電気料金の支払いのもとになる電力計は、スマートメーター化が進んでいる。また、このメーターのビッグデータを活用しようという動きも見られている。その一方で、2024年以降の導入が目される次世代スマートメーターの検討も進んでいる。VPPに必要とされる特例計量制度などについての議論も含め、2021年9月1日、7ヶ月ぶりに開催された、経済産業省の第6回次世代スマートメーター制度検討会についてお伝えする。
審議会ウィークリートピック
2021年9月1日にデジタル庁が発足した。奇しくもその同日、電力分野デジタル化の中核的ツールとなるスマートメーターの次世代化を検討する「次世代スマートメーター制度検討会」の第6回会合が開催された。
現行世代(第1世代)の低圧スマートメーター(以下、スマメ)が検定満了を迎える2024年度には次世代(第2世代)のスマメが導入されるため、次世代スマメの標準機能等に関する議論が昨年度から進められている。今年度のスマメ検討会では、昨年度から積み残された低圧スマメに関する論点および高圧・特高スマメに関する論点を中心に、検討が行われる予定である。
本稿では主に低圧スマメについて、検討会の概要をお届けしたい。
昨年度の中間とりまとめにおいて、次世代スマメの目玉機能とされたのがLast Gasp機能である。
Last Gaspとは停電発生時にスマメが信号を発する機能であり、これにより一般送配電事業者は、低圧各戸の停電発生状況を速やかに把握することが可能となり、停電の早期解消が期待されている。
他方、この機能を実現するためには、すべてのスマメに新たに蓄電池を搭載する必要があるため、コスト増加が大きくなる。昨年度の試算では、便益(スマメの有効期間である10年間)が920~1,500億円と想定されるのに対して、費用は1,017~1,500億円に上ると試算されており、想定費用と便益が拮抗していた。
このため第6回会合では、停電検知を他の機能により代替することが検討された。代替手段とは、「スマメの30分値の活用」と「ポーリング機能」であり、いずれも現行世代スマメにも具備された既存機能である。
そもそも昨年度の検討会において、Last Gasp機能等の早期停電解消が重視された理由は、2019年の台風15号による千葉エリア等の長期大規模停電の発生であった。高圧線では通電が復旧した後にも、低圧線の断線等による、いわゆる「隠れ停電」の長期継続が問題視された。
仮に2019年時点でLast Gasp機能が実現していたならば、状況はどうなっていただろうか?
確かに、停電が発生したその瞬間には、数十万台ものスマメから一斉にLast Gasp信号が発信される。しかしながら、その後の高圧線復旧により各戸の停電が解消したか否かは、送配電事業者は(Last Gasp機能のみでは)検知することは出来ない。
家庭等の低圧需要家の停電を早期に解消するためには、「停電した」という情報よりも、「復旧したか否か」という情報のほうが遥かに重要となる。
図1.高圧線を伴う停電とLast Gasp機能のイメージ
出所:スマメ検討会資料を基に筆者アレンジ
この問題を解決し得る代替案の1つが、スマメの30分値の活用である。
平時に通電している際には、各戸の電力使用量30分値が60分以内に送配電事業者に届けられる。この30分値が取得できない状態であれば、停電の発生・継続が推測される。ただし、通信トラブルによる30分値欠落(欠測)も生じ得るため、隠れ停電検出の精度という点ではやや課題が残る。また60分のタイムラグは、停電の早期検出という観点では課題が残る(もちろん、従来どおり需要家自身が送配電事業者に電話等で連絡することを何ら妨げるものではない)。
図2.高圧線の停電復旧と30分値、ポーリングの活用
出所:スマメ検討会資料を基に筆者アレンジ
もう1つの代替案が、ポーリング機能の活用である。ポーリングとは送配電事業者の上位システムからスマメに問合せ信号を送信し、その戻り信号の有無により、スマメの状況を確認する機能である。
「30分値」、「ポーリング機能」のいずれか、もしくは両方を組み合わせることにより、かなりの確度で停電を早期検出できると考えられる。いずれもスマメの既存機能であるが、現時点ではこれら機能は早期停電解消のためのツールとして必ずしも活用されていない。
このため、送配電事業者のシステム改修等が必要となるが、現時点この費用は明示されていない。
第6回検討会では、「30分値」、「ポーリング機能」の活用が費用対効果の高い対策であるとして、次世代スマメではLast Gasp機能は採用しないことが提案され、委員の同意が得られた。
特例計量器とは、2022年4月から施行される特定計量制度に基づくメーターであり、家庭での太陽光発電や蓄電池、EVなどの分散型リソース(DER)を安価に計量することを目的としている。
DERのデータを、送配電事業者が統合的に取り扱うことにはメリットが大きいと考えられるため、どのようなルートで特例計量器データを通信するのかなどが検討されてきた。
第6回検討会では通信ルートとしては、Aルート、Bルート(IoTルート)、インターネットルートが比較され、その概要は表1のとおりである。
表1.特例計量器データの通信ルートおよび費用感
通信ルート | 概要 | 費用感 |
Aルート | 特例計量器にスマメの通信部を設置して、 特例計量器からHES / MDMS(メーターデータ管理システム)等にAルートで直接接続する | 625億円 |
Bルート(IoTルート) | Bルートで特例計量器からスマートメーターに接続したうえで、スマートメーター経由で、 Aルートを経由して、HES / MDMS等に直接接続する | 605億円 |
インターネットルート | ・ 特例計量器利用者が独自設置したゲートウェイ(GW)を介してインターネットに接続 ・インターネットを介して、一般送配電事業者が設置した特定計量システム(HESやMDMS機能等を有する)に 直接接続する | 800億円 |
