テスラ、ボルボ、BYDも参入。「EVトラック」は生活も産業も大きく変える | EnergyShift

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テスラ、ボルボ、BYDも参入。「EVトラック」は生活も産業も大きく変える

テスラ、ボルボ、BYDも参入。「EVトラック」は生活も産業も大きく変える

2020年07月08日

電気自動車(EV)といえば日産リーフやテスラなど乗用車が一般に注目を浴びやすい。しかし国の経済を支えるトラックにも電動化の大きなメリットがあり、世界中で様々なメーカーが開発に乗り出している。現在、注目されているEVトラックにはどのようなものがあるのか、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が紹介する。

快適性と安全性を備えた大型トラック:スウェーデン・ボルボ

キャビン内の快適さや高い安全性が「いつかはボルボ」と日本の大型トラック運転手からも強い支持を受けているスウェーデンのトラック大手ボルボ・トラック*は、EVトラックの優位点について次のように紹介している。

  • ゼロエミッション:ディーゼルエンジン車から出される黒煙は深刻な大気汚染をもたらしているが、それをゼロにすることで環境の改善に大きく貢献する。さらに100%再生可能エネルギーで充電すれば走行に伴う温室効果ガス排出の実質ゼロを達成できるため、持続可能な社会の実現に向けた輸送の姿といえる。
  • 静寂性:ディーゼル・トラックは走行時の騒音や振動がかなり大きく、長距離・長時間の運行になればなるほど、それがドライバーに対してストレスを与えている。しかしEVトラックのキャビン内は極めて静かであるうえ、非常にスムーズに走行するため運転による疲労を著しく軽減してくれる。さらに電動パワートレインは機敏なレスポンスが得られ、運転時の疲れがたまりにくい。他方、トラックが出す騒音も大幅に減少するため早朝や夜間の走行が可能となり、日中における渋滞の解消にも寄与する。
  • 輸送力の増強:トラックの車両総重量は、日本だと大型が25トン以下、中型が8トン未満、そして小型は4~5トンとされている。しかしボルボ初のEVトラック「FLエレクトリック」だと27トンとなっているため数台の中・小型トラックを一台で代替することができ、配送の効率を上げるとともに道路の混雑も緩和する。
  • 高いエネルギー効率:ブレーキ時のエネルギー回生など、エネルギーの効率的な利用が可能となっており、燃費の改善にもつながる。

Volvo Trucks – Our first fully electric trucks in action

このようにボルボは従来のディーゼル・トラックでは実現できない多くのメリットを挙げており、EVトラックの更なる開発に強くコミットしている。

*ボルボ・グループの乗用車部門「ボルボ・カーズ」は1999年に米フォードへ売却されたのち、2010年には中国の浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディングス、Geely HD)に買収されたが、トラック部門「ボルボ・トラック」やバス部門「ボルボ・バス」は現在もグループ内の会社である。

多用途のEVトラックを生産:中国BYD

トラックは貨物輸送のほかにも様々な用途があり、例えば中国BYDのEVゴミ収集車は2017年から米国カリフォルニア州で運用されている。日本では一台の清掃車に何人ものスタッフが乗りこみ、集積スポットに停まるたびに人力で荷箱に投入してゆくが、BYDが開発したゴミ収集車は車体からアームが伸びてゴミ箱を高く持ち上げてゴミを荷箱に入れ、そしてゴミ箱をもとの場所に戻す。その間わずか12秒、ドライバー以外に必要なスタッフはゼロである。地方の財源不足や労働力不足が大きな問題となる日本においても、非常に求められている技術と言えよう。

GreenWaste of Palo Alto's All-Electric Refuse Truck

このほか密閉された鉱山内で資源や土砂などを運搬する車両や、温度管理の電力が必要な牛乳配達車などEVトラックが活躍の場を広げている。

トラックもスタイリッシュで高性能:米国テスラ

非常に斬新なデザインで有名なEVトラックと言えば米テスラ社のトレーラーヘッド「セミ」であり、2017年11月に開催されたプレゼンテーションの席上でイーロン・マスクCEOはその卓越した特長を発表した。

テスラ「セミ」発表会(2017年11月16日)
  • トレーラーをつながない状態で停止から時速60マイル(およそ時速96キロ)に達するのに必要な時間は一般的なディーゼル・トラックが15秒ほどかかるのに対し、「セミ」は5秒。
  • 米国の高速道路を通行可能な法定最大の車両総重量である80,000ポンド(約36.3トン)の状態でも、停止から時速60マイルに達するまでの時間はディーゼル・トラックが1分もかかるのに対し、セミはわずか20秒で到達する。
  • 登り勾配が5%の坂道の場合、ディーゼル・トラックの限界が時速45マイル(およそ時速72.4キロ)前後であるのに対し、セミは時速65マイル(約時速104.5キロ)。
  • 一回充電における航続距離は車種により300マイル(約483km)または500マイル(約805km)。東京=大阪間の距離が504キロであることを考えると、トラックによる一回の移動としては十分と言えるだろう。

既にセミはテスラ車の運搬に利用されているが、2020年6月10日にはイーロン・マスクCDOが社員に充てたメールで「セミの電池とパワートレインの生産はネバダ州のギガファクトリーで始まるだろう」と書かれていたことが明らかになった。したがって遠くないうちに納入が始まると期待されている。
ただし残念ながら日本では大型貨物自動車にスピードリミッターの装着が義務化されていて時速90キロまでしか出せないため、仮にセミが輸入されたとしても、その真価を発揮することは難しいかもしれない。

一方、テスラのトラックに対して大きく注目される技術が自動パーキングである。というのも大型トラック(とりわけフルトレーラー)の駐車は非常に高い技術が必要であり、上級者でも神経をすり減らす。しかしテスラは乗用車で既に自動パーキング技術を完成させており、そしてこのセミでは後部の四輪すべてが独立したモーターによって駆動されるため、トラックの全自動駐車が実現されれば運転手の負荷軽減になるであろう。

日本では「セミトラクター」「セミトレーラー」などの用語が運輸業界で浸透しているが、英語圏では「セマイ」と発音するのが一般的であり、テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOも発表記者会見において「セマイ」と発音していた。

テスラ サイバートラックの衝撃

テスラには「セミ」のほか、2019年11月に発表されて全世界に大いなる衝撃を与えた「サイバートラック」という電動ピックアップ・トラックもある。現状では「先鋭的なデザイン」や「卓越した安全性(頑丈性)」そして「普通車の価格なのにスーパーカー級の性能」などの点に話題が集中しているが、EVならではのメリットは以下の通りだ。

  • 14,000ポンド/約6.4トンもの牽引重量(トヨタが米国で販売するピックアップ・トラック“タコマ”は6,800ポンド/約3.4トン)
  • 電動の屋根が荷台をカバーするため、雨天時でも水滴がつかない
  • 先進的なサスペンションの結果、車高が16インチ(約40cm)も取れている
  • キャンピングカーなどとして利用した場合、電力の供給が可能

Teslaウェブサイトより
  • 荷台カバーが太陽光パネルになるオプションがあり、一日あたり15マイル(約24キロ)を太陽光発電の充電だけで走行可能
  • 既存のピックアップ・トラックと比べて燃料費が安いうえオイル交換などのメンテナンス費用も安い

しかしサイバートラックは今のところ不明な点も多く、今後は専用トレーラーが発売されたり、あるいはトレーラーも含めた全自動パーキング機能が実現するのではないかと見られている。

Teslaウェブサイトより

Teslaウェブサイトより
大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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