CO2を直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」と呼ばれる技術が注目されている。DAC技術を活用し、カーボンニュートラルを一歩リードさせたとして最近話題になったのが、スイスの環境技術開発スタートアップ「クライムワークス(Climeworks)」だ。
クライムワークスの設立は2009年。2017年にチューリヒで年900トンのCO2を回収できる設備を開発し、世界で初めて商用化に成功した。空気中のCO2を分離・回収して永久に貯留する世界最大の設備「オルカ(Orca)」をアイスランドの首都レイキャビク近郊に設置し、2020年5月に着工、約1年後の今年9月に稼働させた。年4,000トンのCO2を回収できる。回収したCO2は野菜栽培や炭酸飲料の原料などとしても提供している。
「オルカ(Orca)」は吸い込んだ空気中のCO2を特殊フィルターで吸着させる。この特殊フィルターがCO2で飽和状態になった後、近郊にある地熱発電所からの廃熱を使用し、セ氏100度に加熱してCO2を分離させ、回収する。
回収したCO2は、アイスランドの企業「カーブフィックス(Carbfix)」が開発したプロセスにより、地熱発電所から施設に流れてくる水を利用して、800~2,000メートルの地中の玄武岩層に送る。このCO2が自然の鉱化作用によって、炭酸カルシウム(岩石)に変換され、永久に地下に貯蔵される。CO2の95%が2年以内に岩石になるという。
火山の多いアイスランドは、岩盤層の地質条件が適していることに加え、地熱エネルギー開発の最先端であるからだ。CO2の分離・回収には大量の熱が必要で、地熱発電の廃熱を活用できるアイスランドはCO2貯留に適している。
クライムワークスのクリストフ・ブトラー氏によれば、アイスランドは、鉱石化によって1.2兆トンのCO2を貯留するキャパシティーがあり、同国だけで、国際的な気候目標の達成のために除去する必要のあるCO2を全て地下に貯蔵できるという。さらに、輸送コストをかけずにCO2を永久貯留できる最適な場所は、地球上に多くは存在しないとされている。
独アウディ(Audi)は、クライムワークス社からCO2吸収量を「クレジット」(排出枠)として購入。1,000トンのCO2を除去することになり、CO2削減に寄与するとしている。米マイクロソフトは1,400トンのCO2を貯留する契約をクライムワークスと結んだ。
今後の更なる普及に向けた最大の障壁はコストが高いことだ。現在は1トンのCO2を取り出すのに600ドルかかるとされ、普及に弾みを付けるには最低でも200ドル以下にまで抑える必要があるという。
日本におけるDACの実用化は海外と比較すると発展途上である。今年5月に政府は脱炭素技術開発などを支援する2兆円の基金を活用し、DACについて、関連技術の開発支援を進めると発表した。温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標期限の2030年度までに、CO2濃度が10~数%程度の大気からCO2を分離・回収する技術の実用化を目指している。
政府による支援で日本国内でもスイスに続く技術開発が促進されることが期待される。
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