味だが腕のある施工会社」に新たな収益源を提供することも考えられる。

最後に、スマートシティ(国家レベルのDigitalTwinで都市を変える)の事例を紹介する。

事例05:Virtual Singapore(バーチャル・シンガポール)/ダッソー・システムズ

概要バーチャル・シンガポールは、国土全体の3Dモデルを作り上げ、シンガポールの建物や土木インフラなど様々な情報をリンクさせたデジタルプラットフォームである。予算は推定7,300万シンガポールドル(約60億円)。国土全体の環境や防災はもちろん太陽光発電や風力発電などのシミュレーションから商業施設の案内まで、幅広い活用を見込んでいる。仏ダッソー・システムズが提供する3Dモデル上でさまざまな都市向けシミュレーションが可能なシステム「3D EXPERIENCity」で開発された。日本でも、国土交通省が同様のデータプラットフォーム整備計画*8を発表している。

ここがポイントフィジカル空間とサイバー空間がリアルタイムで同期するDigital Twinの世界は国家レベルで推進されている。電力スマートメーターのデータ利活用も将来的に3次元のリアルタイムシミュレータに組み込まれ、総合的な都市設計やマネジメントに活用される。

応用アイデア 太陽光・蓄電池の経済効果・環境価値・災害時の価値を測るリアルタイム3Dシミュレータを開発し、街・都市単位の投資対効果を時系列で検証できないか?

まとめ:エキサイティングなエネルギー×xR

私もエネルギー領域での新規事業や事業開発に携わる身として自分ごととして、今回のテーマとしたxR(AR・VR・MR)活用を考えている。
そして、これから10年で日本のエネルギー業界は世界でも類を見ないxR活用セクターの一つになる。そんな世界を皆さまと一緒に作れたらとてもエキサイティングだ。この記事をきっかけに読者の皆さまと一緒にエネルギー領域でのxR活用を推進できたらこれほど幸いなことはない。

樋口悟
樋口悟

国際航業株式会社エネルギー部デジタルエネルギーグループ。エネルギー診断クラウドサービス「エネがえる」担当。1996年東京学芸大学教育学部人間科学課程スポーツコーチ学科卒業。1997年ベルシステム24に入社、2000年大手上場小売企業グループのインターネット関連会社で最年少役員に就任。2011年に独立起業。大企業向けにSNSマーケティングやアンバサダーマーケティングを提供するAsian Linked Marketingを設立し30以上の大手上場企業のプロジェクトを担当。5年で挫折。2016年国際航業株式会社新規事業開発部に入社しエネルギー領域の事業開発を担当。