エナシフTVの人気コンテンツ「脱炭素企業分析」シリーズ。第20回は、水素エネルギー関連技術の開発を通じて、カーボンニュートラル社会に資する会社を目指す、川崎重工業を紹介する。
川崎重工業の株価は2018年1月をピークに2020年10月まで下落傾向が継続、一時はピーク時の3分の1まで下落した。現在は少し持ち直し、ピーク時の6割程度の価格で株価は推移している。株価上昇の要因は、水素関連株としての期待の高まりだろう。
業績を見てみると2020年度は売上高が1兆4,884億円、受注高が1兆4,024億円で、営業損益は53億円の赤字となっている。一方、2019年度は売上高が1兆6,413億円、受注高が1兆5,135億円、営業損益が620億円となっている。したがって、2020年度は減収減益となる。
セグメント別の売上高だが、航空宇宙システムの売上は3,777億円で、前年比1,548億円減と大幅な減収となっている。コロナの影響による航空機需要の大幅低下や、脱炭素時代に向かう中でCO2排出量の多い航空機を敬遠する流れなどが原因だろう。
他分野の売上はエネルギー環境プラントが2,401億円、精密機械・ロボットが2,408億円、海洋船舶が794億円、車両が1,332億円となっている。特筆すべきはモーターサイクル&エンジンで、3,366億円と売り上げが非常に好調だ。
すでに発表されている2021年度の第1四半期では、過去最高の営業利益を記録している。航空宇宙システム分野は赤字継続だが、世界的なアウトドアブームの影響でモーターサイクル&エンジン部門の売上が好調ということだ。
川崎重工業の代名詞とも言えるのがカワサキのオートバイだ。その売上がモーターサイクル&エンジン部門の中でも非常に好調であったことが、過去最高の営業利益の一因だろう。
2021年度予想は売上高が1兆5,000億円、受注高が1兆4,800億円で、営業損益は400億円を見込んでいる。
(注:2021年10月1日より、車両カンパニーは川崎車両株式会社に、モーターサイクル&エンジンカンパニーはカワサキモータース株式会社に分割された)
川崎重工業の歴史は、1878年、川崎正蔵氏が川崎築地造船所を設立したことに始まる。その後、1896年に川崎造船所として法人化している。
1911年には国産蒸気機関車の第1号を製造した他、戦艦などの製造も手掛け、1922年には航空機乙式一型偵察機を製造、その後も航空機製造を継続していく。川崎重工業に商号を変更したのは、1939年だ。
戦後、1950年には製鉄部門を川崎製鉄として分離、その一方で、1969年には分離していた川崎車両(電車などの製造を行う会社)と川崎航空機工業を合併して今の体制になった。その後、航空機用ジェットエンジンを利用したガスタービン発電機の製造、船舶用エンジンを利用したエンジン発電機の製造も開始、これが、川崎重工業のエネルギー事業の始まりとなる。
川崎重工業は、今後業績を回復、成長させるポイントに、非連続イノベーションをあげている。それがどのようなものなのかは、次の図に表されている。
ここでいう非連続イノベーションとは何かといえば、商品の改良を繰り返して商品を成長させ、商品成長の結果として市場規模が成長、成熟して拡大する、といった従来型のイノベーションとは全く異なるものだろう。これまでとは大きく異なった視点から、新製品や新システムを製造、構築することで成長を遂げる、というものとなるのではないだろうか。
新製品や新システムといった非連続イノベーションの中でも、水素事業は川崎重工業の柱となる事業となっている。4月には本社に水素戦略本部を設置しているが、これは、川崎重工業は社を挙げて水素事業に取り組む、と対外的に宣言したことを意味する。
では、具体的にどのようなプロジェクトが進められているのだろうか。
直近の代表的なプロジェクトの一つに、オーストラリアで進められている、岩谷産業などと連携して進行中の案件がある。これは、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いてグリーン水素を製造し、日本に輸入するというものだ。
もちろん、水素を製造するだけではなく、水素の液化や積み出しの基地、液化水素運搬船、受け入れ基地など、水素サプライチェーンに関する技術開発も必要だ。2021年1月には、水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の着桟試験も行っている。そして、水素を使う技術開発として、水素発電プラントの実証試験も進行中だ。
まさに、グリーン水素を製造から輸送、貯蔵、発電、供給まで一貫して行うのが川崎重工業の水素プロジェクトだということだ。現在、技術実証が進行中、2025年には商用実証を開始し、2030年の商用化を目指す。
川崎重工業が手掛ける水素事業の事業規模について、どのように予想しているのかというと、2025年には1,000億円、2030年には3,000億円、2040年には5,000億円になるということだ。
水素以外では、コロナ禍における移動式PCR検査なども実施していることにもふれておく。これは、一連の検査キットを積んだトラックを運用、日本全国どこでも検査可能なPCR検査を実施するというものだ。
また、ソニーグループとは5月に合弁会社を設立、人間には危険な作業や重労働をロボットに任せ、人間の危険作業における負担軽減や、危険作業の回避を目指すという。
こうした取り組みも先述の非連続イノベーションの1つだといえよう。
こうした中にあって、川崎重工業の将来の要は水素事業ということになる。その上であえて言えば、本当に水素一辺倒で大丈夫かどうかは疑問が残ることも、指摘しておく。
川崎重工業の脱炭素は、水素推しといえる。もちろん、脱炭素に欠かせない再エネ事業にも取り組み、廃棄物発電も手掛ける川崎重工業ではあるが、水素事業を最優先にしているようだ。これまで培われた技術などをもとに、エネルギー分野では化石燃料から水素にシフトしていこうということだろう。かつての産ガス国・産炭国だったオーストラリアでグリーン水素を製造し、運搬、水素貯蔵、水素発電まで、水素事業を徹頭徹尾、一貫して会社全体で取り組んでいくということだ。
一方、課題となるのは、水素事業が期待通りに成長するかどうかだ。再エネの電気をわざわざ水素にすることについて、経済性があるのかどうかということが、懸念される。また、経済性を持つとしても、そうなるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。このようなリスクを鑑みると、過度な水素事業への依存は懸念材料だ。その上で、非連続イノベーション全般には期待したいところだ。
(Text=MASA)
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