出所:スマメ検討会資料を基に筆者アレンジ
いずれの場合も電力システムのセキュリティを重視する必要があるが、Aルートやインターネットルートでは、セキュリティリスクが高まることや、この対策コストが表1の試算金額にさらに上乗せされる可能性があることから、Bルート(IoTルート)を採用することが提案されている。なおAルートの場合、特例計量器自体がスマメのセキュリティ水準を満たす必要があると考えられる。
表1の費用試算の前提としては、10年間で95万台の特例計量器(1スマメあたり1台)が接続することが想定されている。これは約8,000万台存在する低圧メーターの1%強に過ぎない。DERの最大限の活用という観点では、次世代スマメが設置(2024年~2033年)、運用(2024年~2043年)される20年間では、桁違いに多数のDERが系統に接続される可能性がある。表1の試算はあくまで3つのルート間の相対的な比較をしたにすぎず、絶対値としての費用については、様々なシナリオに基づいた不断の検証をおこなうことが求められる。
また、一定の前提に基づいた便益金額(10年間)としては、表2のとおり約795~875億円と試算されており、スマメおよびMDMS(メーターデータ管理システム)で特例計量器データを扱うことのコストメリットは得られると試算されている。
ただし便益の大半は、需給調整市場三次②から生じると試算されている。市場はその取引量および価格とも、大きく変動し得るものであるため、便益評価についても過大/過少とならぬよう、不断の検証が必要であろう。
表2.特例計量器データ運用の便益試算(10年間)
便益の考え方と簡易的試算 | 便益金額 |
EVの設置15万台(年間1.5万台×10年間) スマメ(1台1万円)設置の省略 | 約15億円 |
EVの設置15万台(年間1.5万台×10年間) 需要家通信費の節約 | 約50~100億円 |
需要家のGW(1台1万円)の省略 10年間で80万台 | 約80億円 |
アグリゲーターによるシステム構築回避 | 約50~80億円 |
需給調整市場への分散電源の参加増加 三次②の市場規模1,200億円の5%×10年間 | 約600億円 |
合計 | 約795~875億円 |
出所:スマメ検討会資料を基に筆者アレンジ
現行世代の低圧スマメではBルート通信方式として、有線のPLCと無線のWi-SUN(920MHz)が備わっているが、次世代スマメではBルートを一層活用するため、IT機器で広く普及しているWi-Fi (2.4GHz帯無線)を追加搭載することが昨年度から検討されてきた(なお、Wi-SUNは次世代でも搭載される)。
しかしながらWi-Fiは、Wi-SUNと比べると障害物に弱く通信距離が短いことや、電子レンジ等の電波干渉に弱いなどの欠点が指摘されている。
無線通信技術の進歩は速く、10年~20年先といった将来にどのような技術が開発されるかを見通すことは困難である。
よってスマメ検討会では発想を大きく転換し、特定の無線技術を決め打ちするのではなく、新しい無線技術に対応する「柔軟性」を確保することを重視する観点から、汎用的な「接続ポート」をスマメに搭載することを提案している。
具体的には、接続ポートとしては「USB」が提案されており、USBは非常に汎用性が高く、安価であり、電源供給も可能というメリットがある。
図3.次世代スマメへの接続ポート搭載イメージ
出所:スマメ検討会資料を基に筆者アレンジ
しかしながら、スマメの大半は屋外に設置されており、雨水や夜露・朝露に晒されるため、新たな接続ポートおよび、そこに接続されるUSBドングル等は十分な防水性・対候性を確保することが求められる。
また、(引き続き搭載されるWi-SUNを除き)次世代スマメ側には接続ポートしか搭載しないということは、Wi-Fi等の無線通信機器は需要家による費用負担となることを意味しており、従来とは費用便益評価のバウンダリーが変化していることに留意が必要である。
なおスマメにUSBを搭載することは、新たなセキュリティリスクを抱える要因となるため、具体的な仕様については引き続き検討が進められる。
次世代スマメでは、ガスや水道メーターとの共同検針を可能とする方針が示されている。
このため、一般送配電事業者や計量器メーカー等の37団体の参加による「共同検針インターフェース会議」が2020年11月に設けられ、運用ルールやインターフェースなど、共同検針システムに求める基本的なルールが検討されてきた。
2021年8月に制定された「共同検針運用ガイドライン 第1.1版」では、検針粒度は最低1時間値とすることや、データ送信頻度は最低1日1回とすることなどが定められている(事業者間の協議により、さらに高頻度とすることは可能)。
ガス・水道メーター側の無線端末と電力スマメ間の無線通信方式の選定については、事業者に広い選択肢が残された結果となっている。
共同検針運用ガイドラインでは、下記①~⑤の中から最低1種類を採用した上で、2種類目として①~⑤以外の無線方式を採用することを妨げるものではない、とされた。
① Uバスエア標準
② Uバスエアスター型
③ Uバスエアベース案
④ Wi-SUN Enhanced HAN
⑤ Wi-SUN FAN 1.1
これは送配電エリアにより、共同検針用の無線方式が各社で異なる可能性があることを意味している。このため、資源エネルギー庁は送配電事業者に対して、少なくとも1種類は共通の無線方式を採用することを求めている。
送配電事業者は、次世代スマメの仕様統一をすでに宣言しており、「共通のガイドラインに準拠したが、実際に出来上がったものはバラバラ」ということの無きよう、仕様が共通化されることを期待したい。
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