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高いポテンシャルを持つソーラーシェアリング 普及を阻む3つの壁とは

2022年03月04日

具体的な3つの検討事項とは

具体的な検討事項としては、工学的視点農学的視点経営的視点の3つが提示されており、これはいずれも営農型太陽光発電の導入や普及において現に課題となっているポイントである。農業生産性を損なわない設備設計、自然災害にも十分に耐える設計と施工、また遮光環境を活かした農業生産のあり方や作物選定など、いずれも個別の事業者レベルで積み上げや検証は行われてきたものの、国としての体系的な研究・開発を欠いたまま9年が過ぎてしまっている。

また、単に農業と共存するといっても立地や農業生産の地域性によって様々なパターンが想定されるほか、農業者と発電事業者が別個となる事業スキームもあり、加えて農業生産への持続性に対する懸念から金融機関が融資に消極的となるなど、経営的な課題も幅広い。

望ましい営農型太陽光発電の普及に向けた検討事項について


出典:農林水産省 今後の望ましい営農型太陽光発電のあり方を検討する有識者会議 配付資料をもとに編集部再編集

これらのポイントは有識者会議において課題として整理・議論されていくことになるが、もう一つここには示されていないが議論となりそうなテーマがある。それは「何のために営農型太陽光発電に取り組むのか」である。冒頭でも挙げたみどり戦略では、食料・農林水産業の分野においてもグリーン社会の実現や2050年カーボンニュートラルの実現に積極的に貢献していく必要があるとしているが、営農型太陽光発電はあらゆる農業・農村において再生可能エネルギーの生産を両立させる取り組みとなり、この目的に適う。

また、みどり戦略では持続的な食料システムの構築の必要性も背景に挙げられているが、営農型太陽光発電によってスマート農業や電化農業機械と組み合わせた生産性向上、化石燃料の使用抑制による環境負荷の低減、災害に強い農村作り、農業者の所得向上による担い手の確保などが可能となる。他にも、気候変動に対する適応の観点から営農型太陽光発電の遮光環境を活用するといった視点も考えられるだろう。

今回の有識者会議は、位置づけの資料にもある通りこうした営農型太陽光発電の意義は前提条件として踏まえられていると捉えることが出来る。しかしながら、現下の国内における営農型太陽光発電の普及事例の状況から、優良農地などにおける農業生産性の低下に対する懸念の声も根強くあり、その立地を限定すべきとする意見も少なくない。

再生可能エネルギーは様々な自然資源からエネルギーを得るものであり、自然の豊かな農山漁村においてそのポテンシャルが大きい。みどり戦略の中でも、『農林漁業の健全な発展に資する形で、我が国の再生可能エネルギーの導入拡大に歩調を合わせた、農山漁村における再生可能エネルギーの導入を目指す』という記述があるが、2030年あるいは2050年を目標年次とする再生可能エネルギーの導入必要量を鑑みれば、農山漁村における導入拡大こそが国内における再生可能エネルギーの普及を牽引するものと言っても過言ではない。日本は大都市近郊においても多くの農地が今なお存在しており、そうした需給が近接した立地で食料とエネルギーの自給率を確保しつつ安定的に供給し続ける仕組みも構築していかなければならない

こうした前提条件を今一度確認し、関係する各主体において共通理解として合意しておくことによって、営農型太陽光発電の普及拡大に向けた個別議論がより具体性を帯びたものになっていくだろう。

 

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馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

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