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経済大国「中国」の脱炭素に関する本音とその奥にある動機とは

2021年11月26日

短期・中期的の脱炭素は避けたい中国のエネルギー事情

さて、COP26で明らかになった中国の本音の根源は何なのか。②中国のエネルギー事情の概観に触れていきたいと思う。

まず見てほしいのは、各国の一次エネルギーの構成比率だが、中国においては圧倒的に石炭の比率が高い。ちなみに、グラスゴー合意文書に反対したインドも、同様に高くなっている。

このうち、一時エネルギーの半分以上を石炭で賄っているのが中国だ。石炭にエネルギー源を頼っているといえば、よく日本がやり玉に上げられるが、確かに発電では石炭火力発電の比率が高いものの、一次エネルギーにおける中国との比較では、まだまだかわいく見える。

主要国のエネルギー構成(2015年)

つまり、中国の生命線は目下、石炭なのだ。石炭に何かがあると中国はエネルギー供給に支障をきたしてしまう。そんな構造が出来上がっているのだ。

では、なぜ中国はこんなにも石炭を使ってきたのか。そこにはエネルギー自給が関係しているが、これが中国にとって、ものすごく大事な指標となる。

中国の直近のエネルギー自給についていえば、2020年の自然資源部の発表によると、エネルギー自給率は81.7%。非常に高いといえる状況だ。

実は中国は原油生産が第7位。そして天然ガスも生産をしているのだが、こちらについての自給率はどうかというと、実はどんどん輸入比率が上がっており、原油も天然ガスも世界最大の輸入国になっているのだ。

原油も天然ガスも世界最大の輸入国でありながら、なぜ中国はエネルギー自給率を高く保てているのか。それは、石炭を自国内生産できているからだ。石炭について、中国の自給率は約9割と非常に高い格好になっている。

1日あたりの原油の生産量の多い国

中国における天然ガス需給と対外依存度の推移

そこに加えて、中国政府は「エネルギー自給率は高く保ちたい」という考えを持っている。国家能源局によると、中国は第13次五カ年計画期間中に積極的にエネルギー供給改革を推進しており、その結果、エネルギー自給率は常に80%以上を維持するなど、中国のこだわりの強さが伺える。

さらに中国の石炭事情に関していえば、豪州からの輸入を停止して10%弱の石炭輸入量のところが絞られてしまったことや、国際的な石炭価格に連動して中国国内の石炭の価格が上がってしまったこと。そこに中国の電力会社に課せられている電力価格抑制策が組み合わさって、電力危機になったという事情がある。

そして、こうした電力危機は中国にとって何よりも優先したい経済成長を阻害することになるので、中国はどんどん「石炭の在庫を増やせ!採掘しろ」という指示を出した。

具体的には、8月の段階で中国政府の関連部門は石炭不足による発電機停止を防ぐため、各主要電力企業に対し、短期的に発電所の石炭在庫レベルを引き上げる旨の通達を発出。石炭不足の深刻化を受け、それまで禁止してきた豪州産石炭の荷下ろしを始めたとの報道もあったくらいだ。

これらの取り組みの結果、国内石炭の増加については8月からの累積が年間換算で1.2億トンの生産能力を増加し、12月までに合計5,000万トンを増産できる見通しとなった。また、輸入石炭の増加についても9月に輸入量が再び3,000万トンを超過している。石炭について積極姿勢を出しているのだ。

たまに、中国は脱炭素を優先という報道が出ることもあるが、これを見れば、実態が分かるだろう。

つまり、中国のエネルギーの生命線は、とにもかくにも現在は石炭。石炭に影響が出れば国家として一番危ぶんでいる電力危機にもつながる。実はこのことは、彼らの脱炭素政策にも関係してくるのだ。

石炭が必要な中国が、なぜ再エネに取り組むことにしたのか…次ページへ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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